(2)

「ねえ、次の話、杉山ゲンさんが巻き込まれてる女性問題をテーマにしない?」

 俺は編集者の矢部に、そう電話をかけた。

「え?どんな話にするんですか?」

「だから、ハニトラに引っ掛かったって事にしてだね……」

「いつもながら……」

「いや、安易かも知れないけど、その安易な発想から、如何に面白い漫画を生み出すかが腕の見せ所だろ。難しい話とかじゃなくて、頭空っぽにして楽しめる漫画の方が技量や経験が要求されるもんだろ?エンタメのくせに、社会問題とか取り入れようとした作品なんて、どれもポリコレ堕ちして、結局、つまんなくなって、打ち切りにあってるじゃないか」

「まぁ……そうですね……」

「よし、じゃあ、それで行こう」

 俺は、そう言って電話を切り……。

 ん?

 何か……「ちょっと待って」みたいな声が最後に聞こえたような……。

 でも、言いたい事が有れば、また、かけ直すだろう。

 プロットを練る為に、A4サイズの方眼ノートを取り出し、次々とアイデアをメモしてゆく。

 ノートに書いたアイデアから、更に別のアイデアを思い付いたので、元のアイデアから矢印を出して、派生アイデアを書き込み……。

 原稿はデジタル入稿してるが、アイデアを形にするのは、紙に書いていく方がはかどる。

 そして、別々に思い付いた2つのアイデアの内、片方が、もう片方の伏線として使えそうな事に気付き……。

 ふと窓を見ると、すっかり夕暮れ時。

「あっちゃん、帰る前に、これ、スキャンしてファイルサーバーに置いといて。タイトルは決めてないけど、次章のアイデアだって判るような名前のフォルダ作ってさ」

「はい」

 俺は、女性アシスタントの水原茜に、そう命令してノートを手渡す。

 とりあえず明日から連休……1日ぐらいは、家族サービスするか……。

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