アイギスの瞳~または蒐集癖
大月クマ
第1話 行方不明事件
その図書館には、奇妙なうわさがあった。
接触したものは帰ってこられなくなるという。俺は今からそこに行く。その噂が本当なのか、はたまた単なる脅しなのか――。
「アノード先輩、この世紀になって行方不明事件ですか?」
新人のカソードは愚痴った。黙ってハンドルを握ればいいのに、やかましい女だ。
大学を出たばかりの新人お守りとは俺も焼きが回ったか。
俺は車の後部座席でふんぞり返りながら、
「言ってやれ、グリッド。いつもの文句を――」
『カソードさん。どんな世紀だろうと、どんな事件は起きるモノです』
車の助手席に身長100センチに満たないテルテル坊主のようなロボット『グリッド』が、俺の命令で
コイツの役目は、刑事としての俺たちの観察。それと情報収集に上司への報告だ。裁判の証拠のため、警官や被疑者などの行動を記録している。被疑者逮捕に過剰な暴力沙汰があったなど、すべて記憶しているのだ。刑事の仕事はやりにくいときたら――。
昔見た刑事ドラマのような自由もなく、淡々と職務をこなすだけだ。
「そういうこった。カソード、そこを右――」
「もうひとつ向こうです。アノード先輩よりもナビは正確です」
俺達を乗せている車が向かっているのは、高級住宅街だ。永遠と続きそうな白亜の壁に、樹木がそそり立ち、本体の豪邸は道からは目に付かないようになっている。一体どれだけ稼げば、こんな豪邸に住めるのか。
数年前から起きた行方不明事件。被害者はほぼ女性で、年齢は10代後半から40代前半まで。「変質者の犯行か?」と口にしたら、チクリ屋のグリッドが、『被疑者への侮辱として記録しておきます』と律儀に報告書に記述していた。
そして、捜査網が絞り込んだ場所が、この高級住宅街にある私設の図書館であった。
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