ダンジョンがあふれる現代ですが、俺の【異世界ダンジョン】は仕様が違うようなのですが?

くちばしの子

第1話 俺って、好奇心旺盛な社会不適合者なんだよね

 2025年、世界中で同時多発的に大規模な異変が起きた。


『なんだこれ』

 SNSに写真が添付され投稿される。

 シンプルな文言だったが、その異様な光景と、投稿スピードが早かったこと、影響力の強いアカウントだったことが重なり、その投稿は瞬く間に拡散された。


「...扉?」

 道の大通り、その上に車道を遮るようにして大きな扉がある写真だった。

 何かに扉がついているわけではない。どこでもドアのように扉だけが、道路の上に佇んでいた。


 本来ならつまらないAI生成だと断じて興味は湧かないんだけど、リプ欄では興味深い情報がズラリと並んでいた。


『この扉、俺の家の近くでも見た』

『私も』


『触った人みんなどこかに消えたよ! 瞬間移動したみたいに』

『俺、扉に触れた組だけど。マジで瞬間移動した』

『まじでどこで◯ドアなのかww』

『ああ、でも笑い事じゃない。俺はその中で化け物を見た。漫画とかでよく見るゴブリンってやつ』

『嘘乙ww そんなん実際いる訳ないじゃんww』

『俺も触った組だけどマジ。俺はゴブリンみたいなやつじゃなくてスライムみたいなやつだったけど。

 そいつを倒したら頭の中にメッセージが流れて、元の場所に帰れるようになったんだ』


『これ見ても疑うか? グロ注意』

 先程ゴブリンが居たと投稿していたやつが続けて写真を添付する。

 白いワイシャツに染み込んだ大量の血が見えた。

 どうやら中のゴブリンに噛みつかれたときに出来た怪我らしい。


 そんな話がネット上のそこら中で散見される。


「今から3時間前か......」

 現在、昼の3時過ぎ。発端の投稿からほぼ3時間が経過している。


 くそ......せっかくの面白そうな話なのに乗り遅れた!


 昨夜は徹夜でゲームの高難度クエストの記録に挑戦していたため、この時間に寝起きなのだ。

 ん? 仕事や学校は行かないのかって? ニートだよニート。

 俺は楽しいことしかしたくないの。学校や仕事が楽しかったときはちゃんと行ってたよ。ほんと。

 まあ頑張って働いたんだから休む期間は必要だよね。


 そんな自堕落な俺だが、俺のセンサーがビンビンに反応している。これ、面白そうだな、と。

 現実的に考えてあり得ない、だが、実際に起きているのだから柔軟に考えるのが利口なんじゃなかろうか。

 この世界はファンタジーなんだと。


「......よし!」

 俺は急いで支度を整えて外に飛び出す。

 その間僅か15分。

 寝癖を直し、スキンケアをし、動きやすい服装に着替え、日焼け止めまでばっちりしてこの時間......我ながら優秀なんじゃないだろうか。


 俺は走りながらもスマホを操作する。ネットにはこの扉に関するリアルタイムの投稿で溢れかえっており、特に扉の出現位置に関する情報に意識を向ける。


 ...ほとんど屋内には発生してないのか。サイズの問題?

 多分体育館くらいの空間がないと入らなさそうなんだよな。これ。

 でも扉の数は少なくなさそう。日本に限ってみても相当数の場所で発見されてる。

 SNSに投稿されないものや人がまだ見つけてない場所などを考えるとかなりの数だ。


 俺は扉のサイズを考え、大通りを探そうと家のある細い道から車が行き交う道路へ向かう。

 すると想像よりも早く、というか大通りへ出た先のすぐの場所に、扉は存在していた。

 道を塞ぐように扉が発生しているのでわかりやすく渋滞が発生している。


 うーん、近付きにくいなあ。

 車道の上にある扉に向かって歩くのって憚られるよね。

 でもそこは自己欲求に忠実なダメ人間の俺。


 そんな常識を考えたのは一瞬だけで、動かないでいる車を通り抜けて扉に向かって走る。


 あんなに血だらけになってる人が居るんだ。中は凄く危険なんだろう。

 もしかしたら死ぬかもしれない。


 でも、何故だろう? 俺の足は速度を緩めることなく、むしろドンドン加速していく。


 ――プーーーーッッ!!

「よっと」

 クラクションが鳴らされると同時に俺は扉に手を触れた。

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