素顔のままで
AYANA
第1話
あれっ・・・」
「ん?どうしたの?」
「今の人・・・似てる・・・」
「誰に・・・?」
「・・・・」
遥か遥か昔・・・
私達は出会い恋をした。
君がくれたもの。
それは、時間が経つに連れて価値を増すの。
今でも君は夢を追いかけていますか・・・?
そして今でも笑っていますか?
「優衣、結婚おめでとう♪」
「愛ありがとう♪今日は楽しんで行ってね♪」
キラキラ輝くドレスを身にまとった親友の優衣は、
今までで一番幸せそうな笑顔で笑っていた。
優衣が結婚すると聞いてから、あっという間の半年間。
私は淋しい思いを抱きながらも、やっと今日、心の底から祝福できる。
人間のすごいところは、
すぐに慣れてしまうという事だ。
慣れてしまえば、どんな事も受け入れていける。
私は今回そんな事を学んだ気がする。
「優衣綺麗だね~♪」
高校時代の友人、梨香子はうっとりとそう言った。
「本当だね~♪幸せそう♪」
「私も自分の結婚式、思い出すな~♪」
「そっか~♪」
「愛は?まだ結婚の予定ないの?」
梨香子は、興味心身に私を見つけると、
そんな質問を投げかけてきた。
「・・・まだね・・・」
「そっかぁ~♪彼は?」
「・・・今はいないよ♪」
「そっかぁ~・・・」
私は精一杯の作り笑顔を作ると、
手に持っていたシャンパンをそのまま飲みほした。
今年で30歳。
周りの皆はどんどん結婚して行く。
そして、家族、友人は、いつだって私の結婚を焦らせる・・・。
「でも、いいじゃん♪気楽な独身で♪家族出来ると遊べなくなるからね~♪」
梨香子は、嬉しそうに言った。
この言葉も、何度聞いたか分からない。
でも・・・皆、悪気があって言ってるんじゃない・・・。
分かってるけど・・・。
「私、食べ物取ってくるね・・・♪」
私は苦笑いしたまま、オードブルの元へと急いだ。
結婚・・・
その言葉が今重苦しくてたまらない。
料理が陳列されている大きいお皿には、
キラキラ輝くオードブルが美しく並んでいた。
もうこの際やけ食いしてやる・・・
私は、そんな気分で料理をお皿に持っていると、
私の狙っていたラスト一個のサーモンを先に取られてしまった。
(・・・もう!!!なんなのよ!!!)
私はそんな気持ちで、サーモンを取ってしまった人を見上げると、
ちょうどその瞬間に目が合ってしまった。
「・・・あの・・・良かったらどうぞ?」
その人は私の目を見た瞬間に一旦ひるんだように、
優しく微笑んだ。
私は、きつい目つきの自分にとても恥ずかしくなってしまった。
「・・・いいえ・・・。」
その場に変な空気が流れて行くのを感じた私は、
そのまま彼に背を向けて、自分の席へと走って行った。
サーモン一つで、知らない人を睨むなんて・・・
私ったら・・・最低・・・。
席へ戻る途中、何だか自分への嫌悪感でやりきれない気持ちになってしまった。
あぁ・・・
私・・・何やっているだろう・・・。
きらびやかに光るレストラン。
幸せそうに笑う親友。
そして、皆が結婚を祝福して、笑顔で過ごしているのに・・・。
自分だけこの場所に似つかわしくないような、
そんな暗い気持ちを抱えたまま、私は席に戻った。
「あっ♪料理美味しそう♪ちょっとちょうだい♪」
私の抱えている気持ちを知らない梨香子はそう言うと、
お皿からオードブルをつまみ食いした。
「今日ね、旦那が子供みているんだけど、心配で~・・・」
「・・・・」
「愛はいいよね~♪三次会も行く?私はこのまま帰らなきゃだよ~・・・」
「・・・・」
「・・・愛??」
「・・・えっ・・・?」
「・・・さっきからどうしたの?具合でも悪い??」
「・・・ううん。大丈夫・・・。」
私は、暗い気持ちのせいか、
梨香子の話しが全然耳に入ってこなかった。
早く帰りたい・・・。
ただそれだけを思っていた。
「じゃあ、またね~♪」
二次会が終わると、結婚している皆は、そのまま帰って行ってしまった。
「私も帰るね・・・」
私は優衣に耳打ちすると、優衣は少し淋しそうな表情で、
こくんと頷いた。
一体、自分はどうしちゃったんだろう・・・。
私は、東京の輝くネオンを見つめながらぼんやりと考えていた。
周りがどんどん結婚して、
自分だけ取り残されていく不安・・・。
頭の中で、結婚は理屈じゃないと分かっていながらも・・・。
早くしなくちゃ・・・そう思ってしまう・・・。
