第13話 とある幽霊少年2
『……母は、子供のことをいびるタイプでした。何かにつけて“お前はできないやつだ”って言ってきたり、友達のことを“趣味が悪い”っていったり、まあとにかく口が悪かったんです。しかもそれがエスカレートして、殴る蹴るに繋がることもありました』
「……それが、お前が自殺した原因なのか?」
はい、と渡瀬はうなづいた。
『僕が最初あの”部屋”に来た時、正直嬉しかったんです。これであの母親から逃げて、存分に遊んでいられっるって。自由に過ごせるって思って、狂喜乱舞しました……でも、駄目だったんですある時、僕はあの家に行ってみました。そうしたら、母の横暴は続いたまま。今度は姉が犠牲になっていました』
姉……というと、あの家にいたもう一人の女性か。三十年もたっているのだから、あれくらいの年齢になるだろう。
『僕はそれを見て思ったんですよ。ああ、この人はだめだ、って。だから、どうにかぶっ殺してやれないかといろいろとやっていたんです』
クールな顔から放たれたとは想像もできない『ぶっ殺す』という物騒な単語に、俺は少し恐怖を感じた。この霊は、こんな思いを三十年間も
『それで僕は、ポルターガイストを起こそうとしました。ですが、幽霊が何かに干渉するというのは難しいようです。触ることはできても、霊障として動かすのは難しい。だからせいぜい、不安定な皿を揺らして落としたり、水面を揺らして水をこぼれやすくするぐらいの、いやがらせ程度のことしかできませんでした。大きなものや強い力がかかっている物は、長い時間をかけて数ミリ動かせるかどうかでした。電気信号とかには、結構簡単に干渉できるんですけどね』
「……それで、俺にそれを手伝えと?」
『まさか。さすがに初対面の相手にそこまでさせられませんよ。それに……僕も、正直思いも冷めてきてます。どうせ、もう死んでしまうので』
「それじゃあ、何をしろって?」
それはですね、と彼は答えた。
「僕の母を連れ出して、二人っきりで話せる場を作ってほしいんです」
さすがに、すぐに了承するわけにはいかなかった。ほとんど初対面の相手を連れ出すなんてことは難しすぎるし、渡瀬のことを果たして信用していいのか、その確証もなかった。
「というわけで、どうしたらいいと思う?」
『なんで、私に聞きに来たんですか……』
目の前の幽霊少女は、見るからに呆れている。
ここはD組がある空間の廊下。人に聞かれたらまずい(頭おかしいやつだと思われる)ことを話すにはぴったりの場所だ。
そしてそこにいるまともに話せる人(幽霊)はたった一人。全くもって疑問に思うことはない。
『というか、今六時ですけど。もう学校閉まってますよ』
「大丈夫。姉に図書館で勉強してから帰るって言っておいたから」
出入口がないって? いやいや、日誌に書かれていたフェンスの穴はまだ空いていたから、いつでも出入り可能だ。
「それで、どう思う? 渡瀬は信用してもいいのか?」
『渡瀬君は、クールだけど情熱家だから。諦めたってのはあんまり考えられないと思いますけど……30年ですからね。私だって実年齢五十過ぎですよ』
「まあ、30年か……その間いやがらせ程度のことしかできなかったら、諦めるのも無理はないが……」
だからといって、老人を連れまわすというのはいかがなものか。それにもし俺が
『あなたは覚えていないでしょうが失踪したあなたの息子の霊が、あなたと話をしたがっています』
なんて言ってみろ? 通報ものだぞ?
『まあ、それはそうですね。それじゃあ、檻の中から頑張ってください』
ひでえ。
『それは冗談として、とりあえずは敵情視察でしょう。よく調べ、よく観察し、どんな行動でどういう反応が得られるのかを洗い出せば攻略できます』
「乙女ゲーじゃないんだから……。そういえば、そもそも生きている人と幽霊って話せるのか? 見えなければ話せないけど……」
『”見える”は”気づく”と同義です。幽霊が”見せよう”、と思えば気づかせることなんてたやすいですし、人は年を取るとそういうものが見えやすくなります。まあ大丈夫じゃないですか?』
「そうか……とりまでも、偵察は必須だな。それじゃあなんとなく道筋が固まってきたから、俺はこれで帰るな」
そう俺が言ったとたん、俺は真っ暗な廊下にいた。もはや三回目となれば、帰るのも自分の意志でできる。いやあ、便利だ。
渡瀬雫。渡瀬翼真の実の母親であり、地域社会からの印象は良好。品がよく、めったに人の悪口を言わないと言われていた。町の中ではかなり古参の一家の出だが、一度駆け落ちして長女を出産。その後実家に強制的に連れ戻されて別の人と結婚させられた。その後長男を出産したが、離婚している。
家族構成は雫、翼真、そして姉の渡瀬
家族関係はあまりわかっていないが、少なくとも虐待やネグレクトなどのうわさなどは発見できなかった。
——沼田さんに情報を求めたら、思いのほか詳細な個人情報が返ってきた。個人情報保護法とかに引っ掛かりそうで怖い。
だが一応、この時すでに俺は『一つの解決法』を見出してはいた。だが、それにはいろいろと準備がいるし、情報も足りない。それに、『最も大事なピース』が欠けている。
うまくいかないもんだな、と俺は部屋の中でつぶやいた。
「よし、明日はもっと動かないと。とりあえず、杜島さんにも手伝ってもらわないとな」
俺は直前のネガティブな発言を吹き飛ばすため、さっきよりも少し大きな声で自分に宣言した。
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