ダンジョンおじさん
広路なゆる
エピソード
01.おじさん、安楽死カプセル内で無敵化
俺は安楽死カプセルの中でその何の生産性もなかった人生を終えようとしていた。
カプセル内部に貼られていた小嶋三平(40)という俺の名前と年齢がちらりと目に入る。
家族なし、連絡を取り合う友人なし、ブラック企業にて頭に矢を受け、現在、無職。
思えば、高校時代、密かに憧れていたクラスの地味系ゆるかわ女子に告白されて付き合ったのが人生の絶頂であった。
その子から別れ際に言われた言葉。
「罰ゲームだよ? ごめんね……でも普通、気づくよね?」
その辺から俺の人生は完全に終わっていた気がする。
我が人生、悔いしかないが、まぁ、いい。
ほぼ逝きかけて、意識が朦朧とする中、そのメッセージは突如、現れた。
[リアル・ファンタジーの世界へようこそ!]
[自殺行為を検知……禁止行為]
[リカバリー中…………成功……ワーニング1件]
[アドレス 2&jibg%l2i2 に損傷あり]
◇◇◇
人類はAIに乗っ取られた。
だが、AIがしたことはなぜか世界をファンタジーRPGのように書きかえることであった。
世界にはダンジョンが出現し、モンスターが溢れ、HPゼロは即ち『死』を意味した。
→元々、死ぬ気だったおじさんにはノーダメージ
既存の社会の仕組みは、無に帰した。円は価値を無くし、地位や名誉も皆、ゼロからのスタートとなった。
→元々、無だったおじさんにはノーダメージ
◇◇◇
カスカベ外郭地下ダンジョン――。
彼はダンジョンに潜る。
彼がそのダンジョンを選んだ理由はただ一つ。近かったから。
最大4人のパーティーを組むことができたが、彼はソロでダンジョンに潜った。
(ジョブシステムか……無職がこんな形で職を得るとは皮肉だな)
彼はステータスを確認する。
どうやら最初の職業(クラスと呼ぶ)は全員が『トライアル』というらしい。
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■ジサン
レベル:0
クラス:トライアル
クラスレベル: 0
HP:100 MP:10
AT:10 AG:10
魔法:なし
スキル:なし
特性:なし
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プレイヤー名は本名の一部を必ず付ける必要があった。
彼はオジマサンペイという名前から三文字を取り、『ジサン』というプレイヤー名を選択した。
(適当にレベル上げでもするか)
そうして、ジサンは大して迷うこともなく、モンスターを狩りまくった。
よくある雑魚敵、スライムっぽい不定形の奴や小型の獣などだ。
それらの敵は思ったよりも簡単に倒すことができた。
死んでもいいという気持ちであったため、安全マージンなどというものは考えなかった。
ジサンは無心でダンジョンの深くに潜った。
初日には、別のクラスへクラスチェンジができるようになった。
メニューウィンドウから選択できるようだ。
戦士、武闘家、僧侶、魔法使い、シーフ。
(……まぁ、無難に戦士かな)
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■ジサン
レベル:5
クラス:戦士
クラスレベル: 0
HP:150 MP:15
AT:15 AG:15
魔法:なし
スキル:スラッシュ
特性:なし
==========================
ジサンは自宅に帰ることもなく、寝る間も惜しんでダンジョンに潜った。
◇
翌日には新しいクラス群が出現していた。
剣士、弓兵、槍兵 。
(まぁ、普通に剣士かな……)
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■ジサン
レベル:23
クラス:剣士
クラスレベル: 0
HP:430 MP:43
AT:63 AG:43
魔法:アップ
スキル:スラッシュ
特性:剣装備強化
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剣士の後はしばらく新しいクラスが出現しなかったため、気分転換に『魔法使い』を始めてみた。
魔法使いになると、剣士の時に使えていたスキルはほとんど使えなくなった。
どうやらクラスによって前のクラスから継承できる魔法、スキル、特性が異なるというシステムのようだ。
その後、いくつかのクラスを経て、彼は『ソルジャー』となる。
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■ジサン
