第4話 とある手記2

 俺は雑誌を閉じた。この先には、無責任で無秩序な考察が並べ立てられているだけだったからだ。

 だが、ここで得られた情報は大きい。俺が迷い込んだ『あの教室』が、もしかしたら関係があるのかもしれない。それが裏打ちされたような気分だった。




 それじゃあ、今日は寝るか。

 俺はベッドに入った。


 ◇◆◇


 手記


 ——始業式が終わった後、僕たちは記念写真を撮った。写真は、写真部の鷹無たかなし 蓮司れんじが撮ってくれた。


「右側もう少し詰めてください。画角に収まりません」


 鷹無は一眼レフを三脚にセットし。、詰めろ頭を下ろせ口角を上げろなど様々に指示を出した。


「うん。三十人も収まるとやっぱりいいね。それでは、シャッターを押してから十秒で写真が撮られるので、それまでキープしてください」


 鷹無はシャッターを押すと、素早く列に加わった。

 パシャ。


「撮った写真は来週には焼いてくるので、それまで待っててください」


 鷹無は、自分のカメラを満足そうに見つめた。




4月18日


なんてこった。日記のつもりだったのに、一週間も開いてしまった。いくら本格的に特進らしくなってきたとはいえ、こんなに忙しいなんて。


「よお、何書いてんだ? 好きなやつにやつポエムか?」


 那久良がおかしなことを言い始めた。学校で授業とは違うノートを書いていたら、それはまあ変だけど、そんな解釈をする奴がいるか。


「違うよ。日記をつけようと思ったんだけど、なかなか続かなくてね」


「まあいいや。ところで相談なんだけどよ。ちょっと肝試しをしねえか?」


「はあ? 今は四月なのに、もう夏になった気分なのか?」


 毎度のことながら、那久良は唐突なことばかり言う。なんでまた、そんなことを始めようと……。


「ちょっとここでは話しづらいな。……よし、ちょっとトイレ付き合え」


 そこで理由を話す、ってわけか。

 僕は了承した。どうせ日記を書く暇があったのだから、友達との時間を大切にした方がいいはずだ。


 トイレの中に入った那久良は、誰かが聞き耳を立てているわけでもあるまいに、僕の耳に口を近づけてヒソヒソと話し出した。


「今のお前、根詰めすぎだからな」


「何を寝ぼけたことを言ってるの。いつも赤点ギリギリの那久良にそんなことは言われたくない」


「うっせ。要するにちょっとは息抜きしようぜ、ってことだよ」


「……まあ、そうかもね。それで、どこに行く気なの? この辺に心霊スポットなんかあったっけ?」


「その辺は俺にプランがある。そう、極秘のスキャーリースクール計画がな!」


 言っちゃったよ。スクールって言った。絶対深夜の学校に忍び込む気だろ。

 お馬鹿な友人は、センスのかけらもない計画名を繰り返し唱え、悦に浸っている。厨二病特有の反応だ。


「それじゃあ、教室に戻るから。厨二病くんは右手がうずかないようにしてから返ってきたほうがいいよ」


「うっせえよ!」




「あの、肝試しをするんですか?」


教室に戻ってから、杜島さんが話しかけてきた。隣の席だから、聞き耳を立てずとも聞こえていたのだろう。


「まあ、そうだね。……多分那久良は深夜の学校に忍び込むつもりだろうけど……」


へ、へえ〜と、杜島さんは苦笑い。まあ、普通に校則違反だろうし。


「具体的な計画は、那久良が秘密の計画を立てているらしいけど……まあ全部言っちゃってたよ」


「恐怖の学校計画とかですか?」


 惜しい。英語にしたら完璧だ。


「それで本題なんですけど、その……私も来ていいですか? ちょっと興味があって……」


「僕はいいし、多分那久良もいいと思うけど……」


 那久良は高校生男子という思春期エッセンスを存分に凝縮した感じの人間だ。杜島さんは綺麗だし、那久良が嫌がるわけがない。でも……


「肝試しだし、絶対に遅くなるよ? 那久良のことだから丑三つ時に、なんて言うかもしれないし、家の人が心配すると思うよ」


 それだけじゃない。もし杜島さんの親がエッッなことだと誤解すれば、下手をすれば退学もあり得る。南梨能学園は地域密着ならぬ地域癒着の感じが強いから、モンスターペアレンツやPTAに弱い。


「……それは、大丈夫。丑三つ時なら黙って出てくれば、バレない」


 杜島さんはと手を握った。

 ……意外とワイルド?

 その真偽はさておき、さすがにバレたら困るけど……


「大丈夫です! それに……これは、私のコミュ障を治すきっかけにできると思うんです。こう言うバカ騒ぎみたいなものが、私には多分、必要なんです」


「……よし、それじゃあ那久良にそれ込みで計画を立ててもらおう。荷物とかも確認しないとだし」


 その後那久良は、即OKを出した。予想はしてたけど。




 4月20日


4月20日の丑三つ時、つまり午前2時に決行となった。


「よお、ちゃんと起きれたみたいだな」


那久良は真夜中だと言うのに、元気な声を上げる。


「課題大変なんだぞ。それで、今から学校に行くのか?」


「は? なんで知ってんだ?」


 計画名で全部わかることに気がつかないとは。やはりうちの高校はまともな進学校ではないらしい。

 張り紙に「We have many advise for you」なんて書く学校だし。

 これ以上書いてこの日記が見つかるとどやされそうなので、学校の悪口はこれぐらいにしておこう。


「それで、ちゃんと抜け出せたのか?」


 那久良は僕とは別の人、つまり杜島さんに尋ねた。


「はい、みんな寝てるはずです」


「ただなんで制服なんだ? なんならパジャマ姿でグフォアエ!」


 僕は一人の変態の口を塞ぐべく、変態の鳩尾に一発入れた。


「お、おい! 何すんだよ!」


「よし、それじゃあ行こうか」


「うおいっ! 無視すんな!」


 那久良は後ろからお腹を抱えてついてきた。いやあ、なんでお腹が痛いのかな。変な者でも食べたのかな。(確信犯)

 それはそうと、と僕は言った。


「学校の、何を目的にして忍び込むの? この学校、あまり怪談とか聞かないけど」


「まあ、そういうもんだよ。だけどな、俺は一つとくダネを掴んだんだ。この学校の昔の不祥事に関わる怪談をな!」


「それは?」


「確か昔、いじめを苦に自殺した奴がいたらしくてな、それ以来現れるんだってよ」


「霊が?」


「いや、存在しない教室。二年D組だ」

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