壽𠮷の終わりに、始まる家族

壽𠮷 和也

プロローグ 祖父の葬式の夜

「おまんには何ができるんぞな」

葬儀の終わったその日の夕方。実家で、遺族である長男、次男。緊迫しているのは明らかだ。

「おまん、親父に、あれだけようしてもらいよって何を言いよるんぞな」次男に長男が返す。

「偉そうに言うなや。スポーツカーくらいわしでも乗れるわい」と次男。

「じゃけん、遺産はいらんて大昔から言いよるじゃろが。こがな長男はおらんどな」と長男。

「金がないもんが、何を言いよるんぞな。わしはの、管理職にはなれんかったけどな、年収も退職金もおまんよりようけある。70歳まで雇うてもらえる、ええ会社ぞな」と切り返す次男。


口に手を当て、何か考え無言の長男。宙に視線を泳がす。

「ええよ。親父の遺産はきっちり3等分してやるわい。割り切れんかった1円だけ、わしがもらうわい、介護したけんの」と次男が追いうつ。


無言の長男。長い沈黙。戻された視線は次男から外さない。


やっと開いた長男の口から、

「これ以上の話はないけんの。わしは帰るけん」



実家を後にした。

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