第3話「診断鏡」

今日はテントとは違い、スッと空気を切るやわらかな日光が体を包む。

修行に出て二日目。まだ、体が修行の感じになれていないのか、不思議な感覚がする。

ベットから立ち上がり、窓の前で背伸びをする。トリックムーン国の朝は、どこか神秘的な雰囲気が辺り一面を優しく包みこんでる中、人々がもう行き交っていた。

バタン!!!と大きな音がなった。音の方を向くと、リチャードが床に倒れている。

スピカはリチャードの体を揺さぶり、声をかけながらを起こした。

「リチャード!大丈夫??」

「おぉはぁよ〜大丈夫〜」

とすごい寝起きの声で、リチャードは言う。


二人は、眠気を抱えながらもサッと身支度を整え、宿の入り口でガイトとイレフと合流し、話し合っていた。

「朝飯どーするー??リチャード案あるか?」

「どーしようか…」

「そんなにガッツリ食べる感じじゃないんですよね…」

「うーん……。!?

昨日助けたパン屋の人の所に行ってみようよ!!」

「そうですね!!」

「名案だ!!」

「よーし!決まり!!教会前のパン屋に行くぞー!!」

「おー!!」


四人で教会前のパン屋に訪れた。店先からもパンの香ばしい匂いが食欲をそそる。

チャラン。ドアに付いている鈴が鳴り、店の奥から店主がやってきた。

「みなさん!昨日はありがとうございました!!」

「いえいえ!こちらこそありがとうございました!」

とスピカが話す。同時に、ぐぅ〜。と腹の音がなる。

「ははは!!お腹がとても空いているのですね!昨日のお礼でパンをごちそうします!!」

「いいんですか!?」

「はい!また、これから皆様、修行場所を教えてもらいに行かれるのですよね!結構時間がかかる場合もあるので、しっかりと食べていってください!!」

そして、スピカたちはパン屋の店主の厚意でパンをごちそうになり、教会前の噴水に腰掛ける。

「いただきまーす!!」

スピカたちの手には大きな厚切りのフレンチトースト。

一口食べると、ふわっと口の中でパンが溶けていく食感に、スピカたちもとろけていく。

「おいしい〜!!」

「ですね!甘すぎなくて朝ご飯にぴったりです!!」

「だな!!昼飯のサンドイッチまでいただいちまってありがたいな!」

「これもスピカが提案してくれたおかげだよ!」

「えっ!?」

突然のことすぎて、フレンチトーストを食べる手が止まる。

「何が、えっ!?だよ〜!提案してくれなければ、俺たち何食えば分からなかったし、こんなにおいしいパンに出会えたんだ!!」

「そうだよ〜!」

「ありがとうございます!!」

と三人からお礼を言われ、少し頬が赤くなってしまう…。

「なーに照れてんだよ!」

と四人で笑いながら朝食をとり、教会前に向かった。


ゴーン。ゴーン。と十時を告げる鐘の音が国を包み込む。

鐘とともにスピカたちは、教会内に入っていく。


朝が早くてもざっと百人ぐらいは教会内に列を成して、待っている。

全員、修行場所を教えてもらう修行者達だ。

「こんなに同じ修行をする人っているんだ…」

「圧巻ですよね…」

とイレフがスピカの方を向き笑う。

「大丈夫だ!教えてもらうまでは時間はかかるが、あっという間だ!」

「うんうん!四人で話しながら進んで行けばいいよ!」

とガイトとリチャードが励ます。


列を進み、教会の受付にて自国の教会から出された書類を渡す。スピカの職業が二つあることに、受付のシスターが驚いていた。

それから一人一枚のタロットカードみたいなものが渡される。それを手にし、百人ぐらいいる列を並んで待つ。


いよいよ、スピカたちの番が回ってきた。

目の前には、大柄の男を包み込めるぐらい大きな鏡が置かれていた。これが診断鏡である。

タロットカードを横に立っているシスターに渡す。

「それでは、四名同時に診断鏡に右手をかざしてください。」

スピカたちは横一列に鏡の前に立ち、右手をかざした。

すると!!教会内が鏡から発せられた白い閃光で包まれる。

光は落ち着いたと思ったら、教会内はざわつく。

今までの修行者は光を発さなかったのだから。


「君たち!!こっちへ!!」

と端の方から神父様が手招きをする。

急いで、神父様の元へと向かう。

「ちょっと、こっちまでついてきてもらえるかな…??」

と言われ、教会内にある神父様の部屋に連れてかれる。

「まぁ、座ってくだされ。」

スピカ達は椅子に腰掛け、神父様の顔を神妙に覗く。神父様は重いため息をついて、放った。


「単刀直入に言わせてもらおう…。君たち四人は…。千年に一度の勇者じゃ。」


………???!