でも今の自分じゃ、結婚相手に巡り合えるわけなくて・・・。
あぁ・・・このまま年だけ取って行くのかなぁ・・・。
私は見えない未来に、不安を抱くようになっていた。
そう・・・いつの間にか型を決めて、小さくなっていた自分。
恋愛も夢も・・・
頭でどうにかなることじゃないのにね・・・
「じゃあ、これもお願いね!!」
会社に早速たまっていた書類が山のように机に置いてあった。
私は、ため息をつくと、時計を見つめた。
これを午前中に終わらせて・・・
午後はクライアントと打ち合わせがあるから、
それまでに資料も作成しなくちゃ・・・
あぁ・・・なんでこんなにイライラするんだろう・・・。
でも・・・やらなくちゃ・・・。
私は、ため息を飲みこむと、
今度は気合を入れて、パソコンを打ち始めた。
この会社に入社して、
もう7年の月日が経っていた。
営業事務という仕事は、
ただ淡々とパソコンに向き合う事が主だった。
自分で決めた時間で仕事を終わらすという事だけにやりがいを見つけて、
私なりに一生懸命頑張っていたが・・・
結婚しても続けていきたいほど情熱的にはなれなかった。
「お疲れ様でした♪」
今日も自分の仕事を定時内に終わらせて、
私は、急いで会社を出た。
出来れば残業はしたくない。
その為に定時内は一生懸命頑張るけど・・・
私は、大きいビルに包まれた、東京の夜を歩き始めた。
「東京のOL」
その言葉に憧れて、田舎からやってきた私は、
今年で30歳・・・。
彼氏もいなくて、仕事に情熱的にもなれなくて・・・
何の為の毎日なのか・・・
最近は自分でもよくわからなかった。
一人の時間は、
こんな風に難しい事を考える時間が増えてきた気がする。
このままでいいのか・・・。
このまま結婚すれば幸せになれるのか・・・
「1050円になります。」
最寄りの駅に着くと、
駅前のコンビニによって、お弁当とビールを買った。
毎日訪れるこのコンビニの店員さんは・・・
私の事を可哀想な女だと思っているんだろうなぁ・・・
私はお金を出しながらそんな事を考えていた。
でも・・・家に帰ってご飯作る元気は・・・ない。
「♪~♪~♪」
コンビニから出ると、携帯電話が鳴り響いた。
「・・・優衣だ。もしもし?」
「あっ♪愛ちゃん♪昨日はありがとうね~♪」
「うん♪優衣素敵だったよ♪無事に結婚式が終わって良かったね♪」
「うん♪皆のおかげだよ♪幸太もよろしく言っておいてだって♪」
「うん♪」
「今ね、CD屋さんにいるんだけど、昔二人ではまってたあのアーティストいたじゃん♪」
「あぁ~♪あのはっちゃけバンド♪」
「そうそう♪あれのCD見つけたから、なんか懐かしくって~♪」
「懐かし~♪ライブハウス行きまくって、優衣はアツシと結婚するって本気で言ってたもんね(笑)」
「本当だよ~♪なのに、現実は全然違う人と一緒になっちゃったけど(笑)」
「楽しかったよね~♪なんか・・・本当に♪」
私は優衣との馬鹿騒ぎしていた日々を思い出して、
少しだけ感傷的になってしまった。
そう・・・あんなにも笑い転げた日々がとても遠くに感じてしまったから。
「・・・愛ちゃん♪ずっと友達でいようね♪いつだって、私にとって愛ちゃんは最高の親友だよ・・・♪」
優衣はそう言うと、
私は、優衣の温かい言葉に涙が溢れそうになった。
「うん♪そうだね♪これからも、変わらずに遊ぼうね♪」
「うん♪じゃあまた連絡するね~♪」
優衣はそう言うと、電話を切った。
優衣からの電話で・・・
卑屈になっていた自分を少し恥ずかしく思った。
優衣との距離を作っていたのは、私の方で、
優衣はいつだって私に優しくしてくれていたのに・・・。
結婚したからって友情が終わるわけじゃない・・・
私はいじけていた自分を反省して、
携帯を握りしめたまま歩きだした。
「へぇ~英会話教室に♪」
会社の後輩とのランチ中に私達はそんな会話を始めた。
「けっこういいですよ♪ネイティブの先生もカッコイイですし、なんか毎日が少しわくわくし始めた気がします♪」
後輩はアイスティーを飲みながら、楽しそうに言った。
「・・・でも今更英語習ってどうするの?」
「う~ん・・・まぁここだけの話し、いつか転職するときにも役立つかなぁって♪」
「・・・なるほどね~」
「先輩もなんか、習い事始めてみたらどうですか?やりたい事とかないんですか?」
「習い事かぁ・・・」
私は後輩のその話に、心がわくわくしているのを感じていた。
