第12話 現実世界のスキル発動?
朝。いつものように登校する。
季節は夏に向かい始め、通学路には蝉の声がちらほらと混ざるようになっていた。
教室に入ると、なんとなく視線を感じる。
(……やっぱり、あの一件の噂が広まってるか)
昼休み。
パンを買いに行こうと席を立ったところで――
「おい、お前!」
鋭い声が響いた。見れば、声の主は三年の“あの人”。
空手部の主将、三年の星野。
喧嘩をしているわけではないが、「俺がこの学校で一番強い」と思い込み、威張り散らしているタイプの先輩だ。いわば“ボス面”してるだけの人物。
「……何ですか?」
面倒ごとの匂いを感じつつも、迅は冷静に返す。
「ちょっと来いよ」
そのまま屋上まで連れて行かれた。屋上には周囲の視線が届かず、トラブルの定番スポットだ。
「お前、最近調子乗ってんなぁ?」
唐突に絡んでくる星野。
話を聞く限り、どうやら彼の“彼女”が「迅くんってちょっとかっこいいかも」などと口にしたらしく、それが気に入らなかったようだ。
「……何のことですか?」
静かに聞き返すと――
「とぼけんな!」
ゴスッ!
拳が振るわれ、迅の頬に当たった。
が、迅の体は揺れもしない。
(……あれ? 痛くない?)
夢の世界で得たスキル、《痛み耐性 Lv1》。
まさかとは思っていたが……これは、現実世界にも“何かしら”影響を及ぼしている?
殴った星野の方が驚いていた。
「な……今のは手加減してやっただけだ。次は本気でいくぞ!」
その時だった。
「やめてください!」
扉が開き、ミカが駆け込んできた。クラスメートから話を聞いて、屋上へと走ってきたのだ。
「なんだお前は……邪魔すんな!」
星野は逆上し、ミカを払い除けた。
ミカの体がよろけ、倒れ込む。
「ミカっ!」
頭の中で、何かが弾けた。
次の瞬間、迅の視界が淡く光に染まる。
《スキル【下克上】発動》
「……なにしてんだ!」
咆哮とともに、迅が踏み込む。
星野が拳を振るおうとした瞬間、その動きを紙一重でかわし、反撃に転じた。
「っ……ぐふっ!?」
拳が腹にめり込む。
ドンッという音とともに、星野の体が2メートルほど吹き飛び、地面に転がる。
屋上に、静寂が戻る。
星野は腹を押さえて呻きながら、地面を這った。
迅は静かに一言。
「……まだ、やりますか?」
その言葉に、完全に戦意を失った星野は、這うようにして立ち上がり、
「お、覚えてろよ……!」
と捨て台詞を残して逃げ出した。
その場に残されたミカが、まだ床に座ったまま、目を丸くして迅を見つめていた。
「迅……今の、なに?」
「……さあ。俺にも、わかんない。でも、もう……誰にも手は出させない」
ミカは、少しだけ赤くなって、静かに頷いた。
現実世界にも影響を与え始めたスキル。
“夢”と“現実”の境界が、ますます曖昧になっていく。
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