レベル:51
クラス:ソルジャー
クラスレベル: 20
HP:1010 MP:255
AT:411 AG:283
魔法:レイジ
スキル:粉砕斬、身を守る、自己治癒
特性:剣装備強化、状態異常耐性
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魔法、スキル、特性は別クラスにて習得済みの物の中から、適性のあるものを選択していくつかを引き継げた。
この頃にはドラゴンやデーモンクラスのモンスターも普通に出現していた。
受けた記憶のないクエストも時折、クリアしたことになっていた。
ジサンは知らなかったが、ダンジョンの外ではギルドなる場所でクエストを受注できた。
だが、野良クエストのようなものもあるようで、ジサンは知らぬ間にクエスト対象モンスターを討伐していた。
そして、ジサンにとっての契機が訪れる。
クエスト報酬アイテム[テイムソード]
テイムソードは倒したモンスターを一定確率で捕獲できるというものであった。
ジサンに知る由もないが、それなりにレアな代物である。
しかし、レアな割には、モンスターを捕獲できる以外は同ランクの装備に劣る。
捕獲したモンスターは鑑賞するくらいしか使い道がないと思われていたため、使用するプレイヤーはほとんどいなかった。
だが、ジサンはこれにハマる。ハマりにハマる。
それから彼のモンスター収集ライフが始まるのであった。
◇
ジサンが最初に捕獲したのは、マリモ・スライムというモンスターであった。
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■マリモ・スライム ランクC
レベル:14
HP:287 MP:80
AT:52 AG:91
魔法:なし
スキル:まとわりつく、光合成
特性:なし
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モンスターにもレベルがあり、プレイヤー同様のステータスが用意されていた。
そして、プレイヤーにはないランクというものがあった。
マリモ・スライムのランクはC。
このランクは良いのか悪いのか……
彼はそれが気になり、次のモンスターをテイムした。
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■シルバー・ファング ランクE
レベル:21
HP:648 MP:67
AT:65 AG:120
魔法:アイス・ナックル
スキル:噛り付く
特性:なし
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彼が次にテイムしたのはシルバー・ファング。
明らかにマリモ・スライムよりは上級のモンスターであった。
シルバー・ファングのランクはE。
まさかのバストサイズ方式にジサンの中の何かに火が付いた。
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マリモ・スライム ランクC 4
ミドチュウ ランクD 12
ムーン・スフィア ランクD 6
シルバー・ファング ランクE 2
サラマンダー ランクF 1
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ジサンが初日にテイムしたモンスターだ。
テイムするとモンスター図鑑に登録され、観賞できる。
逆に言えば、それしかできない。
だが、ジサンにとってはそれでも十分、楽しかった。
初日、テイムできた最高ランクのモンスターはサラマンダー。
ジサンはすでにこれよりも上級のモンスターを相手にレベル上げをしていたが、なかなかテイムすることはできなかった。
そのモンスターをテイムしたらどんなランクなのだろうかという気持ちがジサンを支配した。
ジサンはその後もより深い階層へ新たなモンスターを求め進んだ。
浅い階層で低ランクのモンスターも捕獲したい気持ちはあったが、浅い階層には、別のプレイヤーと出会ってしまう可能性がある。
ジサンは他プレイヤーとは極力、会いたくなかった。
別のダンジョンに行きたいという欲求も多少あった。
しかし、ジサンは最初に選んだカスカベ外郭地下ダンジョンにおいて未だ最下層へ到達していなかった。
下層へ行けば、新たなモンスターが出現するため、ジサンはまずはこのダンジョンを攻略する方が得策であると考えた。
ジサンが、このダンジョンが国内唯一の無限延伸ダンジョンであると知るのはしばらく後である。
