第6話 ライブ1週間前①
ライブまで残り1週間あまりとなった。
練習も順調に進み、ある程度まではできるだろうというほのかな自信を、あきらを含めメンバー全員が持てるまでになっていた。
曲の感じはハードロック系ではなくて、ボーカルの歌い方のせいかどちらかと言うとやはり尾崎豊系だった。そしてどうしても地味な感じを払拭できなかったけれど、かえって彼らはそれを好んでいたしそれが格好いいのだと考えていた。彼らには彼らなりの美学というものが多少なりとも存在していたのである。
あきらたちは1枚1,000円のライブチケットを、一人につき10枚をノルマにさばくことになっていた。あきらはそのノルマをほとんどクリアしていて、あと残りの1枚だけになっていた。そしてその1枚は、はじめから篠原みゆきのためにとっていたのである。
ひろしと篠原の話をしたとき以降、あきらは彼女のことを妙に意識してしまうようになっていた。それで、なかなか彼女にチケットのことを切り出せないでいるのだ。
彼女の横顔、それまでであれば何も思わずに見ることができていたのがあれ以降はその横顔を、あるいはその瞳をそっと盗み見、彼女が今何を考えているのかと読み取ろうとするようになっていた。彼女の方を見ないでおこうと意識すればするほど、なぜか彼女に視線を走らせてしまうのだ。そして彼女と目が合うと、そんなふうに眺めているのを悟られまいと慌てて目をそらせてしまうのだった。
そんなとき、ひろしが漬物屋の彼女を誘うから一緒について来てくれと言ってきたのだ。
まず彼女のところへ電話をして、会う段取りをするという。電話番号もわからないので漬物屋の電話番号にかけるらしい。
放課後にあきらとひろしは2人で高校の裏の児童公園に行き、隅っこにあるベンチに腰掛けた。ひろしは携帯電話を取りだした。
「あきら、悪いけど、お前かけてくれへんか?」
ひろしはよほど緊張していたのだろう、携帯を持つ左手が震えて右手で左手の手首を抑えて支えている。
「なんでぇな、そんなことできひんって。おれ相手のこと知らんねんし」
「いや、そうやねんけどさ・・・ほんなら電話かけるだけでいいから。番号押すだけで。かかったらすぐに代わるから」
しばらくそのようなあほらしい押し問答が続いた末に、あきらは、
「ほんなら電話かけるだけやからな。かけたらすぐ代われよ」
と、仕方なくひろしから電話を受け取り、ひろしが思いを寄せる女の子の住む漬物屋の番号を押した。ひろしは、前かがみになり、両手を膝の間でこすり合わせるようにしながら待っていた。
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