背番号18。チーム最下位の選手というレッテルを貼られた彼。マネージャーの彼女は、そんな彼に、かつていくら頑張っても芽を出すことのできなかった自分を重ね合わせ、心の中で、あなたがどんなに頑張ったって報われることはないとつぶやきます。
その呪詛は、かつて夢破れた自分を守るものなのでしょう。「努力は報われる、報われないのは努力が足りないからだ」その呪いの言葉に苦しんだ自分を、「努力では追いつけない能力差が存在する」という考えで慰撫してあげるため、彼女は彼の芽が出ないよう祈り続けます。
彼は彼女の心のうちなどおもんぱかることなく、実に愚直に、楽し気に、練習を繰り返し、彼女はそんな彼に苛立ちつつも無視することができません。
「ミキ、俺がお前を甲子園に連れて行ってやるよ」
ここから、ふたりを取り巻く空気が変わります。「酒井さん」から「ミキ」へ。彼女と無邪気だった背番号18の男を西日が赤く染め上げていくようです。
「ミキは実にバカだな」
心にずしんと落ちませんか? バカではなく、実にバカ、なのです。背番号18の男がはるかに大きな存在になったように見えてきます。もう、彼女の祈りは変わっていきます。
いくら無理だと言われても動じない彼に、とらえどころのない彼の大らかさに、彼女の心は乱されます。その心の揺らぎに、今まで固い殻に覆われていた彼女の心から芽が出ようとしているのを感じます。
日が当たらないところには何も芽吹かない? いいえ、水と温もりさえあれば、多くの種は芽吹きます。芽吹いたあとで、光の導きが必要なのです。それを知らなかった彼女。それは彼が彼女の知らぬ間に「闇」のなかで静かに芽吹いていたことをほのめかしているのでしょうか。その芽を一気に成長させるための光は、高校生活最後となる、この夏にあるのかもしれません。それは彼の芽吹きと成長であると同時に、なにより、彼女のものであるのでしょう。