第10話 番外編 久我道長終

事件から75年の時が過ぎた


「・・・あれから75年が過ぎたな。麗奈、父さん」


墓の前に来た老人ー久我道長は墓参りに来ていた。50年前に亡くなった2人。大事な人を亡くしたあの日のことは彼は忘れない。


あの事件の後、能力組合の上層部の人たちに育てられて最高権力者まで登り着いた。最高権力者になるまで多くの人達を亡くした。


その後も多くの仲間を亡くした。どれほど努力をしても現実は残酷で不平等だ。いくら能力が強くてもできることは少ない


そんなことはとっくの昔から知っていた。あの時からずっと・・・


「最近、流星に彼女が出来たんだ。驚くだろ?儂もー俺も驚いたさ。しかも未来から来た娘が3人来たんだよ?本当に・・・いつも俺の予想を超えることをしてくれる。もう、実力は俺より強いかもな」


そんな話を流星が聞いていたらそんなわけがないだろと文句を言うだろう。


覚醒能力を所持している道長に勝てるとは思えないと言うのはもしもの話であり、勝てるかの話では無理としか答えられないだろうが残念ながら本人はその場にはいないのでさらに道長が流星に対する評価が上がってしまうのは言うまでもない


「どんなに頑張っても変えられないね。でも、それに抗おうとするひ孫達の姿を見たら自分も頑張ろうと最近は思っている」


未来から現れた流星の子供達。悲惨な未来を変えるために未来から過去に来て未来を変えようと奮闘中だ。まだ若い子供達が未来のために頑張っているなら老骨も頑張らないといけないと道長は彼女達を見て感じた


「父さん。あんたが俺にくれた時間は今でも覚えている。まあ・・・75年も経っているから覚えている思い出が減ってきているのは許してくれないかな?流石に老人の記憶力の低下は舐めていたよ本当・・・」


老人の記憶力の低下で苦労していると言っているが彼は認知症ではない。昔から忘れやすい人にであるだけに過ぎない


「去年と3月までの今年だけで多くの事件が起きた。息子の親友が亡くなったり・・・始原が次々と日本に来たり・・・数え切れないほどの問題がたくさんあったね〜過去数十年以上の事件を比べても異常と言える1年だった」


ここ最近の出来事は忙しいと大きな事件ばかりなどと報告する。何があったのかどんなことが大変だったのか話すと妻が来た


「今日もここに来たのね」


どうやら、道長がここに来ることは知っていたみたいだ。長年ずっといた妻だから夫の行動を把握しているのだろう。特に違和感などを感じなかった道長は妻を見て笑う


「いつもよりは長く報告していたよ。色々とありすぎてどこから話そうか迷ったくらいには・・・紗良はどうしてここに?いつもなら儂が戻るまでここに来ないのに・・・」


いつもならもう少し経った後に来るか来ないかの2択だった妻がいつもより早めに来ていたことに少し気になった道長


「はあ〜・・・まさかだけどいつものように忘れているの?今日は流星が来る日でしょう?孫が来る日くらいは覚えてください。


忘れやすい癖があって治さないといけないのもありますが子供達との約束は覚えといてくれないと・・・まあ、それはそれで貴方らしいから・・・」


また忘れているのねと呆れてため息する紗良。いつものように忘れてしまう癖を直して欲しいと言っているがかれこれ数十年間行っても直してくれなかったのですでに諦め状態だ。


