第14話 とある幽霊少年3
「なあ那久良。昨日急に走り出してたけど、何かあったのか? ——まさか、お前に霊感が!?」
投稿直後の朝の学校。俺は違う違う、と俺は必死に首を振った。
あれ、でも幽霊と話しているなら霊感ありか?
そんなのはどうでもよいいから、とりあえず言い訳しよう。
「ちょっと忘れ物をしたんだ」
「本当か〜?」
「…………」
……嘘だから何も言えない。
「まあ、そういうことにしておいてやる。それで、一体”あの家”に何があったんだ?」
俺は渡瀬、野仲、那久良の三人は失踪しているにも関わらず、その記録が残っていないことを説明した。
「確かに、それは変だな。それで、そこが怪しいって目を付けたわけか」
ああ、その通りだ。と俺は言った。
「それで、俺はどうしたらいい? まだ野仲の方には当たってないけど、そっち行こうか?」
そうか。考えてみれば当然だが、郷田から見ればあれで渡瀬の件は終わりに見えるのか。
だが、さすがに同時に二件抱えるのは難しいし、ちょっと待ってもらおう。
「いや、それはちょっと待って——」
『ねえ。あの置手紙はどういうつもりですか?』
「うわっ!」
俺は思わず叫んでしまった。朝の喧騒の中でひときわ目立ってしまい、周りの視線が気まずい。
「どうした? 虫でもいたのか?」
「……あ、ああ。ハエが」
いい感じに郷田がフォローしてくれた。もちろん郷田の早とちりだけど、結果オーライ。
すると、今度はスマホが鳴った。LINEじゃなくてメールの音だった。こんな時間に誰がメールなんて……と思ってみると……。
『from:goostgirl 誰が虫なんでしょう?』
なんか変なメールが来た。
『from:goostgirl』? そんなメアドないだろ。
俺は自分の右隣にたたずむ幽霊少女を見る。どうもむくれているみたいだ。虫呼わばりが嫌だったらしい。
そういえば、渡瀬の霊も『電子信号には干渉しやすい』って言っていた。つまり、どうにかこうにか俺のスマホに霊障を起こし、存在しないメアドから好きなメッセージを送ったというわけか。
『あの置手紙について聞きたいから、一方的に話しますね。返事がしたいときはスマホを机の中に隠して、その上でメモアプリか何かに書いてください。それを読みますので』
なるほど。それじゃあ早速。
『ゴーストの正しい綴りは、goostじゃなくてghost』
『うるさいです。霊障ハッキング中の誤字です』
霊障って誤字るのか。まあタイプミスみたいなものだと思えば起こりそうだが……。
『ポケベル世代の杜島さんは、どうやってスマホに霊障なんて起こしたんだ』
『またもやうるさいです。私だって取り残されないようにたまに外に出て技術の進歩を見ているんです』
おお、死んでいても学び続けるなんて。どんな努力であろうとも、それは全て素晴らしい。俺も見習わないと。
『──こちらが見えないのをいいことに、ちょっと練習しましたけど』
大迷惑じゃねえか。文字通り本当のゴーストタッチになっちまうだろ。
杜島さんはいたずらっ子のように舌をペロッ、と出してみるが、いたずらで済むような軽い悪さでもないから、正直全く笑えない。
『それはさておき、どういうつもりなんですか、あれは。そもそも、私は雫という人間をあまり知らないんですけど』
『それはスマホにあるから好きに見てほしい』
視界の端っこで、スマホが勝手に動いているのが見える。色々とデータを漁った上で、杜島さんは言った。
『まあ、那久良くんが一体何を使って、何をしようとしているのか、それはだいたい見当がつきました。ところで、私が行くところは渡瀬さんの家だけで良いんですか? 実家に残っている可能性もありますよ』
『いや、流石に残そうとしないと思う。だから、本人が大事に隠し持っていることに期待しよう。それと、姿だけじゃダメだ。ちゃんと背景なんかから場所を特定して欲しい』
『まあ、わかりましたよ。それじゃあ、私は今から行ってこようと思いますけど……。そうでした。渡瀬さんと私がかち合うことはまずいんじゃないでしょうか。あちらが私のことを覚えているとも限りませんし、不審に思われる可能性もありますよ』
それなら大丈夫、と俺はメモアプリに打ち込んだ。
『俺が“決行”を伝えるときに渡瀬が家にいたら、伝えるなんて無理だからな。あるネットカフェで待機してもらってて、伝えたいことがあったらそこに行くことになってる。そういえば、幽霊って幻覚を見せたりできるの?』
『何か別のものに化けたり、暗示をかけるくらいなら現実でも干渉できますけど……幻覚は流石に無理です』
…………よし。作戦は大体決まった。
『じゃあ、お願い』
それでは私は行ってきます。杜島さんはそう言って、俺の感覚の外へ消えていった。
下校直後。俺のスマホにメールが届いた。気にしないことにしたのかそれともヤケクソなのか、送り主が『goostgirl』になっているから、間違いなく杜島さんからだろう。
そこには、こんな内容が書かれていた。
『from:goostgirl 例の情報は手に入りました。場所は梨瓜山。それでは、渡瀬家の前あたりで落ち合いましょう。シナリオはどうしますか』
……聞かれても困る。こちらから連絡する手段がないのに質問されるとは。
一応、俺の中でシナリオはまとまっている。それは向こうで話そう。
俺は家に帰り、荷物を置いて適当なジョギングっぽい服装に着替える。そしてアップとばかりに軽くジョギングをして、不自然さを紛らわしながら渡瀬家へと足を運んだ。
さて……作戦開始だ。
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