第一部:空を刻む石 第五章:震える石板、沈黙の星

 観測所ウィンタ・パカの崩壊から三日後、アマルはひとつの決意を胸に、都からはるか離れた高地神殿の入り口に立っていた。

 《パルカ・ウィリャイ》――「語りの沈黙」と呼ばれるその地下神殿は、代々の記録者たちの最終の書き所であり、語られぬ記憶を封じる場所だった。

 アマルの手には、砕けた記録板のかけらと、自身で彫り上げた星図があった。そこには、夢の空も、観測の歪みも、空の裂け目も――すべてが重ねられていた。

 「これは、記録ではない。ただの記憶だ」

 アマルはそう呟きながら、最後の文字を刻んだ。星々の位置、空の変異、そして語り得ぬ光の裂け目。

 彼の彫った線は、まるで風の揺れを石に封じるかのようだった。

 石板を封じる儀式が始まった。神殿の奥、地熱でわずかに温められた封蔵室に、黒衣の神官たちが一枚の石扉を押し開ける。

 その中に、アマルの石板が収められた。

 封印文はこう記された。

 > 「開かれるは、太陽が二度昇る日」

 アマルはその場に膝をつき、声を低くして言った。

 「記憶は語られぬ限り、死に絶える。語る者を、私は待つ」

 言葉は誰に向けられたものでもなかった。

 それは、まだ生まれていない誰かに向けた“呼びかけ”であり、願いだった。

 扉が閉じられ、封印の刻が打たれたとき、アマルは空を仰いだ。

 空は晴れていた。だが星はまだ見えない。

 それでも星は、そこにいた。

 彼の知らぬ誰かが、それを見上げ、語りを再び始めるまで。

 夜が訪れ、空が闇に染まる。

 星々は何も言わず、ただ瞬いていた。

 だがアマルは知っていた。

 星は、静かに“聞いている”。

(第一部・完)


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