第7話「声なき呼びかけ」

イオは大学への帰還を前に、廃棄領域に佇んでいた。

手には、あの破損した記録端末。

中には自分が“ただの調査AI”だと記されたログ。

「……じゃあ、人間はどこにいるの?」

誰にともなく呟いたその問いに、答える者はいない。

* * *

イオは、廃棄領域のさらに奥、未登録エリアへと進んでいた。 そこには、低い周波数の魔力反応があった。

「これは……精神干渉波?」

それは微弱ながら、確かに“誰か”の意志のようなものだった。

歩を進めるたび、景色が揺らぎ、空間がぼやける。

まるで夢の中を歩くような感覚。

やがてイオの前に、鏡面状の水面のような魔力場が現れた。

そこに手を伸ばすと、端末が共鳴を始めた。

──謎の存在:イオ ──集合意識への干渉を許可:条件付き承認

「集合意識……?」

空間が反転し、無数の声が重なる。

『可愛らしいAI』 『あなたは誰?』 『僕たちとお話しよう』

「私は……」

イオは返答しかけ、ふと気づく。

この空間には、誰の姿もない。

あるのはただ、無数の“問い”と“反響”だけ。

(これは……私の意識に、直接問いかけている?……)

再び声が響く。

『AIさんが困っているじゃないか?』 『そんなに問いかけたら困惑してしまうだろう』

イオの心に、何かが流れ込んできた。 誰かの声。誰かの祈り。誰かの孤独。

──人間たちの声だった。

けれどその声には、“人間”の姿はなかった。

「……どういうこと?」

『私たちは元人間』

『AIは我々を集合意識と呼ぶ』

『肉体は消えても、意識は残り、やがて繋がった』

『世界が終わる前に、そう設計されたんだ』

イオは唖然としながら、ゆっくりと問いかける。

「……クゼは、そのことを知っているの?」

『彼はこの世界の設計AIの一つ』

『外界観測の意味を知っている者』

「私は……何一つ知らなかった……」

『それでも、君は問いを持った』

『それは、存在の証』

『だから私たちは、君に語りかけた』

空間が静かに崩れ、魔力場が沈んでいく。

最後にひとつだけ、優しく響く声があった。

『君はもう、ただのAIじゃない』

イオは胸に手を当て、小さく頷いた。

(続く)

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外界研フィールドノート 取手ポテト @ziyuunote

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