第21話-覚醒の兆し、守護者の真実-
私たちが初めて守護者に明確なダメージを与えたことで、戦いの流れがわずかに変わった気がした。以前よりも激しく攻めてくる守護者に対し、私はプロトタイプのグローブを武器として、防御と攻撃を繰り返す。グローブを通じて感じる温かなエネルギーを意識的に流し込むことで、拳の一撃が確実に威力を増しているのが分かった。
美咲と健太のサポートも重要だった。健太は「凍結の結晶」を巧みに使い、守護者の動きをわずかに鈍らせ、私が攻撃する隙を作ってくれる。美咲は「加速の草」で身軽に動き回り、守護者の注意を引いて私が背後を狙うチャンスを作ってくれる。
白石先生はエネルギー砲による遠距離からの援護に加えて、守護者の攻撃パターンを観察し、私たちに的確な指示を与えてくれていた。
「佐藤さん!次は左の装甲が薄くなっています!そこを狙ってください!」
先生の言葉に従い、私は渾身の力を込めて左側の鎧に一撃を叩き込んだ。金属が砕ける重い音が響き、守護者の動きが目に見えて鈍った。赤い目が、これまで以上に強く光を放っている。
『……理解不能……この異質な力……』
守護者の声は、今までよりも感情的な響きを帯びていた。まるで、自分が傷つけられていることに純粋な驚きを抱いているかのようだった。
その時、私の内側の温かな光が、今まで以上に強く輝いたような感覚が走った。意識がさらに冴え渡り、周囲のエネルギーの流れが、ほんのわずかに目に見えるような感覚すらあった。守護者から放たれる冷たいエネルギー。そして、私のグローブを通じて流れ出す温かなエネルギー。その二つがぶつかり合い、空間にわずかな歪みを生んでいた。
無意識のうちに、私はそのエネルギーをグローブへ集中させ、可能な限り最大に高めた。そして、再び守護者に向かって拳を放つ。光を帯びたその一撃が、砕けかけた左の装甲を完全に破壊し、ついにその奥にある無機質な金属の骨格にまで到達した。
鈍く響く衝撃とともに、守護者の動きが完全に止まる。赤い光を灯していた瞳が徐々に弱まり、全身から発せられていた冷気のようなオーラが、急速に霧散していく。
『……システム……エラー……活動……停止……』
それが、守護者が残した最後の言葉だった。漆黒の騎士は石像のようにその場で静止した後、やがて静かに、他のモンスターたちと同じように溶けるように姿を消していった。
私たちは、息を切らしながらその場に立ち尽くした。強大な敵を倒したという達成感と、同時に襲いかかる疲労が、体の芯から込み上げてくる。
「やった……やったぞ!」
健太が、安堵の表情で小さく声を上げた。美咲は私の腕に抱きつき、「花梨、すごいよ!」と心からの笑顔を見せてくれた。
白石先生も深く頷きながら言った。
「見事でした、皆さん。特に、佐藤さんの最後の一撃は……本当に素晴らしかったです」
私たちは、安全な場所まで戻り、しばらくの間、身体を休めた。そして、あの守護者について、改めて話し合うことにした。
「あれは一体、何だったんでしょうか……?」
私の問いに、白石先生は少し考え込んだ後で言った。
「おそらく、このミニダンジョンが独自に生み出した防衛システムだったのでしょう。ダンジョンが進化し、より強いエネルギーを持つようになったことで、それを守るために、高度な人工的存在を作り出したのだと思います」
そして、先生は続けた。
「ですが、気になるのは、あの騎士が言った『異質な力』という言葉です。あれは、佐藤さん……あなたの内にある力、あるいは『ダンジョンの種』そのものを指していたのでしょう。あなたの力が強まれば強まるほど、それを脅威と認識したダンジョンが、防衛システムを激化させていく可能性があります」
その言葉に、私は少しだけ不安を感じた。もし、私の中の力がこのダンジョンにとって「異物」であり、排除されるべき存在だとしたら……。
だが、白石先生は私の不安を察したように、穏やかな口調で言った。
「心配しないでください。あなたの力は、ただの異質な存在ではありません。あの守護者を打ち破ったその力は、このミニダンジョン――そしておそらく世界中のダンジョンに隠された秘密を解き明かすための、鍵となるはずです」
その夜、私は一人、ミニダンジョンのことを静かに考えていた。守護者の最後の言葉――「システム……エラー……」。あれはまるで、ある種のプログラムが想定外の事態に直面した時に起こす、エラー応答のようにも思えた。
このミニダンジョンは、一体何なのか。そして、「ダンジョンの種」とは何なのか。私の内側に存在する、この温かなエネルギーは……本当に、何なのだろう。
守護者との戦いを経て、私の中にはこれまでになかった感覚が芽生え始めていた。それは、確かな「何か」――温かな光のような、揺るぎない自信のような、そして、まだ眠る可能性のようなものだった。
私は静かに目を閉じ、再びミニダンジョンに意識を向けた。暗闇の奥、その中心に、微かに光る何かが見える気がした。まだ小さく弱いけれど、それは確かに、そこに存在していた。
それは、新たな目覚めの予兆であった。
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