第4話 顔合わせ

 数日後の日曜日、あきらはひろしに連れられてある家のガレージに赴いた。そこはひろしのバンドメンバーのひとり、三浦という男の家の車庫で、広い芝生の庭の奥にあったので、楽器の音を出してもあまり外の迷惑にはならない場所になっていた。

 ガレージでの練習なんて、まるで何かの映画のようだな、とあきらの胸は少し高ぶった。ガレージには、シルバーの車高の低い外国車と、大きなホンダのバイクが並んで止めてあった。中は油の匂いで満ち、壁には様々な工具が置かれていた。

 車やバイクがあったとしても、ガレージにはまだバンド練習するには十分な広さがあったのだ。

 しかし、自分を含めてその他のメンバーときたら、映画とはほど遠いような、何とも言えず中途半端でもっさい男たちの集まりといったふうの感がぬぐえなかった。

 メンバーはあきらとひろしにあと2人で、そのふたりともが地味な感じの男たちだった。あきらがイメージしていたような、ロックバンドっぽい長髪のやつもいなければ、金髪に染めてるのもいなく、ふたりとも真ん中わけにしていて、いかにもおとなしいといった印象だった。

 しかし、それであきらは逆にホッとした。もしもバリバリのロッカー野郎たちだったらどうしようかと心の内ではヒヤヒヤしていたのだ。

 無愛想に見えて、彼らは案外いい奴らだった。


 「みんないい奴ばっかりやから、そんな肩肘はらんと気楽にいこうや」


 あきらの顔が少し緊張していたのか、ひろしが声をかけ、それからメンバーを紹介していった。


 ドラム担当が、このガレージを提供している三浦という男で、小太りで背の低いやつだった。そしてもうひとりが、ボーカル担当の尾崎という男だった。尾崎は、ひろしの紹介によると熱い男だそうで、そのせいか紹介されると右手をさっと差し出し、握手を求めてきた。あきらが右手を出すと力強く握り返しながら、低く必要以上の大きな声で、「よろしくな!」と叫んだ。

 あとで尾崎の歌声をきいてわかったことだが、彼の声は低くて、かつ声量があった。そしてその歌い方は、彼の名が表すように、明らかに尾崎豊を意識しているようだった。

 ひろしはギター担当で、ベース担当としてあきらをみんなに紹介した。


 「まあ、1回演奏するからさ、そこで聴いて見といてくれよ」


 そういって彼らは演奏を始めた。あきらは隅のパイプ椅子に腰掛けて聴いていた。

 彼らのスタイルは、ジーパンにジャンパー姿で、ボーカルの尾崎は黒い革ジャンを着ていた。彼らの曲は、ハードではないけれども、紛れもなく奴らはロックしていた。変に気どることもなく、少したどたどしいながらも真剣で、等身大でなかなかいい感じだった。


 「いや、なかなかよかったわ」


 演奏を聴き終わってあきらは言った。正直、あきらが思っていたよりもずっと形になっていた。


 「もっと練習せな、まだまだあかんけどな」


 野々山ひろしがギターを肩から降ろしながら額に汗の粒を光らせながら言った。


 「まあ、素人なんで、何かと迷惑かけると思うけど、よろしく」


 あきらはジーンズの後ろポケットに手を突っ込みながら頭をちょっと下げ、みんなに向かってそう言ったのだった。

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