とんでも音痴アイドルと絶品ダンジョン飯!〜魔物も失神する歌声は、レア食材で覚醒する!?〜

咲月ねむと

第1話 新米探索者志望の僕

「ふぅ……。今日も一日、頑張るか」


僕は深呼吸して、目の前の巨大な門を見上げた。高さ20メートルはあろうかという鉄と石でできた重厚な門。


ここが今、世界で最もホットな場所、つまり「ダンジョン」の入り口だ。


ダンジョン。


突如として世界各地に出現した謎の巨大建造物だ。

中には危険な魔物が生息していて、同時に貴重な資源や時には現代科学では解明できない「オーパーツ」なんてものまで眠っているらしい。そして、そんなダンジョンに潜って探索する人たちを、世間は「探索者(シーカー)」と呼ぶ。


僕の名前は、八雲 悠真やくもゆうま。大学一年生だ。

都内の大学に進学して、まさか自分がこんなところにいるとは夢にも思わなかった。


実は、このダンジョンシティに引っ越してきたのは、先月急遽決まったことだった。目的はただ一つ、探索者になるため!……と言っても、いきなり探索者になれるわけじゃない。まずは、探索者ギルドの認定試験に合格しないといけないんだけど。


「最年少探索者、いけるかなぁ……いや、大学生じゃ最年少ではないか。でも、若手探索者としては注目されるかな?」


小さく呟いて、僕はギルドの門をくぐろうとした。その瞬間だった。


「ちょっ、待ちなさい、そこのお兄さん!」


背後から、キンキンに甲高い声が飛んできた。

思わず振り返ると、そこに立っていたのは……ん?なんだこれ?


真っピンクのフリフリのミニスカートに、これまたピンクのリボンがやたらとでかいカチューシャ。足元はごっついブーツなのに肩出しトップスってどういうこと?

しかも、顔には真っ白なメイクがべったりで唇はギラギラのラメ入りリップ。


極めつけは、彼女の背後に控える、いかにもボディガード然としたムキムキの男たち。


え、何、ホラー?ってか、イベントの呼び込み?


困惑している僕を無視してピンクの塊はズンズンとこちらに近づいてくる。


「アンタ、もしかして、新規の探索者志望者?」


目を細めて僕を上から下まで値踏みするような視線。

なんだか、すごく……失礼な人だ。


「えっと、そうですけど……」


「ふーん、やっぱりね。だって、あたしと同じ匂いがするもん!」


同じ匂い?え、僕、変な汗でもかいてた?

いや、清潔感には気を使ってるはずだし。


「あ、自己紹介がまだだったわね!あたしは、星水ほしみず ルカ!見ての通り、自称とんでも美少女アイドルよ!」


「……自称、ですか」


思わず口に出してしまった僕の言葉に、ルカさんはピクッと眉を吊り上げた。


「なんですってぇ!?アンタ、あたしのことバカにしてるの!?自称じゃないわ!正真正銘、この美貌で世界中を魅了するスーパーアイドルになる女よ!」


……なんか、この人、色々とツッコミどころが多すぎる。


「で、だ。アンタ、あたしに何か用でもあるわけ?」


「用があるのはそっちでしょうが!」


思わず出てしまった。やばい、せっかくダンジョンシティに来たのに、初対面でいきなり喧嘩腰って最悪だ。


「あら、口が悪いのね。まあいいわ。あんたみたいな若手探索者候補っぽい子が、あたしの目に止まったのは運命よ!」


……え、若手探索者候補?

なんで僕が若手探索者候補って知ってんの?まさか、ストーカー!?


僕がギョッとしていると、ルカさんは得意げに胸を張った。


「見てなさい!あたしがこのダンジョンシティで探索者アイドルとして名を馳せるんだから!その暁には、あんたみたいな大学生も、あたしのファンになって、一生ついてくることになるわよ!」


「いや、一生は無理かと……」


「なによっ!」


再びルカさんの眉が吊り上がった。この人、表情筋がすごいな。


「ていうか、探索者アイドルって、どういうことですか?アイドルがダンジョンに潜るんですか?」


僕の問いに、ルカさんは「ふふん」と鼻を鳴らした。


「当然でしょう?歌って踊って、時には魔物と戦って、レアアイテムゲット!これぞ、新時代のアイドルよ!」


……なんというカオスな設定だ。


「まあ、正直に言うと、まだダンジョンに潜ったことはないんだけどね!でも、これから!これからよ!」


うん、知ってた。

ていうか、その見た目でダンジョン潜ったら、秒で魔物の餌になると思うぞ。


「で、なんで僕に絡んできたんですか?」


本題に戻すべく、僕は尋ねた。


ルカさんは、僕の目をじっと見つめ、真剣な顔で言った。


「あんた……料理、得意なんでしょ?」


「……え?」


予想外の言葉に、僕は思わず固まった。

なんで、この人が僕が料理得意なのを知ってるんだ?ダンジョンに入ることは誰にも言ってないし、そもそも料理が得意なことなんて、大学の友人くらいしか知らないはずなのに……。


「あたし、ちゃんと調査済みよ!あなたの履歴書、ギルドに提出する前にこっそり見させてもらったわ!」


胸を張って言われたその言葉に僕は絶句した。

個人情報の漏洩だ。しかも、こっそりって、思いっきり犯罪ですよ、それ!


