『神様、間違ってます! 〜チートなし平凡会社員、終末異世界で成り上がる〜』

@oninikyanabo

第一話「ようこそ終末世界へ、なお帰還手段はありません」

目を開けた瞬間、感じたのは違和感だった。


重たい空気。

焦げ臭い風。

そして、どこからか聞こえる人の悲鳴。


「……は? どこ、ここ?」


「お目覚めですね、間宮真一様」


目の前には、銀髪で白いローブを着た美青年。

背中には白い羽。漫画でしか見たことないやつ。


「私は天使アスティール。このたびは召喚に応じていただき──」


「ちょっと待って。“召喚”ってなに? 俺、定時帰りの会社員なんだけど」


 


青年──アスティールは、どこか申し訳なさそうに説明した。


「実はですね、召喚対象であった“英雄アルフェノ様”と、あなたの名前が……ちょっと表計算ミスで……」


「表計算!?」


「……はい、となりのセルに間宮様のお名前が紛れ込んでおりまして……そのままEnterキーを」


「ふざけるな神様ァァァ!!」


 


だがもう遅い。

「帰還の儀式」なるものは不具合で失敗、元の世界へ戻る術はないという。


「本当に、心からお詫びいたします。ですが、あなたにも“世界を救うチャンス”が──」


「いらん! 帰して! マジで!」



シーン:世界、めっちゃ終わってる


案内された先は、南部の辺境にある小村【イゾラ】。


「こちらで、しばらくお暮らしください」


「いや、“暮らし”って……」

• 畑、枯れてる

-水、出ない

• 魔物、村の周囲うろついてる

• 村人、目が死んでる(たぶん比喩じゃない)


「……もう帰ってよくない? っていうか、なんで俺に期待してるの?」


「期待は……とくにしてませんが?」


「してないの!?」


「ええ、間違って来た人なので……一応、保護だけはします」


 


そう。

彼は救世主ではない。英雄でもない。

ましてや「賢者」なんて大層なものでは断じてない。

ただの、会社員。Excelの関数が少し得意なだけの、普通の人間。


 



シーン:終わる初日、始まる地獄


夜。

村の青年たちが集まり、ひそひそと話していた。


「……あの人、神に選ばれたって言ってたけど、何ができんの?」

「昼間、井戸掃除手伝わせたら腰痛めてたぞ」

「あれ、神の手違いだってさ」

「ハズレじゃん」


──完全に“居場所がない”というやつだった。


 


そして、村の西側で叫び声が上がる。


「魔物だァァァ!!」


襲ってきたのは、体高2メートルを超える四足の怪物。

大人が5人がかりでやっと押し返せるレベル。


当然、真一にできることは──


「に、逃げるしかねぇえええ!!」


だが、足がもつれる。

視界が揺れる。

後頭部を打ち、血の味が口に広がる。


目の前には、牙を剥いた魔物。

落ちていた石を拾って投げるも、効かない。


「うわあああああ!!」


そして、爪が彼の腹を裂こうと振り下ろされた──


 


「そこ、どきな」


鋭い声とともに、影が飛び込む。

少女のような声だが、手には巨大な剣。


一閃。

魔物の喉元が裂け、呻きながら倒れる。


 



翌朝:ベッドの上で、動けず


「……死ぬかと思った……」


腹に巻かれた布。体中が痛い。


そばにいたのは、昨日の少女。

年齢は十代後半。だが目つきと口調は荒く、手練れの雰囲気。


「アンタ、どこの王子様かと思ったら、ただの足手まといか」


「すいません……」


「だけどまあ……“頭”はありそうな顔してる。戦えないなら、せめてその脳ミソでなんとかしてみたら?」


 


彼女の名前はリシア。

傭兵崩れで、今はこの村に居座ってる。


彼女はあくまで興味本位で助けただけだが──

この一件が、真一の心に火を灯す。


「俺、何にもできなかった……。でも……何かできるはずだ……」


まだ誰にも期待されていない。

誰にも信用されていない。

けれど──この絶望の中で、生き延びるだけなら、知恵は武器になるかもしれない。

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