なので、いつも自分が今日何をするか何があるのかなど言う必要があるので情報管理や報告書を纏めるのは彼女だ。


道長は書類整理や報告書を書くなどの仕事はできるが忘れやすい性格のため代わりに妻がやることになっている。まあ、できることはやらせてやっているが


書類仕事をすっかり慣れた妻によってよく仕事を奪われる道長。


仕事を全て奪われた日もあるので自分は仕事をしていないのでは?と同僚に言うとお前の妻が優秀なだけでお前もできる側だからそれはないと言ってくれたこともあった。


能力組合上層部最高権力者としてと地位を確保できたのは道長の努力であるがその後の書類仕事など事務仕事は紗良がいてくれたことで保っていると言おうか


泣けてしまうような現実だ。自分だけではできないことが多すぎるから。現場では活躍できてもサポート系の仕事が向いていないという悲しき現実。


ただ、それは数十年も過ぎたら慣れてしまうことだ。子供もできて孫もひ孫も生まれた道長は幸せに暮らしている


「そうじゃったな・・・忘れていたわ」


自分が孫に約束したことまで忘れていた道長。昔から忘れることがそれなり多いため彼との付き合いが長い人たちは慣れている。


たとえば、流星が竜脳会を壊滅した後に最高権力者達と話している時に始原が学園に3人いるとかの重要な情報を他の最高権力者に共有しなかったとかが例である


あの時の最高権力者が怒っていたのは始原が学園に3人いるという共有すべき情報を話さなかったことだ。重要な情報ではなかったらそこまで起こらなかっただろう


付き合いが長いかと言われたら長いだろう流星がいつもの爺さんだと言うほど孫達も慣れているのは残念ながら事実である


「儂は本当に忘れん坊じゃな」


長い髪を触る道長は笑う


「無意識になっていると思うけど病気ではないみたいからそこは心配しないわ。それより、そろそろ流星が来る時間になるから戻りましょう」


そう言われた道長は腕時計を見ると流星が来る時間まであと数十分ほどまで経っていたことに気づく。紗良の言う通り、そろそろ家に帰らないといけない時間になっていた


「もう、そんな時間か・・・時が過ぎるのが早くて大変じゃ」


立ち上がってその場から離れる2人


「お義父さんと義妹さんの命日に流星を呼ぶなんて貴方らしくないわね。単に忘れていたにしてもらしくないわ」


歩いていると紗良が疑問に思ったことを言う。普段の道長ならそんなことをしない。孫を呼ぶのは珍しいことではないが何か目的を持って呼ぶのは珍しいのだ


2人の命日に子供達を呼んだ墓参りするのはいつものことだが・・・何か用事を作って呼ぶのは彼らしくない


「そうじゃな・・・これが流星を呼ぶ理由じゃ」


どこから出したのか古い本を出す。紗良は見たことがない本なので首を傾げる。文字からして江戸時代のものだろう。


上層部によって管理していた本ではないと理解できるがその本が何なのか分からない。作者名?が久我晴明と書かれていることからおそらく、道長のご先祖様が書いた本だろう


「その本は・・・ご先祖様の?それが流星を呼ぶ理由になるの?」


流星だけではなく、他の者達も呼んだほうがいいのでは?と思ったが道長が何か理由を持って彼だけ呼んだのだろう。彼の彼女とか友人を連れてきてもいいと思った紗良に道長は首を振る


「友人たちを連れて行くのは駄目だ。これは世間に知らせてはいけないほどの爆弾だからな」


その本の内容を見せると驚く


「え?これ本当なの・・・?」


あまりにも衝撃な内容で驚愕する。その内容は道長の言う通り世間には知ってはいけないほどの内容だ。最初の文ですら驚くべき内容であり、彼女が驚くのは無理もない話


「儂と麗奈がいた地下室に残っていた書物だ。これを隠すほどの重要な物とは何かと思ったがまさかここまで世界に影響するような内容だとは思わなかった」


流石に驚くだろう?と道長は笑うと頷く紗良。この本をどこで見つけたのかと尋ねると


「俺が生まれた家の跡地にある地下室だ。父さんは放っていたみたいだからこの前言ってみたら古い本がたくさんあったんだ。何やら重要な物ばかりだから下手に公表するのは危険と判断を下した」


始まりの能力者の子孫だけでも驚くべきことであるが他にも重要な本があってもおかしくない。驚くべきことはそれだけではなく、能力を付与された武器や魔導書など残されていたのだ。


坂上四季が回収しなかったのは世間に公表できるとは思えない世界を変えてしまうほどのパンドラであると判断したから


その判断は間違っていない。いくら能力組合が強い権力があったとしてもこの重要な本などを財布に隠し続けることは出来ないだろう。


勿論、政府は知ったとしても隠すつもりであった。世界能力機関には気づかれると思われるが世間に公表しない選択は間違っていないだろう。


もしも、そんなことをしたら道長は世界中から狙われるし、紗良や玲などの家族が狙われる可能性は大いにある。だからこそ、ずっと隠していたのだ。では、何故それを今更持ってきたのか


その原因は先月に起きた星宮勝蔵による大事件の時に道長が遭遇した先祖ー久我りんが原因だ。


何故、彼女が星宮勝蔵と協力していたのか、何を目的を持って行動しているのかとその答えを導く鍵になるかと思って道長は村の跡地に行ったのだ


戦争によって村は焼かれていたが地下室は無事だったのですぐに地下室に入るとたくさんの書物や武器などがあった。その中に久我りんについての情報があるのか探したが


それは見つからなかった。久我りんについての書かれている本はそれなりにあったが現在、何を目的を持って行動しているのかについての情報はなかった。


それなりに村からの地位が高かった久我家でも把握できなかったのは無理もない


なんせ、上層部すら把握できなかったのだ。ここ数十年の行動を調べても星宮勝蔵と協力関係になった以前の情報がない。何も分からないのが事実である


久我りんについての情報よりやばいものを発見してしまったのが頭の痛い話だ


「まあ、大丈夫じゃよ。儂が生きている限りは」


道長は笑う。彼が最高権力者でいる限りはそんな馬鹿なことをさせないだろう。だが、彼の後継者が暴露してもおかしくない。それほど怪しい未来が見えるのが残念なところ


「そう・・・分かったわ。でも」


「?」


道長は首を傾げると


「財布どこに落としたの?」


「・・・・・・」


道長は突然の話に驚いて固まる。どうして財布の話になったのか理解できないが探すとズボンのポケットに入っていたはずの財布がなかった


「不味い。墓のところに置いて行ったかもしれん。すまないが紗良、先に家に帰ってくれ。すぐに追いつくから」


走って墓に向かう道長を見てまたため息する紗良


「財布を落とすのはこれで何回目かしら」


財布を落とす回数が分からないほど落としていく道長に呆れる


空は青空。空は青い空へ

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