第2話 出航

僕は、警察からの信用も厚い名探偵『O』


5月に警察に届いた殺害予告状。この予告状で差出人の示した事柄が実際に起こっていたことであり、どうやらこの予告状はイタズラではない、ということがわかり、我が探偵事務所に内々に調査依頼があったという訳だ。

そして、9月、舞台となるであろう豪華客船「シンデレラX」に乗り込んだ。


「すごいですねえ!大きいですねえ!豪華ですねぇ!以前にテレビで見たことがあって、一回乗ってみたかったんですよねー!」

そう意気揚々と喋るのは、警視庁捜査一課の池田だ。僕が警察から事件を依頼される時は大抵彼からの電話ではじまり、捜査も共にする捜査員だ。

「特捜を船内に設置するみたいなんですよ。」

「あーそう。」

僕はなんでいつも池田のお喋りに付き合わないといけないのだ、と思っている。


この豪華客船シンデレラXでは、今日から3日間有名企業グループの社長の息子と有力政治家の娘の結婚パーティーが開かれることになっている。そこに招かれた要人たちが乗船する前に、特捜本部の人員・機材・資材を積み込んでいるのである。

(特捜本部が設置されるから、でかでかとニュースで情報を流すつもりなんだろうな…)

「いって。」

池田が、部屋に運び込まれる直前の小型プリンタの入った箱にぶつかった。

「気をつけろよ」

「はい。このフロアが捜査員と探偵さんの個室(3等室)で、室内のテレビをモニターがわりにして、そこから発言や意見を聞くことができます。それで、ここが探偵さんの個し…」

「なるほど、わかった、ありがとう、じゃあな。」

[バン!]

池田のお喋りにうんざりしかけていた僕は、思ったよりも大きな音を立てて扉を閉めてしまった。


『捜査員の皆様お疲れ様です。まもなく一般のお客様がご乗船されます。物資の搬入には十分お気をつけください。』

館内アナウンスも音量がでかい。個室に流す配慮がされていない音量だ。


2時間後、船は予定通り全ての人間と全ての資材を乗せて函館港を出航した。

函館の夜景が遠ざかる。これにより、完全にこの船は密室になった。

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