幕間「幻想現代料理研究部正式発足」


 あのあと先生にはこっぴどく叱られた。だが、それ以上のことはなかった。

 むしろ最後のほうには俺の料理魔法の原理を聞いて「なるほど、なるほど」と興味を持たれたぐらいだ。

 一応、一つの処分として『今後、料理魔法の学校外への持ち出しは許可が必要』ということになったが、学校で研究している分には問題はないらしい。


 俺のいた世界とファーアースは同じ倫理観や法律かと思っていたが、この世界の法は少し緩いのかもしれない。

 

 レタも俺の隣で同じく叱られていた。

 彼女の話では、「カレーパンがもっと欲しくなり二個三個と冷蔵庫からもちだして食べてしまったらしい」

 それは嬉しいのだが、ああいう風になってしまうわけだと俺は彼女の意外な一面を見せつけられた。


 もう少し彼女のことを知っていればこんなことにはならなかったのかもしれない。

 でも、失敗もまた一歩前進。研究はまだまだ続けたい。


 そこで俺は―――。


「シャッキン先輩! それで見たんですか! レタちゃんの裸!」

「……見てない」


 放課後の調理実習室。俺は不機嫌マックスのモカに追及されていた。

 見たと言えば見たし、見ていないと言えば見ていない。

 俺は無実だ。無実だと誰か言ってほしい。と俺はレタに助けを求めた。


「あの状況で見てないわけないですか! ねえ、レタちゃん」


 が、モカに先回りをされ、事態はより悪化した。


「……えっ。 うん、そうですね。モカさん」


 レタもなぜかぼんやりとこっちを眺めている。


「ホラー! 見てるじゃないですか先輩!! 私だけじゃ飽き足らずレタちゃんまで!!」

「そうは言うけど、緊急事態だったし」

「言い訳はダメです。ちゃんとレタちゃんに謝ってください」

「大変もうしわけありませんでしたー!! 命だけは、せめて示談でお願いします!」


 俺は土下座した。

 エルフの報復が真実は知らないが一族総出での報復とか、本当に怖かった。


「あ、もしかして、エルフが一族を挙げて報復してくるという噂を信じているのですか? あれは迷信ですよ?」

「そうなのか」


 俺は胸をなでおろした。

 そんな俺にレタは明るい笑みを浮かべた。


「でも、エルフのプロポーズの一つに、相手の魔法を使って料理を作るというのがありまして、あのたこ焼きの最後の揚げとか、まさにそうなのかなと」

「へ?」

「えええええ!? シャッキン先輩、レタちゃんにプロポーズしたんですか!!」


 頬を染めるレタにどこまでが本当なのか、恐ろしくて聞くことができない。

 さすがに高校生で結婚はまずいだろう。将来設計とかそういうものが。


「ただあの炎の魔法は実質ナナトウ先輩の魔法だったわけで、この場合はどうなるのでしょうね」


 べっと舌を出すレタのいたずら心のある表情を見て、彼女の冗談を悟った。

 ははは、いや本当心臓に悪い。あとで覚えていろよ。


「それでシャッキン先輩。今日は何を作るんですか! 服は吹き飛ぶのはなしですよ」

「そうです。恥ずかしいのは無しにしましょう」

「そうだな今日は―――」


(二人とも二つ返事で入ってもらえたのは正直嬉しかったよな)


 モカとレタの二人を加えたことにより、料理研究部あらため幻想現代料理研究部は正式な部活動として認可され、予算もつくようになった。

 正式な部活としての活動一日目――なるべく面白い料理がいいだろう。


 さて何を作ろうか。


「目からビームが出るかつ丼でも作ってみるか! 金属性のネギの量がミソなんだが――――」

「太るから却下です!」

「辛くないからダメです!」

「……まじかー」


 ……まあ、前途多難ではありそうだ。

 それでも、この場所でもうちょっと頑張れそうだと、俺は笑った。

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