動的/静的な物語論

@yamatsukaryu

はじめに

 子供の頃から、物語が好きだった。

 ワクワクするような冒険、知性を駆使し、狡猾な敵の策略を出し抜く快感、胸が張り裂けそうになる切ないストーリー、暗闇の中にただ一つ光る勇気、世界で一つだけの愛。

 物語に没頭し、ため息と共に顔を上げると、そのどれもが現実にはなく、そして胸に残ったその気持ちだけがどこかへと繋がっていた。


 その感覚は大人になったいまも変わらない。


 だけど、あの時と決定的に変わっていることがある。

 それは自分を取り巻く、物語を巡る環境だ。


 かつて、私にとって物語を得る手段はテレビと漫画、映画、ゲーム、そして小説だった。

 いまではそこにスマホと、インターネットがある。


 そこでは無数の小さな物語が湧き上がる泡のように生まれては拡散し、またたく間に忘れ去られていた。


 大人になった私は、自ら小説を書くようになった。


 でも、小説も、小説を取り巻く環境も、小説を書くこと自体もあの時とは大きく違っていた。

 

 物語は変わっていなくても、それを読む私たちは変貌していたのだ。


 この動的/静的な物語のモデルについて考えたのは、なぜそれが起きたのかを、できるだけ正確に知りたかったからだ。


 そしてそれを、いま、世の中でなにが起きているのか知りたい人、なにかを書きたい、それを誰かに読んでもらいたいという、甘美な夢と恐ろしい呪いに囚われた人に向けて問いかけてみたいと思ったのだ。


 これは、霞のように移ろう物語を捉えようとする儚い営みである。

 

 

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