第6話 とある手記4

 4月27日


 さて、また一週間が空いてしまった。

 そもそも毎日日記を書くというのが、生活リズム的に無理なんだ!


 まあそんなことを言ってしまったら日記をつける意味がなくなるから、こういう時こそ発想の転換だ。一週間おきにしか書けないのなら、一週間のまとめを書くようにしてしまえばいい。


 あの肝試しのおかげで、杜島さんのコミュ力はかなり上がった。どんなに人と話すのが怖くても、真っ暗な学校で散り散りになるよりはマシだと思えているのかもしれない。


 それと、先生がクラスにとても溶け込んだ。生徒と先生の間の垣根が取り払われ、(間違いなく醜態を晒して吹っ切れたんだと思う)以前よりもフレンドリーになった。

 ついでに、那久良とは特に仲良くなっているみたいだけど……


 まあ、泣きついた相手だしね。

 

 なんだか楽しそうな学校生活になりそうだな。

 

 5月4日


 勉強が辛い〜!


 やっぱりうちの学校はまともな進学校じゃなかった。口を開けば


「私たちは受験のプロ」


「二兎も三兎も追ってください」


「受験は団体戦」


 何を言ってるんだ!  受験のプロが慶応と早稲田を否定するなよ! 進学実績作りたいなら勉強だけ追わせろよ! 受験は個人戦だよ受験分担したら立派な不正だよ!


 ──ふう、疲れた。2年1学期なのに「あなた達は受験生です」なんて言われて憂鬱だったから、つい心の声が漏れ出まくってしまった。

 それになんというか、特進は妙に締め付けが強い気がする。菜々美先生のような新人よりも、昔からいる先生達はそれが顕著だ。

 多分、地元癒着型の高校だからだろう。この街は少し田舎だからか、妙な閉鎖意識がある。なんでもすぐ噂にするし、そのレッテルはここにいる限りずっと付きまとう。そういう面では、僕はこの街が嫌いだった。


 そしてやはり、モンスターペアレンツの存在か。大抵この地域の親は、いい大学に子供が行けば、それで安泰だと思っている。だからこその圧力の強さ。


 ──もしかしたら、生徒が自殺したというのが、学校と親の上下関係を助長しているのかもしれない。


 けど、いいこともちゃんとある。杜島さんが模試でいい点を取ったり、那久良がスタメン入りを目指して奮闘したり、先生に新しく甥っ子ができたり。


 まあ、気楽に行こう。


 5月11日


 少し困ったことになった。どうやら、杜島さんの親に肝試しに行っていたことがばれたらしい。


 彼女の親はこの地域で有名な地主だ。しかもその親は、『不純異性交遊だ』と騒ぎ立てているとのこと。今は菜々美先生が対応にあたってくれているけれど、それも長続きしないだろう。


 とにかく、何とか僕にできることをしないと。






 6月29日


 本当に、とても間が空いてしまった。正直日記を書く気にもなれなかったんだけど、大事件が起こったんだ。これは書かないといけない、そう思った。


 野仲、渡瀬、那久良。3


 それに気づいたきっかけは、杜島さんの言葉だった。


「ねえ、那久良くんって最近来てないね」


 僕は一瞬、首をかしげてしまった。そう、僕はその時まで

 指摘されて僕は、那久良のことを思い出した。彼の机を見ると、確かに何日分かのプリントがたまっている。


 そして僕は、他にもいない人がいることに気づいた。それが渡瀬と野仲だ。この3人は学校にいないにもかかわらず欠席かそうでないかすら記録されていなかった。

 しかも、問題なのはそれだけじゃない。

 僕は渡瀬と野仲、二人のことをさも知っているように書いたが、実のところ僕には。一年間同じクラスにいたはずなのに、声も姿も何も思い出せないのだ。

 名前を特定したのも、クラスにいないのが那久良とこの名前で名簿に書かれている人物のみという、消去法によるもの。杜島さんが気付けたのだって、今日たまたま日直で、違和感を感じて思い出しただけらしい。

 

 さすがに、二度目はないだろう。

 そう思っているけれど、一応僕は出欠簿を毎日確認することにした。


 7月1日


 杜島さんが消えた。おかしい。絶対におかしい! しかも僕はまた、杜島さんのことを忘れかけていた。普通起こり得ないことが、こんなにも起こっている。

 

 いったい、何が起こってるんだ?




 陽菜が消えた。


 結衣が消えた。


 深月が消えた。


 莉琥が消えた。


 陸翔が消えた。


 紗來が消えた。


 智哉が消えた。


 優花が消えた。


 悠真が消えた。


 拓澄が消えた。


 美紗姫が消えた。


 莉凪が消えた。


 葵流が消えた。


 玲奈が消えた。


 翔汰が消えた。


 咲羅が消えた。


 蓮司が消えた。


 千尋が消えた。


 彩詠が消えた。


 紗詠が消えた。


 真桜が消えた。


 健誠が消えた。


 大智が消えた。


 大翔が消えた。




 8月31日


 何が起きているのか、さっぱりわからない。次々と、クラスの人間が失踪するなんて。


 僕は始業式の日に撮った写真を見た。ここに写っているみんなのうち、まだ消えていないのは駿磨と僕の二人だけ。他の顔は、見ても全くわからない。


 意味がわからない。だけど、きっと僕も──

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