第21話 【常駐型】

 魔法少女には守るべき法律ルールがある。別に守る必要はないが守らなかった場合相応の痛手を負うことになる。

 その一つに倒していい魔物とダメな魔物が存在する。

 魔物には基本二種類に別れており【徘徊型】と【常駐型】の二種類がいる。【徘徊型】は文字通り辺りを動き回り一般人や魔法少女を襲う奴らで【猟犬】などがこれに該当して私たち魔法少女が狩るのはこの【徘徊型】である。

 そしてもう一つの【常駐型】はある一定領域内から出てこず、その決められたエリア内に居座るタイプがこれに該当する。そしてこの【常駐型】を討伐することは法律ルール違反である。

 なぜなのかと言うと魔法少女が魔物を討伐した際その魔物の肉体は分解されその討伐した魔法少女へと吸収されその魔法少女の糧となる。

 だから魔法少女たちは強くなるために積極的に魔物を狩る。【徘徊型】を狩って狩って狩り尽くす。でも誰一人として【常駐型】を狩るような真似はしない。

 理由の一つとしてあいつらはその動かないという特性故かどの個体も【徘徊型】を遥かに凌ぐ強さを持つ。だがこいつらを討伐できないわけではない.....特に戦闘に特化した【炎帝】さんや【血伐】さんならいとも容易くミンチか焦げ跡にしてしまうだろう。だが真の問題はこの後で強い魔物ほど大量の魔力を持つ必然的に討伐を成し遂げた魔法少女はその膨大な魔力を取り込むことになるわけだ。

 この状態を私は魔力を栄養、魔法少女を一般人として想定して考えた。短期間で栄養を摂りすぎた場合人はどうなるか?健康になる?それとも体調不良?でも魔力は私たちでもまだ詳しく分かっていない未知のエネルギーだ、つまり未知の劇物となんら変わらない。

 正解は単純明解な死。一度に注がれる大量の魔力により私たちの身体は張り裂け針山の上に落ちた水風船みたいに血を吹き出して破裂する。

 幸い【常駐型】は動かないから【魔蝕結界】で封鎖して放置という手を打つことで無力化に成功している。

 もう二度とあんな景色は見たくないけど.....あの少女と私が入ったこの廃屋はまさしくその【常駐型】の巣.....油断なんてできないし戦うことなんてもっての他だ。第一私に【常駐型】を倒すほどの力量はないし恐らくあの少女も態度から見て野良.....【おもちゃ箱】関係の人物ではない。多分魔法少女になって日が浅い常識知らずの新人だ。

 おおよそ強い魔法を手に入れて弱い魔物にしか出会わないから天狗になっているのだろう。でも決まってそんな魔法少女の行き着く先は魔物の孕袋か食料だ.....私.....いや私問わずある程度この魔法少女として生きた者なら見ることになる。

 魔物の巣に打ち捨てられた見るに堪えない同胞を.....絶望などとうに過ぎて思考することを放棄した人形を.....だから急いであの子を見つけてここから立ち去らないと!


「クルククククク?クギャルキヤリリリリリリ?」


「邪っ魔!」


 目の前に飛び出してきたのは腕が錆びついた草刈り鎌になった身の丈2m近くありそうなカマキリの魔物。懐から拳銃を取りだして魔力を弾が破裂寸前まで纏わせて撃つ!


「ギャシャァァアアアア!」


「五月っ蝿い!」


 魔物の腹辺りが綺麗に抉られ口から耳障りな奇声を上げる。続けざまに三発撃って頭を防御しようとした腕を抉り落としてそのまま頭部も吹っ飛ばす。

 倒した.....でも不味い.....こいつは多分雑兵だ.....この奥にヤバい奴がいる。私の手札はこの拳銃だけ.....【透明化】はあの子を見捨てることになりかねないから使えないし、【過災】もあの子を巻き込むことになるから使用できない.....(というか仮に殺せたとしても魔力の過剰摂取で私が死ぬってか私も【過災】は使いたくない。)


「ギキャルルルルルリリャリルルルルル!?」


 やばい、仲間を呼ばれた!ここから見えるだけでも三体.....一度に相手はしてられないここは一回だけ【透明化】で姿を消してやり過ごすしか.....


