猫又娘の大冒険 14
14
まのたち四人は、翌日も女王様を楽しませようとダンスは元より、お城近くを散策する、馬車で遠出などを考えましたが、
「私は忙しいのです」
と、断られてしまいました。忙しいのは事実でしょうけれど、まのが強引に誘ったダンスに懲りてしまったのかもしれません。
今まででしたら誰からともなく、もうやめておこうか、という話題が持ち上がりそうなものですが、
「女王様がお忙しい今、もっとお城を綺麗にしましょう!」
と、まのは落ち込むこともなく、率先してお城の掃除や修繕に取り掛かっていました。そんな姿を見せられて黙っていないのがジャックでした。
「他はともかく、お城のことならオレの仕事だ」
まのに刺激されたジャックは今まで以上に女王様の身の周りの世話から、お城の内外の掃除を積極的に行うようになりました。
そんな頑張り屋の二人を見て、フクもユキミもそれぞれ自分の出来ることを考え始めたのです。
その間も女王様は私室に篭もり、色々とお仕事をされていたのですが、ある日、
「何やら騒々しいですね。また、まのが何かやったのでしょうか」
静寂が唯一の長所だったお城が何だか騒々しいことに気づいた女王様は、何日かぶりに部屋を出ました。
部屋を出てすぐに気づいたのは、カーペットが真新しいものに取り替えられていたことです。今までは黒ずんだ、
心なしか、暗いはずの廊下も明るく感じます。女王様は気付きませんでしたが、カーテンが厚手のものから、薄手のものに取り替えれれていたのです。
「騒がしいのは、やはり一階ですわね」
ロビーに通じる階段から一階を見下ろすと、女王様は、
「まあ!」
と、驚きの声を上げました。
それもそのはず、女王様はまのと三人の小人が何かやっているのだろうと思っていたのですが、ロビーに三人の姿は見当たりません。いえ、見つけれれませんでした。
ロビーにいたのは、多くの国民でした。岩場のお茶会の参加者くらいは居たでしょう。
誰かが女王様に気づいたようで、
「皆、女王様だぞ!」
その声に皆、二階から姿を現した女王様に視線をやると、次の瞬間には合図もないのに片膝をつき、臣下の礼を取ります。
「こ、これはどうしたことです!? ジャック、ジャック!」
女王様は珍しく取り乱し、ジャックの名前を連呼しました。
「女王様がジャックをお呼びだ、あのツノ付きウサギを呼んでこい」
「ジャック、女王様がお呼びだ!」
女王様の言葉を聞いた小人たちは、さながら伝言ゲームのようにジャックはどこだ、ジャックを呼べとジャックコールを起こしてしまいました。
女王様は気が気ではありません。今まで自分に無関心であった小人たちが、いつの間にやらお城のロビーに集まっており、自分の姿を見るや否や臣下の礼を取り、一言物申せばジャックはどこだ、と大騒ぎ。
こんなことは今までになかった──と、女王様は自室に戻りながら考え、
「いえ、昔にあった気がしますわ」
と、立ち止まってポツリと呟きました。
「そう、遠い昔。まだお城が活気に満ちていたころ。ちょうど──」
女王様は窓辺に寄り、例の中庭を見下ろしました。
「まあ!」
今日は驚いてばかりです。窓から見える中庭にも、大勢の小人がいるではありませんか。
「どうしたことかしら……」
驚きの連続で軽い目眩を感じた女王様の元に、
「た、大変お待たせしました。お呼びでしょうか、女王様」
と、ジャックがやっとやって来ました。急いで来たのでしょう、息が乱れています。
「ああ、ジャック。これは一体どうしたことです!?」
女王様は今さっき見たロビーと中庭の光景のことをジャックに問い質しました。
「これは女王様には説明をしておりませんでした。お城の掃除と修繕には人手がいるため、手伝ってもらっているのです」
「そ、そのようなこと、許可した覚えは……」
そこまで言って気付きます。
「まの、ね」
「はい。女王様がまのに一任されましたので」
確かに女王様は、まのの好きにやって良いというような旨のことは伝えましたが、まさかこんなに多くの小人たちを巻き込むとは思いも寄らなかったのです。
「そ、それでまのは?」
「ちょうど、中庭で掃除の指揮を取っていると思います」
言われて女王様はもう一度、窓から中庭を見下ろしますと、確かに一人、体格の大きな少女が楽しそうに作業を行なっていました。
「呼んでちょうだい」
まのから説明をしてもらおうと思い、ジャックに呼ぶよう命じます。するとジャックは窓を開け放ち、
「おーい、まの! 女王様がお呼びだ! すぐ上がって来い!」
と、大声で叫びました。当然まのにも届いたようで、分かったわ! と元気な返事が返ってきました。
「お聞きの通り、すぐにやってくるでしょう」
ジャックは得意気です。心なしか、角も少し立派に見えてきます。
「あなた、変わったわね」
ポツリ、女王様は呟きました。
「は? 今なんと?」
「いいえ、何も。気にしないで、悪いことではありませんから」
ジャックは首を傾げましたが、女王様はそれ以上、言葉を繋げる気はないようでした。
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