『むう ―進化のオベリスク―』

ちょいシン

第一話「プロローグ・目覚め」

――2030年、日本。


突如として太平洋に出現した新大陸「ムー」。それは人類史における最大の異変だった。


地殻変動の結果か、異次元からの侵食か。定かではない。


だが、その出現と同時に始まったのは「進化」の連鎖だった。


人が、獣が、虫が、魚が──突如として異常な変異を遂げ、かつての自然法則は崩壊した。


そして、少年・北天陽一郎ほくてん よういちろうは、目を覚ました。


「……夢、か」


自宅の二階。瓦礫に覆われた部屋。


彼は呆然と立ち尽くす。テレビもネットも機能せず、窓の外には崩壊した街と奇怪な植物。


家族はどこにもいない。焼け焦げたリビングの壁には、母の手作りカレンダーが半分炭化して貼られていた。


「陽一郎」


突然、背後から声がした。


「……お前、しゃべったか?」


振り返ると、そこには一匹の柴犬。


いや、正確には──彼の愛犬、ゴロー。


「うん。しゃべった」


ゴローがぺろりと鼻を舐める。


「……まじかよ」


「まじだ。あとで驚く暇あるなら、今はサバイバル優先だ。まず飯。できれば肉」


陽一郎は崩れた棚から缶詰を見つけ出し、缶切りを探しながら笑った。


「……ゴロー、お前進化したのか?」


「進化? まぁな。でもまだ途中だ。とりあえず、この日本──いや、世界はもう普通じゃねえぞ」


こうして、少年と一匹の旅が始まった。

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