第30話 ダンジョン?

― 村に帰還して


迅たちは王の城から無事に帰還し、村へと戻ってきた。


村長に王との契約内容を伝えると、その顔がふわりとほころんだ。


「なるほど、なかなか良い案を出してくれたな! よくやったぞ、迅よ!」


だがすぐに、白いヒゲを揺らしながら難しい顔になる。


「……だが、模擬戦をやるにも人がいないぞ。どうするんじゃ?」


「一人は……ハクに頼みます」


「ふむ……もう一人は?」


迅は少しだけ考えるそぶりを見せた。


(ミカが、あのスキルを使って……この村に来てくれたら)


まだ確証はない。だが、心のどこかで彼女の存在を頼りにしていた。


「もう一人は……考えがあります」


 


― 鍛冶屋にて


「模擬戦の前に、強くなるための修行をします」


そう答えた迅に、村長は頷いた。


「それならば、村の鍛冶屋へ行き、防具を整えなさい。少しでも体を守らねばならん」


迅は鍛冶屋へ向かった。


扉を開けた瞬間――ムワッとした熱気と、金属の香りが立ち込めた。


そこにいたのは、マッチョな体を黒光りさせた鍛冶職人だった。


「おう! 村長から聞いてるぞ!」


男はニカッと笑うと、大きな手で鍛造ハンマーを振り上げて鉄を叩きつけた。


「装備を作ってやりたいんだが、素材がねぇ。どうにも足りなくてな」


「素材……ですか?」


「ああ。この森の奥のほうにダンジョンがあるんだが、そこで“ライトゴールド”って鉱石が取れる。それさえあれば、上等な防具を仕上げてやれるぜ!」


「ダンジョン……ライトゴールド……」


(……まさかの、ゲームみたいな展開)


迅はちょっとだけ笑ってしまいそうになる。


「いいぜ。受けるよ、そのクエスト」


鍛冶屋は満足げに頷いた。


 


― ハクの行方、そして夜へ


ライトゴールドを探す前に、迅は仲間になってくれそうなハクを探した。


だが――村にはいない。


村長に聞くと、ハクは森の奥で修行しているらしい。


「……ということは、ダンジョンには一人で?」


不安と緊張が入り混じる中、迅は空を見上げた。


今日の月はやけに丸くて、静かだった。


そして彼は、小屋に戻って布団に入り、静かに目を閉じた。


(……本当にミカ、来てくれるかな)


そんな願いを胸に――眠りに落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る