第16話ーそれが私の罪ですか?
【「指導」という名の触手】
美香の心には、「内申点のため」と自らに言い聞かせる冷静な打算と、「芸術のため」という優等生としての仮面が張りついていた。
だがその下では、触れられるたびに走る微かな震えが、言い訳では覆いきれない何かをゆっくりと芽吹かせていた。
紺のブルマが腰をなぞるように食い込み、その下に隠された白の小さな秘密を、まるで意地悪く押しつけるように縁取っていた。
微かに張り出したその端からは、白いレースの下着の縁が息をするように顔を覗かせていた。
それを見た諏訪男は、反射的にその触手のような指先でそっとブルマの縁をめくった。
ほんの数ミリ布がずれたその瞬間、彼女の臀部を覆う下着が白い光を放ち、室内の空気が一変した。そこに漂っていた静謐さは、濃密な緊張へと染まり変わった。
「……先生」
美香の膝ががくんと傾く。
それを諏訪男の手が素早く支える──その動作自体は正しい補助だったが、掌の位置が明らかに大腿部の必要以上に「高い位置」に固定されている。
「……すみ……ません」
美香のその声は、抗議でも感謝でもなく、ただこの曖昧な状況そのものへの困惑だった。
彼女の瞳孔が開き、額に浮かんだ汗が、午後の光に照らされてきらめく。
窓の外からは、まるで遠い世界の出来事のように、野球部の歓声が響いてきた。
その無邪気な声の波は、ここで繰り広げられている静かな侵犯の残酷な対比となり、美術準備室の閉鎖空間に深い影を落としていた。
【「教育」という名の辱め】
美香は何も言わなかった。できなかった。ただ、時間が過ぎるのを待った。
彼女の思考は、終わりの見えない迷路を彷徨っていた。
自分は何を責められているのか。どこが悪いのか。その答えのない問いが、頭の中をぐるぐると回り続ける。
与えられた反省文は、まるで「罰」の仮面をかぶった偽りの文章だった。
それよりも、諏訪男による補修授業──彼の手による「追加刑」こそが、本当の罰として彼女の身体に刻まれていた。
だがそれは理不尽なものであり、何かが間違っているという感覚も確かにあった。
美香はその場で恥辱的なポーズを強いられ、教育という名のもとに辱めを受けていた。その理由は家庭の事情と、そこから逃げるように外出したことだった。
なぜそれほどまでに重い罰を受けなければならないのか──理解できないまま、彼女はその「罪」を背負わされていた。
(私の、何が悪いの?)
心の中で問いかけたその言葉は、ただの疑問ではなかった。もはや彼女にとって、それは自分の行動を問うものではなく、自分という存在そのものを見つめ直す問いへと変わっていた。
【罪と罰のパラドックス】
いつ終わるとも知れない「特別補修」の時間のなかで、美香の意識はじわじわと麻痺していった。
時計の針の音だけが、かすかな律動となって、時間の終わりを告げることなく空気を打ち続ける。
美香はついに問いかけた。声は擦れ、しかしはっきりと。
「これは……何の罰なんですか?」
諏訪男は静かに顔を上げた。
その瞳には、怒りとも苛立ちともつかない、不思議な色が宿っていた。
「お前は……先生のことを、たいして好いてはいないんだろう。それは日頃の態度からも分かっている」
「けれどな、池本。先生はお前のことを、娘のように思っている。だが、お前はそれが分かっていない。その素直でない心持ちが——今回のようなことを引き起こすんだ」
その言葉は、形なき暴力のようであり、歪んだ父性の皮をかぶった愛情のようでもあった。
「そうだ。……お前の……この身体こそが罪なんだ」
「お前のような身体は、本来なら……もっとひどく罰せられるべきだ」
諏訪男の言葉が、美術室の石膏像に冷たく反響した。
その瞬間、美香の内側で何かが音を立ててひっくり返った。
わかったようでわからない。それでも確かに、この痛みと共にあるときだけ、自分の存在が輪郭を持つ気がした。
「それが……私の……罪ですか?」
自分でも驚くほど自然に、口をついて出たその言葉。
その問いは、彼女の奥深くに眠る感情と欲望を、ほんの少しだけ顕在化させた。
罰されること。それは苦痛であると同時に、彼女が自分自身でいられる唯一の時間かもしれなかった。
遠く、廊下から放課後の笑い声が聞こえる。その明るさが、かえってこの空間の異質さを際立たせる。
彼女にとって「罰」とは、もはや他者から与えられる刑罰ではなく、自ら選び取る存在証明になりつつあった。
その逆説は、快楽でも悦びでもなく、ただ静かに、自分の深部を震わせていた。
そしてその震えこそが、美香を彼女自身として確かに立たせていたのだった。
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