第3話 つながりの重さ

一週間が過ぎた頃、美佳のフォロワー数は五百人を超えていた。

毎日のように小さな贈り物が届く。手紙、写真、手作りの小物、お菓子、本、CD。どれも送り主にとっては「要らないもの」だったはずなのに、美佳にとってはかけがえのないものになっていた。

そんな中、一通の長い手紙が届いた。

『美佳さんへ

私は七十歳の女性です。夫を亡くして三年になります。子どもたちは皆、遠くに住んでいて、年に一度会うかどうかです。

最近、家の整理をしていて、たくさんの「要らないもの」が出てきました。夫の服、二人で旅行した時のお土産、若い頃の写真。

捨てるには忍びないけれど、取っておいても誰も見ないもの。そんな時、美佳さんのアカウントを見つけました。

美佳さんが投稿する写真を見ていると、「要らないもの」が「大切なもの」に変わる瞬間を感じます。

実は、お送りしたいものがあります。夫が大切にしていたカメラです。フィルムのカメラで、今では古いものですが、まだ使えます。

もしよろしければ、美佳さんに使っていただけませんか?夫もきっと喜ぶと思います。

 花田静子』

美佳は手紙を何度も読み返した。

翌日、古いフィルムカメラが届いた。革製のケースに大切に包まれていた。

美佳はカメラを手に取った。ずっしりとした重みがあった。レンズは少し曇っていたが、愛情を込めて使われていたことがわかった。

SNSに写真を投稿した。

「花田静子さんから、ご主人の大切なカメラをいただきました。フィルムのカメラは初めてですが、大切に使わせていただきます。ありがとうございます。#何もいらないから全部くれ」

その投稿を見た人から、たくさんのコメントが届いた。

「素敵ですね。フィルムカメラは味があります」

「現像のやり方、教えましょうか?」

「近所にフィルムを現像してくれる店があります。場所を教えます」

美佳は一つ一つのコメントに返信しながら、不思議な感覚を覚えた。

最初は「何もいらない」と言っていたのに、今では毎日たくさんの人とやり取りをしている。物をもらうだけでなく、アドバイスをもらったり、お礼を言ったり。

つながりが生まれていた。

その日の夕方、美佳は初めてカメラを持って外に出た。近くの公園で、夕日を浴びた桜の木を撮った。シャッターを押す感触が新鮮だった。

家に帰って、フィルムの現像について調べた。近所に小さな写真屋があることがわかった。

明日、現像に出してみよう。

美佳は久しぶりに、明日が楽しみだと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る