第33話 新たなる光

「それでホロ、お前に与える力なんだが」

「はい、ジュジュ様に授けていただけるのならどのようなモノでも構いません」


「青の前に、俺はそもそもホロの事をよく知らない、邪眼の話は聞いているがそれ以外に何か得意な事はあったりするのか?」

「そうですねぇ、目が見えていた頃はよく他人を盗み見ていましたよ、具体的には邪眼を複製して自在に操り監視するのが得意でした」


「・・・・・・そこまで聞くと邪眼と呼ばれるだけの理由がわかるな」

「そうかもしれませんね、しかし、私の力はすべて邪眼を中心としたものでしたので、今となっては大したこともできません」


「ならば、やはりお前には目という力がふさわしいだろうな、とっておきの目を用意しよう」

「あの、私に目を用意してくださるのですか」


「だが、その目はお前のその美しい額にこそふさわしいと思っている」

「私の額ですか?」


 ホロは少し困惑した様子を見せた。だが、俺の気持ちは完全に彼女の額に奪われていた。あの場所でなければならない、そんな使命感にも似た感情が湧き上がってきている。


「あぁ」

「・・・・・・ジュジュ様がそう思われるのでしたら、その様に」


「本当にいいのか?」

「えぇ、目を頂けるなんて、夢のようで興奮しています」

「よし、ならば始めよう」


 俺は美しい額に手て、魂を補完する魂包の影を解除したのち、彼女の額に魂を押し込んだ。


「魂結」


 俺の言葉と共に赤い魂はホロの額に飲み込まれていった。すると、ホロはわずかに苦しみ始めると、頭をうなだれながら俺の服を強く握りしめてきた。


 サンゴの時は、口を融合したから喋り出したが今回は目だ、 巨石の赤い核の事を思い返すと、ホロの額に目が形成され、それが開かれるときに赤い閃光が放たれたりしないだろうか?


 そんな不安を抱えながら、ホロの様子を確かめていると、彼女は明らかに苦しそうにもがいていると、突如として悲鳴を上げながらその顔を上げた。


 すると、彼女の額には見るも美しい赤い瞳が形成されていた。


 だが、様子からして正気を保っているようには思えず、その赤い瞳はわずかにきらめいているようにさえ思えた。

 

 俺は、すかさずホロから距離を取りたかったが、彼女の手はしっかりと俺の体を掴んでおり、うまく身動きが取れなかった。


「くっ、正気を保てホロ、その力をお前のものにするんだっ」


 俺の言葉に、ホロはわずかにうなづきながら必死に抵抗をしている様子だったが、彼女の額にある赤い瞳はあちこちに視線を向けながら暴走しており、その様子はまさしく狂気に満ちていた。


「ホロッ、鼻から息を吸え、自我を保つんだっ」

「は、はい」


 ホロは、深呼吸をしながら必死に抗っている様子であり、俺はただひたすら彼女の無事を祈っていると、ふと、ホロの手が俺の体から離れた。


 すると、ホロは力なく項垂れた。それは、まるで突然魂が抜け落ちたかのようであり、ホロはしばらく動かなくなってしまった。


「お、おいホロ大丈夫か?」

「・・・・・・ふふふ、ふふふふふっ」


 俺の呼びかけに対して、突如として笑い声をあげ始めたホロはとても奇妙であり、どこか寒気を感じるほどの違和感を感じていた。


 さながら、巨石の赤い核と再び退治しているかのような、身の危険すら感じるその違和感に融合に失敗してしまっただろうかもしれないと思っていると。


 ホロは顔を上げて、額の真っ赤な瞳をきらめかせながら大声で笑い声をあげた。その様子はこれまでのホロとは全く違うものに思えた瞬間、すぐさまクロコを呼び出して体制を身構えた。


「くそ、失敗したか?」

「見えるっ、見えます、私の目に再び光が戻りましたぁっ」


 ホロはとてもうれしそうにその場で飛び跳ねながら、独房の中を嬉しそうに走り回り始めた。


 しかし、そんな様子も束の間、突如として何かを思い出したかのように立ち止まると、彼女はすさまじい勢いで檻の傍までやってくると、額の目で俺の事を凝視してきた。

 

 その赤い瞳は、先ほどまでの暴走した様子も、きらめく様子もなくとても澄んだ目をしており、まるで吸い込まれそうなほどに美しく見えた。


「・・・・・・ジュジュ様、なんとたくましく美しいお方なのでしょう」

「ホロ、お前正気なのか」

「勿論です、私は正気でございますジュジュ様、まさか再びこの世を拝む事が出来るなんて、思いもしませんでした」


 ホロは満面の笑みでそう言った。

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