「はぁぁぁあ!!」

四人同時に大きな声で、体をのめりだして神父様を見つめる。

「な、なんで僕たちが…??」

リチャードが声を震わせ聞く。

「あの鏡は、どんな職業でも光らないんじゃ。だが、千年に一度の勇者が鏡に手をかざしたときのみ、強い閃光を放つ。」

「だったら…だったらよ!なぜ俺たちの右手には勇者のマークがないんだ??勇者も立派な職業だろ…!」

ガイトも驚いていて、状況に理解が追いついていないのか、息が荒い。

「それはそうじゃ。勇者ってことはバレては行けないんだから。だが、勇者のマークも多分お主たちに現れていると思うぞ。

ほれ、首元に線で描かれた六角形のマークがないか??」

みんな急いで首元を確かめる。たしかに、うっすらアザのように見えるが六角形のマークがある。

「ありました…。」

「あと、職業をもらう時にと同じ閃光に包まれなかったか??」


「……。包まれました…。」

スピカ達は驚き、互いに目を見合わせる。

「それらが何よりの証拠じゃ。普通の人は閃光にも何も包まれない。勇者だけが、閃光に包まれるのじゃ。そろそろ、その時期かと思っていたが、勇者と示す閃光を見れて幸せじゃ。」

と神父様は微笑む。

「だがな、さっきも言ったが、絶対に『自分達が勇者だ。』とくれぐれも口外するでないぞ。家族にも友達にもだ。唯一言っていいのは、教会の神父のみだけじゃぞ。私が世界各国の神父様たちには事前に伝えておく。」

と真剣な表情で神父様はスピカたちの顔を覗く。

「わかりました…。」

まだ、理解ができないまま頷く。

「失礼します。」

とドアをノックし、一人のシスターが入ってきた。

「こちらが皆様の修行場所となります。」

と言い、一つの封筒を差し出してきた。

「ありがとうございます。」

封筒をイレフが受け取る。

「さぁ、長居は怪しまれるからもうお行き。」

神父様は手で優しくジェスチャーしたので、帰ることにした。

「神父様!最後に一つだけ。僕たち勇者の使命とかは…?」

どうしても最後に聞きたかったことだ。

神父様は一間置いて言った。

「君たちなら分かるさ。だから、絶対にこのことは口外してはならぬ。」

と神父様は、また真剣な表情を浮かべた。


スピカ達は教会の裏で、封筒を開けた。

「いきますよ…。」

『これがあなたがたの修行場所と内容になります。


ガイト・ブラックさん

ファイヤシルバー地方で、伝説の武器の作り方を覚え、全種類作ってください。


イレフ・ユナイトさん

スターナース国で、全てのポーションの作り方を覚え、どこでも作ったり、強化できたりするようにしてください。


リチャード・フランシスさん

ナイトスカイ国で、ドラゴンを手懐け、騎士検定一級を取得してください。


スピカ・スターナイトさん

ナイトスカイ国で、ドラゴンを手懐け、騎士検定一級を取得してください。

また、ブルーマジック地方にて、魔術の詠唱を覚え、全て完璧にしてください。


その後皆様は、ブルーマジック地方のブルームーン公園に向かってください。』


という文章が書かれていた。

「なんか最後曖昧じゃね…?」

「うん。曖昧すぎる…」

「先程も言っていた、成り行きで分かるみたいな感じでしょうか…??」

三人が頭を抱えている。横でスピカは、教会から一望できるトリックムーン国を見てた。

「スピカー!!」

「はーい!!」

『僕たちがこの世界を守るんだ!!』

と固く思い、背を向け皆の元へと駆けていった。



第3話「診断鏡」(終)

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