第4話ーとらわれのアクション

【「とらわれのアクション」の黙示】


諏訪男の授業で繰り返し引用されたのは、アリスティド・マイヨールの『とらわれのアクション』——縄に縛られ、もだえ、抗う女性の肉体を彫り込んだ、あの大理石の彫刻だった。


筋肉は緊張し、腰はくねり、縛られた四肢は逆説的な躍動感を湛えている。


苦悶と快楽の境界が溶解し、冷たい石の肌にさえ、触れれば熱を放っているかのような官能が刻まれていた。


無機質であるがゆえに、かえってその生々しさが増幅される——それがマイヨールの魔術だった。


しかし、諏訪男はこの傑作を、己れの抑えがたい欲望の隠喩として転用した。


「芸術の鑑賞」と称し、女生徒たちを『とらわれのアクション』の生けるレプリカへと仕立て上げる。


教室という密室で、名作は歪んだ幻想の装置となり、美術教師の指先は「美的考察」を装った侵犯へと変質した。


大理石の冷たさと、少女たちの肌の温もり。


芸術の崇高さと、教師たちの卑小さ。


それらが同じ空気の中で混ざり合い、不気味な調和を奏でていた——美術室の窓から差し込む陽射しは、その醜悪な共犯関係を、あまりに鮮やかに照らし出していた。

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