第11話 とある雑誌記者

「ええっと、君が、那久良蒼っていう子かな?」


「はい。沼田さん」


 スタバの席の一角で、俺はそう答えた。

 彼の名前は沼田圭。沼田篤の息子だそうで、親と同じでフリーライターをやっているそうだ。事務所も受け継いだらしく、そのおかげで名刺の番号が通じた。

 そして今は、電話をかけた次の日の5時。学校も塾もない。


「あの記事を書いたのは俺の父さんなんだけど、残念ながらちょっと前に逝ってしまって……。だから、俺がここに来たんだ。親父の資料は一通り二通り目を通してるし、俺も個人的に調べてるから、問題ないぞ」


 沼田さんは快活に答えた。その笑顔は実にイケメンで、実に羨ま……ゲフンゲフン。信頼できる。


「その、信じられないかもしれませんが……。また、あの事件らしきものが起こったんです」


 俺はできるだけ事細かく、そしてD組や杜島さんのことはできるだけ伏せて説明した。


「つまり……影山という人が消えているのか。しかも、誰も気づいていない……。まさに、あの事件と一緒だ」


「はい。それで提案なんですが……沼田さんのお父さんが集めた資料。それを見せてはくれませんか?」


 沼田さんは怪訝な顔をした。個人情報なども多数あるから、簡単に横流しできないのだろう。

 だからこそ、俺は切り札を持ってきた。


「沼田さん。これを見てくれませんか?」


 俺は、1冊のノートを沼田さんに差し出した。そう、あの『手記』だ。


「かなり古いものだけど……」


 沼田さんはパラパラとノートを捲る。内容を読んでいるのか不安になるスピードだ。そのまま沼田さんは最後のページの場所まで読み切ってしまう。

 その時、沼田さんの手が止まった。


「こ、これは……。す、すごい! 当時のB組の集合写真かい!」


「へ?」


 俺の頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされた。え、そんなのあったの!?


「あれ? 知らなかったn……」


「いいえ? もちろん知っていましたけど? 交換条件として出すのだから当たり前じゃないですかっ!」


 俺は沼田さんの言葉に被せるように、はっきりと否定した。それにしても不自然すぎるが、沼田さんは「そ、そう……」と納得してくれたみたいだ。

 納得してるのか微妙な感じだけど……


 閑話休題それはさておき、そんな写真があったとは。ちょうど沼田さんが写真を机の上に広げるようにして見ていたので、これはしめたと覗き見てみた。


 その写真はノートの最後の、厚紙の部分にセロハンテープで貼られていた。古いものだから当然退色しているが、撮った人の腕がよく顔や背景などははっきりと写っている。

 背景に見える『祝2年生』という文字から、おそらく日誌に書かれていた集合写真だろう。


「それで、これをくれるのかい? ああ、もちろん現物じゃなくていい。写真データだけもらえればいいんだよ」


 沼田さんは興奮した様子で身を乗り出した。俺は二つ返事で「いいですよ」と返す。


「それじゃあ、資料送るね。PDFで送るから、メアドかLINE教えて」


 こうして俺は、重要そうな資料を手に入れた。




 俺は家に帰ると、早速捜査資料を読み始めた。


 ◇◆◇


【南梨能学園普通科 2年B組 生徒名簿】


 出席番号/名前(ふりがな)/性別/部活


 1 蒼城 紗詠(あおき さえ) 女 文芸部

 2 朝霧 陽翔(あさぎり ひなた) 男 サッカー部

 3 石守 葵流(いしもり あいる) 男 水泳部

 4 伊藤 智哉(いとう ともや) 男 美術部

 5 大空 陽菜(おおぞら ひな) 女 吹奏楽部

 6 緒河 真桜(おがわ まお) 女 茶道部

 7 湖林 陸翔(こばやし りくと) 男 野球部

 8 斎之宮 健誠(さいのみや けんせい) 男 剣道部

 9 桜刃 咲羅(さくらば さくら) 女 軽音楽部

 10 紗雲間 美紗姫(さくま みさき) 女 バドミントン部

 11 砂冬 拓澄(さとう たくみ) 男 陸上部

 12 詩埜 千尋(しのはら ちひろ) 女 テニス部

 13 白礫 翔汰(しらいし しょうた) 男 卓球部

 14 鈴守 悠真(すずもり ゆうま) 男 柔道部

 15 鷹蔵 優花(たかくら ゆうか) 女 美術部

 16 鷹無 蓮司(たかなし れんじ) 男 写真部

 17 楯中 大翔(たてなか ひろと) 男 バスケ部

 18 継詠 深月(つきおか みづき) 男 自然 科学部

 19 灘川 玲奈(なだがわ れいな) 女 茶道部

 20 中嶋 結依(なかじま ゆい) 女 ダンス部

 21 那久良 蒼汰(なぐら そうた) 男 サッカー部

 22 西園寺 莉琥(さいおんじ りこ) 女 華道部

 23 野仲 和綺(のなか かずき) 女 水泳部

 24 鉢詰 莉凪(はしづめ りな) 女 軽音部

 25 隼林 大智(はやし だいち) 男 柔道部

 26 原乃 彩詠(はらの あやの) 女 文芸部

 27 藤咲 紗來(ふじさき さら) 女 吹奏楽部

 28 松風 駿磨(まつかぜ しゅんま) 男 バスケ部

 29 杜嶋 美理(もりしま まり) 女 テニス部

 30 渡瀬 翼真(わたせ つばさ) 男 サッカー部


【関係者証言に基づく性格傾向】


 1 蒼城 紗詠(あおき さえ)

