猫又娘の大冒険 2

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「ねえ、どこに行くの?」

「まずはユキミのところだっほい」

 慌てて追いかけたまのでしたが、フクの歩幅とまのの歩幅は全然違ったので、追いつくのは簡単でした。そしてフクを抱えて歩いた方が早いので、まのはモフモフの白い毛皮のフクを抱いて歩いているのでした。

 まのはマジマジとフクを見ました。フクロウのようなワンちゃんといった不思議な生物。お気に入りのぬいぐるみ、ムイのように優しい肌触り。それでいて生命の暖かさを感じるのです。

「痛いっほい、痛いっほい」

「あ、ごめん」

 夢中になって、少し強く抱きしめてしまったようです。まのはちょっとおっちょこちょいなところもあるのです。

「気をつけて欲しいっほい。あ、そこは左に曲がるっほい──違う、そっちは右っほい!」

 フクが道を示します。小径こみちを左、と言いますが、左に折れると森の中に入ってしまいます。まのがそれを指摘すると、

「ユキミは森に住んでるっほい」

 と言います。まのは期待に胸を膨らませます。

 森の中の家。どんなのだろう? 大きな樹の大きな枝にちょこんと小屋が乗っているのかしら。それとも洞みたいな空洞に住んでいるのかな?

 そんなことを考えているので、まのはフクの示す道順とは違う方向へと行ってしまいます。

「方向音痴というより、注意力がないっほい」

 と、フクは少し呆れているようです。

 森の中、ということで、暗いのだろうか、と身構えましたが、そんなことはありませんでした。むしろ、外より眩しいくらいです。

 どういうことか、まのはフクに訊いてみました。

「よく樹々を見てみるっほい」

 どこか得意気にフクは言いました。

 言われた通り、注意深く観察してみると、樹々の葉っぱがキラキラと反射しています。しかも葉っぱは緑だけではありません。葉っぱだけでなく、そこに成っている果物らしきものも、どうもまのが知っているものとは違うようです。

「触ってもいいかしら?」

「いいっほい」

 フクを地面に下ろし、まのは手近な樹木に手を添えました。樹皮特有の、ざらざらとした感触があるものと思いましたが、なんと磨き抜かれたようにツルツルとしていました。

「お、いい樹を選んだっほい。葉っぱや果物も見てみるっほい」

 フクに促されるまでもなく、まのは葉っぱを触ってみます。見た目は普通の葉っぱと同じようでしたが、やはりキラキラと反射しています。朝露に濡れて輝いているのだろうか、とも思いましたが、どうやら違うようです。だって水気が感じられないのですから。

「これ、もしかして」

 まのは葉っぱを千切らないよう注意しながら、かざしてみました。

翡翠ひすいじゃないかしら?」

「そうっほい。ここ、ファーティ・マーティ名物の、宝石の樹木だっほい」

「じゃあ、ここに植っている樹は全部?」

「さすがに全部じゃないっほい。でも、幹は水晶、葉は翡翠や瑪瑙めのう、紅玉などなど、色々あるっほい!」

 多種多様な宝石でできた樹木が、太陽光を浴びて森の中を反射させていたのです。道理で外より明るいはずです。いえ、眩しいはずです。

「素敵! 素晴らしいわ! えっと、ファーティ・マーティだったかしら、この森の名前」

「違うっほい。この国の名前っほい。この森は普通に宝石の森とか呼ばれてるっほい。ユキミのお気に入りだっほい──あっ!」

「どうしたの?」

 また小さな足を一生懸命走らせようとするフクを見て、まのは訊きました。

「えっほ、えっほ。ユキミに伝えるのを忘れるところだったっほい」

「あら、そうだったわ!」

 まのは名残惜しそうに宝石の樹木を見ていましたが、先にフクのお手伝いを済ませなければなりません。フクをまた抱え直し、足早に森を進みます。

「違うっほい、そっちじゃないっほい!」

 まのは少し慌てん坊さんなところもあるのです。煌めく森の中、フクの声が何度も何度も響き渡りました。

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