「で、どういうことですか?僕が料理得意なことと、ルカさんが探索者アイドルになることと、何か関係あるんですか?」


僕が半ば呆れながら尋ねると、ルカさんはニヤリと笑った。


「関係、大アリよ!いい?ダンジョンに潜る探索者には、体力と精神力、そして美味しい食事が必要不可欠なの!」


「食事……ですか?」


「そう!特に、ダンジョン内で手に入る食材を使ったダンジョン飯!これが、探索者の疲労回復には最高らしいのよ!」


ルカさんの目がキラキラと輝いている。なんというか、ものすごい勢いで「美味しいもの大好き!」オーラが溢れ出ている。


「あたしはね、探索者として、そしてアイドルとして、トップを目指すわ!でも、あたし、料理はちょっと……いや、かなり苦手でね?」


いや、ちょっとどころか、かなり苦手なのは見て取れる。だって、見るからに料理とかしなさそうな、いや、絶対にしないだろうオーラ出てるもん。


「だから!あんたに専属シェフになってもらいたいの!ダンジョンで手に入れた食材を美味しいダンジョン飯にして、あたしの活動をサポートしてほしいのよ!」


「はぁ!?」


僕の声がギルドの門に大きく響き渡った。


専属シェフ?ダンジョン飯?この、自称とんでも美少女アイドルと?

冗談じゃない。僕は探索者になるためにここに来たんだ。料理は好きだけど、それはあくまで趣味の範囲で誰かの専属シェフになるなんて考えてもみなかった。


「断る!」


僕はきっぱりと告げた。

ルカさんは一瞬ぽかんとした顔をした後、すぐに顔を真っ赤にして怒鳴った。


「なんですってぇ!?このあたしのお願いを断るっていうの!?あんた、後で後悔するわよ!あたしは、未来のスーパーアイドルなのよ!あんたなんか、後で頭を下げてお願いしても、もう遅いんだからね!」


いや、未来のスーパーアイドルでも専属シェフは無理ですって。

僕は僕の夢があるんだから。


「それに!あんた、まだ大学生でしょ?ギルドの認定試験だって、合格できるかわからないじゃない!」


その言葉に、僕はぐっと言葉に詰まった。

確かにギルドの認定試験は難しいと聞いている。そう簡単に合格できるとは思えない。


「その点、あたしと組めば、あんたの料理の腕は世界中に知れ渡るわ!ダンジョン飯の第一人者として、名を残せるのよ!ウィンウィンじゃない!」


ウィンウィンどころか、僕の夢を食い物にしようとしているようにしか聞こえない。


「それに、あたしは、その……スポンサーもいるし……」


ルカさんは、ちらりと後ろに控えるボディガードたちを見た。

ボディガードたちは無言で頷いているばかりだ。


……つまり、裏でなんか巨大な組織が絡んでるってことか?

うわぁ、面倒臭いことに巻き込まれそう。


僕は、ルカさんを振り切って、ギルドの受付へと向かおうとした。


だが、その時だった。


「あんたが、もし、このあたしを満足させるダンジョン飯を作れたら……あたしが、あんたをダンジョンに連れて行ってあげるわ!」


ルカさんの言葉に僕はピタッと足を止めた。


「……本当ですか?」


僕が振り向くと、ルカさんは不敵な笑みを浮かべた。


「当然でしょう?あたしは、嘘はつかない女よ!ま、あたしが満足できなければ、容赦なく切り捨てるけどね!」


ダンジョンに連れて行ってもらえる……。

認定試験が難しいなら、ルカさんの力を借りてダンジョンに潜るというのは、むしろ近道になるかもしれない。それに、ルカさんがスポンサーの力でダンジョンへの入場許可を取れるなら、僕が正規の試験に合格するまでの間、経験を積むチャンスにもなるわけだ。


「わ、わかりました……!ただし、条件があります」


僕は意を決して、ルカさんに向き直った。


「ふむ、言ってみなさい」


「あくまで、僕が探索者になれるまでの期間限定です。それに、僕の探索者としての活動の邪魔はしないでください。あと料理の材料は、ちゃんと提供してくださいね」


ルカさんは、ニヤリと笑った。


「当然よ!じゃあ、まずは腕前を見せてもらうわよ!幸い、今朝、ギルドの職員からダンジョン内で採れたばかりのキノコを分けてもらったのよ。それを使って、なんか美味しいもの作ってみなさい!」


そう言って、ルカさんはごそごそとバッグから、黒くて丸っこい、いかにも怪しげなキノコを取り出した。


「……え、これ、食べられるんですか?」


僕が恐る恐る尋ねると、ルカさんは自信満々に言った。


「大丈夫よ!ギルドの職員が食用だって言ってたわ!でも、なんか、誰も美味しいって言わないのよね。みんな、ただで配ってるのに欲しがらないのよ」


……ものすごく嫌な予感がする。


「ま、いいわ!期待してるわよ。専属シェフくん!」


ルカさんは、そう言って高らかに笑った。


こうして僕のダンジョンライフは、自称とんでも美少女アイドルとの出会いによって、いきなりとんでもない方向へと舵を切ることになったのだった。



――――

現在同時進行している『絶品ダンジョン飯』シリーズ第二弾の作品になります。

ストレスフリーで飯テロ注意な作品になりますので、ついお腹がぐぅ~となってしまうかも。


もちろん今作も完結を保証いたします。


では、ここで恒例の一言と行きましょう!

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