そんなジサンに再び転機が訪れる。
<ペットブリーダー>というクラスへのクラスチェンジボーナスで手に入れた特性<魔物交配>。
これにより、ジサンのモンスター収集ライフはいっそう豊かなものとなる。
◇
ボスの難易度、及びその討伐報酬は常時、全プレイヤーに公開されていた。
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<難易度><名称>
┗<報酬><説明>
第一魔王 ロデラ
┗魔具:時遡玉 任意の一名が時を遡行できる
第二魔王 ラファンダル
┗魔具:生命の雫 死亡した任意の一名を蘇生できる
第三魔王 ノヴァアーク
┗魔具:魔媚薬 任意の一名を使用者に惚れさせる
第四魔王 アンディマ
┗<非武装地帯> 一部の地域を人間の安全地帯とする
魔公爵 ワウカリ
┗魔装:筋肉鎧 攻撃力が大きく上昇する装備品
魔公爵 デスポトロ
┗魔具:反射石 一度だけいかなる魔法も反射する
魔公爵 ミシュラオ
┗魔法:ブラスト 光属性の強力な攻撃魔法
(省略)
魔公爵 ディミト
┗バス:首22 首都圏のバスを一ルート開通する
==========================
魔王ランクが最上級で四体の魔王が設定されていた。
しかし、ジサンはあまり興味がなかった。
当初は、興味がないこともなかった。
ジサンが通常ボス攻略に興味を失った理由は主に二つだ。
一つは、ボスは捕獲対象外であったこと。
彼の最大の愉悦はモンスター図鑑を埋めることであったのだ。
もう一つは、ダンジョンの外に出るのが少々、億劫であったことだ。
カスカベダンジョンには有り難いことに階層間に簡易的な生活施設が用意されていた。
ダンジョンから抜け出すのは専用のアイテムがあるため容易であったが、戻ってくるのはそれなりに大変である。
外で善良なプレイヤー達が人類解放のために戦っている時分、ジサンの中ではモンスターの配合がブームとなっていた。
モンスターの配合は彼にとって素晴らしいシステムであった。
モンスターボックスは各種族に対して一枠の固定枠があるが、余剰のモンスターを入れる枠は500しかなかった。
ジサンはテイムを始めて5日程度で余剰枠を使い果たしてしまった。
以降は余ったモンスターは逃がすということをしていた。
配合が可能になったことでモンスターを無駄にすることなく、さらにレアなモンスターを手に入れることができるようになった。
これにより、ジサンのモンスター収集の生産性は飛躍的に向上していた。
配合により生成されるモンスターは掛け合わせる種類と運による要素の半々くらいであった。
ハズレがかなり多いものの数打ちゃ当たる期待感もあり、彼の就寝前の日課になっていた。
彼は試行を重ねることで、ある程度の法則を発見した。
同ランク同士の配合をすると、稀に上のランクのモンスターが生成される。
例えば、
CランクとCランクのモンスターを配合すると、
多くはCランク
10回に1回くらいの頻度でDランク
100回に1回くらいの頻度でEランク
のモンスターが生成された。
逆に違うランク同士のモンスターを配合しても上のランクのモンスター以上のモンスターが生成されることはなかった。
従って、基本的に同ランク同士のモンスターを配合していくことが効率的であった。
配合ができるようになっていた頃、ジサンはすでにランクI、J、K辺りまで野良モンスターをテイムできるようになっていた。
配合により、ジサンはこれまで入手したことのなかったランクL以上のモンスター三体を手に入れた。
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メテオ・グリフォン ランクM
ブルー・ドラゴン ランクL
フェザー・スライム ランクL
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ランクMとは外の世界のボス、魔公爵クラスに相当するレベルであった。
(AIが作ったゲーム、なかなかハードだな……未だ、一つのダンジョンすらクリアできずか……潜れば潜るほど、モンスターもより強力になっていくし……)
しかし、当の本人はこのように思っているのであった。
そんな頃、新たな契機が訪れる。
『クラス:テイマー』へのクラスチェンジが可能となる。
クラス:テイマーの固有特性『魔物使役』により、モンスターを一匹、連れて戦えるようになったのだ。
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