 ・内向的で観察力が鋭い読書家

 2 朝霧 陽翔(あさぎり ひなた)

 ・明るくリーダーシップのあるムードメーカー

 3 石守 葵流(いしもり あいる)

 ・クールでマイペース、芯が強い

 4 伊藤 智哉(いとう ともや)

 ・芸術肌で繊細、周囲の色彩に敏感

 5 大空 陽菜(おおぞら ひな)

 ・天然で人懐っこい、みんなの妹的存在

 6 緒河 真桜(おがわ まお)

 ・礼儀正しく落ち着いた古風美人

 7 湖林 陸翔(こばやし りくと)

 ・責任感が強く、努力家のキャプテン

 8 斎之宮 健誠(さいのみや けんせい)

 ・真面目一徹、規律を重んじる硬派

 9 桜刃 咲羅(さくらば さくら)

 ・好奇心旺盛で表現力豊かなクリエイター

 10 紗雲間 美紗姫(さくま みさき)

 ・優雅で気配り上手なクラスのムードメーカー

 11 砂冬 拓澄(さとう たくみ)

 ・スポーツ万能で猪突猛進型

 12 詩埜 千尋(しのはら ちひろ)

 ・柔らかな声で周囲を癒す癒し系

 13 白礫 翔汰(しらいし しょうた)

 ・負けず嫌い、勝負強い精神の持ち主

 14 鈴守 悠真(すずもり ゆうま)

 ・穏やかで協調性抜群のまとめ役

 15 鷹蔵 優花(たかくら ゆうか)

 ・芯の強い情熱家、自己表現を恐れない

 16 鷹無 蓮司(たかなし れんじ)

 ・冷静沈着で写真の構図にこだわる審美派

 17 楯中 大翔(たてなか ひろと)

 ・無邪気でムードを盛り上げるムードメーカー

 18 継詠 深月(つきおか みづき)

 ・引っ込み思案で頑固者の理論派

 19 灘川 玲奈(なだがわ れいな)

 ・和の心を大切にするお茶目なお嬢様

 20 中嶋 結依(なかじま ゆい)

 ・天才的なダンスセンスを持つ社交家

 21 那久良 蒼汰(なぐら そうた)

 ・負担を一手に引き受ける世話焼き

 22 西園寺 莉琥(さいおんじ りこ)

 ・エレガントで芯のあるお嬢様

 23 野仲 和綺(のなか かずき)

 ・粘り強くチームを支える縁の下の力持ち

 24 鉢詰 莉凪(はしづめ りな)

 ・感受性豊かで舞台上では別人のように輝く

 25 隼林 大智(はやし だいち)

 ・スピード感あふれる好奇心の権化

 26 原乃 彩詠(はらの あやの)

 ・言葉を紡ぐのが得意な文章家

 27 藤咲 紗來(ふじさき さら)

 ・負けず嫌いで努力家の管楽器奏者

 28 松風 駿磨(まつかぜ しゅんま)

 ・スマートで勝負どころに強い

 29 杜嶋 美理(もりしま まり)

 ・優しいハーモニーでみんなを包み込む

 30 渡瀬 翼真(わたせ つばさ)

 ・クールに見えて実は情に厚い


【 失踪記録一覧】


 日付/失踪者


 7月3日(木)  大空 陽菜

 7月4日(金)  中嶋 結依

 7月8日(火)  継詠 深月

 7月10日(木)  西園寺 莉琥

 7月13日(日)  湖林 陸翔、藤咲 紗來

 7月15日(火)  伊藤 智哉

 7月22日(火)  鷹蔵 優花

 7月23日(水)  鈴守 悠真

 7月30日(水)  砂冬 拓澄

 8月2日(土)  紗雲間 美紗姫、鉢詰 莉凪

 8月5日(火)  石守 葵流、灘川 玲奈

 8月6日(水)  白礫 翔汰

 8月7日(木)  桜刃 咲羅

 8月13日(水)  鷹無 蓮司

 8月17日(日)  詩埜 千尋、原乃 彩詠

 8月21日(木)  蒼城 紗詠

 8月24日(日)  緒河 真桜

 8月27日(水)  斎之宮 健誠、隼林 大智、楯中 大翔

 8月31日(日)  朝霧 陽翔、松風 駿磨


 ◇◆◇


 ──どうやら、かなり詳細な資料を得られたみたいだ。最後に失踪した人間も、日誌の内容と見事に一致する。

 だが、なんだか変だ。何だこの違和感は? 何か必要な情報が欠けているような……


 そこまで考えた時、俺は一つの可能性に行き着いた。

 杜島さんを含めた最初に消えた四人の記録が、


 確か杜島さんはあの部屋を要領不足キャパオーバーと評した。そしてもし容量があればとも。


 この資料を見るまでは、日誌の情報を鵜呑みにして最初にやってきた人物の候補を三人に絞ることは、本来できなかった。書き手である『朝霧』が誰かが消えたことに後から気づいていた可能性もあるし、教室の外に出られるのなら杜島さんが必ず見ているとも限らない。

 だがこの資料は、『気付かれていない』という明らかに初期に入室した人間が誰かを示している。

 

 よし、これは大きな一歩だ。

 そう息巻いていた頃、タイミングよく郷田からのLINEが届いた。もしかして、聞き込みの報告だろうか。


 そう思ってスマホを開いた。すると


『ポルターガイスト発生。渡瀬家に急行してくれ』


 少なくとも、まともな報告ではないことは確かだった。

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