第17話「姪カナ、甥タカ、山に来る!?」

週末の昼下がり。シンが干し野菜を刻んでいると、山道の向こうから聞きなれたエンジン音が響いてきた。


 「……来たか」


 玄関のインターホンが鳴る。


 「おじさーん! 遊びに来たよーっ!」


 開けると、ポニーテールを揺らす元気な少女――姪のカナが笑顔で立っていた。その背後には、やや伏し目がちな少年、弟のタカがカナの背中に隠れるように立っている。


 「弟、無理やり連れてきちゃった。文句は聞かないから!」


 「……お前が言うかなぁ。もう手遅れだろ、これ」



とろける煮物と、甥の秘密


 囲炉裏のテーブルには、《痺れ根菜の白煮》が並べられ、異世界素材と現代調味料の融合が芳醇な香りを放っていた。


 「やっば、これ普通に店の味じゃん!」


 カナは感心したように一口食べてから、ぽつりと呟いた。


 「……すごいな……。こういうの、動画にしたら絶対バズるやつ……」


 そして、タカをチラッと横目で見て、にやり。


 「ね、この子さ、ゲーム実況とかやってみたいんだよ? ずっと動画とか研究してるし」


 「お、おねえちゃん……やめてよ……」


 「こういうのって言わないと始まんないじゃん?」


 「……実況、やってみたいのか?」


 「う、うん……でも、ゲームもそんなに上手くないし、機材もないし……」


 するとカナが思い出したように口を開いた。


 「おじさんさ、昔ずーっと部屋にこもってゲームしててさ……夜中に『ランクSS!』とか叫んでたの、姪の私、怖くて覚えてるんだけど?」


 「……ああ、そうだったかもな」



黒猫が知っている


 その時、薪ストーブの前で丸くなっていた黒猫が、テーブルにぴょんと飛び乗った。

 艶やかな黒毛、金色の瞳――名前はレオン。シンの“使い魔”で、彼の声はシンにしか届かない。


 『ふふん、ついに弟子ができたにゃ? ゲームニート時代の黒歴史を乗り越え、今や若き才能を導く師匠シンにゃ!』


 「やかましい……余計なこと言うな」


 『昼夜逆転、無言抜け、ファンメール0の時代が懐かしいにゃ~』


 「どんな思い出共有してんだよ……」


 「おじさん、猫と……会話してる?」


 「クセみたいなもんだ。気にすんな」


 シンはスマホを取り出し、ひとつのスクリーンショットをタカに見せた。

 そこにはかつてのランキングボード――プレイヤーネーム「SH1N」が堂々1位に表示されている。


 「これ、俺のアカウントだ」


 「……えっ!? この人、俺ずっと見てたけど……本当におじさんなの……!?」


 「特訓してやるよ。まずは操作と反応速度からな」


 「お、おねがいしますっ!」


 レオンが尻尾をふいっと揺らしながらつぶやく。


 『やれやれ……静かだった山暮らしに、弟子ができたにゃ~。厨房もゲーム部屋も拡張の予感にゃ』


 「お前まで乗っかるな……」



本命の志望


 カナがにやりと笑って箸を置いた。


 「じゃあ私は料理の弟子ってことで! この味、ほんとに売れるよ。レシピ、絶対教えて!」


 「お前までか……静かな日々、どこ行った」


 「でもさ、教えるの意外と向いてると思うよ。ね、タカ?」


 「う、うん……すごくわかりやすいし、話してると落ち着く……」


 「……褒められてんのか、微妙だな」


 黒猫レオンがごろりと寝返って、また一言。


 『にゃっはっは。これはもう“師匠シン”確定にゃ~』

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