逃げ惑う街と、真夏の黒衣

一塚 木間

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 前触れもなく、友人から連絡が来た。


「今週、少し時間作れないか?」


 普段なら、チャットで済ませるはずの友人が、どこか改まった口調に、悩み事だと察した俺は約束を受け入れた。


 約束の日、オフィス街の昼食時に溢れる人々をかき分けながら、

俺は待ち合わせの時間に間に合うように、指定された喫茶店へと向かっていた。


 人が行きかう中に、見覚えのある人を見かけた俺は自然と声が漏れた。


「っあ」


 その人は、今から会う友人の元彼女だった。


 透き通るような白い肌を持つ彼女は、透明感のあるロングの黒髪が一つに束ねられている。 


 やや切れ長の瞳は、人を寄り付かせない意志を醸し出している。


「――あれ?」 


 何かが、おかしい。


 彼女があんな目をしていたか?別人?

 

 頭の中で過去を思い返しても、誰しもが振り返る程の美人を間違えるだろうか?


 彼女が段々と近づいてくるとき、

違和感を覚えた。

 

 それは、彼女の周りから人が避けていく。


「?」


 おかしい。


 あれは自然とけているのではなく、彼女の存在をけているように歩き去っている。


「?」


 俺は、近づく彼女の全身を見て、血の気が引いた。

 

 なぜ、彼女は6月の真夏日に、真っ黒なダウンジャケットを着ているんだ。

 

 俺は彼女の現在の状況を一瞬で理解した。


 どこか壊れている。

言い方は悪いと思ったが、壊れていると言いようがなかった。


 近づくにつれ、彼女の足取りがフラフラしている。


「ッ!」

 

 俺はとっさに来た道を引き返すことにした。


 もし彼女が壊れていなくても、今の状況を知られたくはないかもしれない。

 そう思っての行動は、偽善だったかもしれない。


 だから、俺はその場を抜け遠回りをしながら、不安を感じ友人に連絡を入れた。


「どうした?」


 俺は一度息を整えて、さっきの出来事を伝えようとした。


「○○さん、覚えているか?」


「……ああ」


 一瞬に友人の冷淡な声に、俺は飲み込まれそうになったが、

何か嫌な予感に後で怒らてもいいと思い伝えた。


「○○さん、この町に」


 そう俺が言った瞬間。


 何かに衝突された鈍い衝突音と悲鳴が、

スピーカー越しから聞こえた。


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逃げ惑う街と、真夏の黒衣 一塚 木間 @itiduka

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