第7話ー新入生

【眼前に立つ少女】


そんな抑圧の季節に――池本美香は入学してきた。


彼女の母は九州の比較的裕福な家庭の出で、いわゆる「お嬢様」として育った。


父は名古屋に支社を持つ大企業のエンジニアで、几帳面で厳格、無駄を嫌う性格だった。娘にも礼儀と沈黙を厳しく教え込んだ。


美香は、母譲りの女性らしい顔立ちと、父から受け継いだ骨太な体幹を持っていた。


広く豊かな肩幅、しなやかに伸びた背筋、ふくらはぎにはわずかに筋肉の陰影が浮かんでいた。少女らしい外見の奥に、言葉にできない“完成された何か”が潜んでいた。


瞳はアーモンド型で、目尻がすこし下がっていた。その形のせいか、いつも穏やかに微笑んでいるように見えた。


けれどその微笑は仮面だった。感情の起伏を表に出すことを、幼い頃から厳しく戒められていた美香は、笑みを“盾”として使う術をすでに心得ていた。


制服のスカートから覗く張り詰めた膝。呼吸に合わせて膨らむ、少女と女人の狭間に佇む胸元。その身体は、無自覚のうちに「視線」を引き寄せる磁力を帯びていた。


そして運命は嗤った――彼女の担任が、あの長野諏訪男であることを。


初めての授業で教壇から美香を視認した時、彼の瞳孔はすでに微かに収縮していた。分度器で計ったように正確な角度で、彼女の身体の各所に視線を走らせるその眼差し。


美香がその視線の真意に気付くのは、まだ少し先の話である。

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