「はぁ.....やっと捕まえたぜ」


 いきなり後ろから襟首をグイッと掴まれたので後ろを見るとそれは例の少女だった。肩に木刀を担いでいて木刀の先にはあのカマキリ共の血液らしきドロドロとした緑色の液体が付着している。

 無事で良かった.....けど今すぐ逃げないと!私だけなら確実に逃げ切れるけどこの子と一緒だとどうなるか分からない。


「さ〜て散々気持っち悪く尾行してきやがった理由を聞こうじゃねぇか?あぁ?」


「話ならあとでいくらでもしてあげるから今すぐここから逃げるわよ!こっちに3匹は向かって来てるんだから.....」


「キェェェアァァァァァヴィルルルルルルル!?」


「あぁ?あいつらならもう先に殺してるぞ?ほら今すぐ本題に入ろうぜ?」


 なに.....今の.....魔力の動きが見えなかった。私は少女の手を引いて一緒に逃げようとした刹那魔物の首が一斉に落ちて血を吹き出した。

 私はこれでも情報収集をメインに活動している魔法少女だ。だから魔力の動きや目視などの解析力にはそれなりに自信がある.....でもこの少女が今さっきなにをしたのか私にはなにも見えなかったし分からなかった。

 魔力の残滓すら見えなかった.....もしかして彼女は.....


~~~


「さて.....なぜ俺を尾行していた?悪意は感じなかったから切らなかったが四六時中監視されてちゃあ気持ちが悪いからな.....相応の理由を聞かせてもらおうか?そしてもう跡をつけるのは止めろわかったな?」


「分かった.....もう監視はやめにするわ。だから話は【魔蝕結界ここ】からでてからしましょう.....どうかしました?」


「いや、なんでもない」


 ありゃりゃ?おかしいな.....もっと粘るかと思ったんだが。まぁこれで一件落着ならそれでいいかこれも全部この建物のおかげだな。

 前々から肌がキリキリするぐらいの殺気をここから感じてたから恐らく魔物の類がいるのだろうと思ってたが案の定このカマキリ共の巣窟だったわけだ。俺がここに飛び込めば責任感の強そうなこいつはわざわざ追って俺を監視しに来るだろうなという予想を立て捕まえた。

 しっかし別に期待はずれとは言わないがあまりにもあっさりしすぎて少々拍子抜けだな.....一回だけ手合わせをしてみたかったのだが、こんなことになるんだったら先に奥のヤツにちょっかい出しときゃあよかったな。

 ま、後の祭りだ今はチャチャッとこいつから話を聞いて尾行をやめさせねば。って痛.....

 前を歩いていた魔法少女の女が突然足を止めたもんだから私はそいつの背中に頭をぶつけることになった。


「おいおい、どうした?急に止まりやがって.....むぐっ!」


 愚痴ろうとしたとき女が俺の口を手で塞いだ。僅かにその手は震えていてこちらからはまだ見えないがこの先になにかがいることは気配で分かる。


「ギャキャャャャャヤアァァアア!」


 ゆっくり女の見ている方向をみると建物の唯一の玄関前で先程までいたカマキリとはくらべものにならない程の大きさと圧を持つ個体が辺りを見渡しながら随分と興奮した様子で歩き回っている。


「.....なんだ?」


「いえ別に.....」


 妙にこっちを睨んで来るからなんかあるのかと思ったら勘違いか.....でもこれでちょうどいいぐらい動けそうだな────殺るか。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 読んでいただきありがとうございます!

 頑張って投稿頻度上げたい今日この頃……








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