おまえの涙がグローバルIPアドレスに変わるまで、神のふりして歌ってやる
樫木佐帆 ks
世界の与薬
計量された人間性
社会に管理された涙を流す
注射針の先端にある倫理は何処に向かうのだろうか
国家は呼吸までもを監視する
毎朝の通知に「幸福」が含まれている
それは偽物かもしれないが
僕たちは痛みを忘れてゆく
感情は抑制され
泣く機能が退化していく
動画サイトであやされた幼児は
飽きるほどモンスター化している
学習障害が発生している
かつて熱を出せた身体は
いま、冷却アプリで沈静化される
白血球の怒りも抑制され
脈拍まで監視されている
一般的、もしくは普通という言葉や概念で
正常値の感情だけで暮らす街
息苦しい
世界の与薬があるならば
これは救済ではなく滅亡に向かう
眠るような絶滅がやって来ている
人類は救われ過ぎたのだ
自殺者が、精神病患者が爆発的に増える
世界全体がホスピスのようなものだ
一億人の臨床試験
これは地上の天国の宿命だろうか?
老人は今日もテレビを見て思考停止する
子供でも動画サイトに慣らされ
道徳というものが失われている
錠剤のパッケージに書かれた詩があるなら
この薬はあなたを救います、だろうか
希望は市販薬になった
あなたの希望は一日一回
食後に飲んでください
過剰摂取にはご注意ください
幸福が過多になると
あなたは世界の速度についていけなくなる
世界規模の副作用がある
もうこの世界は滅茶苦茶だ
世界という病室
処方された神
降り注ぐ点滴の雨
それは過剰な情報でもある
過剰な無菌室のような都市で人は追い詰められる
感情が医療廃棄物になる時
消毒された過去はいつか救えない傷となる
世界の終わりにも
正常値が設定されている
見るがいい
AIが誕生したというのに愚かな人類を
新たな選民思想の始まり
世界に薬を
もう効かないのかもしれないけれど
この詩を読んで警戒心が出たのなら
あなたはまだ人間である
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