彼氏もいなくて、
仕事にも情熱を燃やせない私は・・・
もしかしたら、習い事に没頭できるかも・・・
「意外と今多いみたいですよ♪そういう場で出会う事とか♪」
後輩は嬉しそうにそう言うと、今度はタラコスパゲッティーを頬張った。
やりたい事・・・
やりたい事・・・
自分がやりたい事・・・
心がわくわくすること・・・
一体なんだろう・・・
私は家に帰ると、早速パソコンを立ち上げて、
「習い事」と入力をした。
「ヨガ・・・太極拳・・・裁縫・・・英会話・・・」
東京にはたくさんの教室があって、
検索には何万件もヒットした。
この中に一つくらいあるはずだ・・・
自分のやってみたい事。
私は、コーヒーを飲みながら、じっくりとパソコンを見ていると、
一瞬にして、テンションが上がる言葉を見つけた。
「フランダンス!!」
昔社員旅行で訪れた、
遥か遠い南国の島・・・。
ギラギラ輝く太陽と、のんびりした空気が最高の癒しをくれた。
そして、ディナーショーでフラダンスを踊っていた美女たちは、
皆キラキラと楽しそうに光り輝いていた。
私は、そんなハワイの情景を思い出すと、
一気に幸せな気分がこみ上げてきた。
本当に楽しい旅行だだったなぁ♪
フラダンスは、年齢も関係ないしダイエットがてらやってみようかなぁ♪
私は、軽い気持ちでフランダンスを始めてみる事に決意した。
そして、その決断が、こんなにも人生をキラキラ輝かせるなんて、
その時はまだ知らなかった。
「今日から、皆さんの仲間になる、近藤さんです。皆さんよろしくお願いします。」
先生は私を皆に紹介すると、
私は会釈をして、皆の輪の中に入っていった。
ドキドキした気持ちを抱えたまま、
会社の近くのフラダンス教室に入る事を決めて一週間。
やっと初めてのレッスンが始まった。
「じゃあ始めるね~♪」
先生は明るい声でそう言うと、教室には、大好きなハワイアンミュージックが流れ始めた。
のんびりした音楽がかかると、皆は優雅な顔つきでゆっくりと踊り始めた。
そして私も先生の動きを見よう見まねで覚えながら、
一生懸命体を動かした。
「あぁ・・・けっこう汗かいた~!!」
レッスンが終わると、私はそのまま着替えるために場所を変えた。
「どうたった?レッスン♪」
私が汗を吹いていると、笑顔で私に話しかけてきたのは、
同じくらいの年の女性だった。
「はい♪楽しかったです♪」
「明日筋肉痛だねぇ(笑)」
「絶対になります(笑)」
「でもいいよね。フラダンス♪私も最近始めたばかりなんだけど、楽しくって♪」
「はい♪」
私は会話をしながら、
キラキラ輝くこの女性にとても好感を持っていた。
何だか人生に前向きな空気が漂っていたから。
「あっ・・・私は桜田って言います♪これからよろしくね♪」
「あっ・・・はい♪ぜひよろしくお願いします♪」
「じゃあ、また来週ね~♪」
桜田さんはそう言うと、
さらっとドアから出て行ってしまった。
桜田さんって言うのかぁ・・・。
いい人そうだし
仲良くできそう♪
私は、新しい出会いに心がわくわくしているの感じていた。
フランダンスは思ったよりもずっと体力を使うけど、
その疲労感が逆に心地よかった。
今日はぐっすり眠れそう♪
私は前向きな気持ちで、教室を後にすると、スキップしたくなるほどに、
幸せな気分だった。
「フラダンスかぁ~♪」
「けっこう合ってるみたいで、毎週行くのが楽しくって♪」
今日は久々に優衣と飲み。
久々の再会にテンションも上がってしまう。
「そっかぁ♪なんかいいね。充実していて♪」
「・・・?優衣は?旦那さんとどうなの?」
「う~ん・・・なんか最近うまくいってなくて・・・」
優衣は苦笑いしながら言った。
「・・・どうして?」
「・・・私、結婚したから会社辞めちゃったじゃない?なんかね、暇なんだよね~・・・主婦って・・・。」
「・・・そっか・・・」
「ほらっ・・・子供がいればね、また違うんだけど、待っちゃうんだよね~旦那さんのこと。」
「・・・・」
「それで、あっちが相手にしてくれないと何かイライラしちゃって・・・こんなものなのかなぁ・・・」
私は優衣の悩みに正直驚いていた。
結婚したら・・・ゴールって訳じゃないんだね・・・。
「思い描いていた理想の暮らしとは、やっぱり違うよね。早く子供欲しいなぁ♪」
「優衣・・・」
「まぁ・・・なるようになるかなぁとも思うけどね♪」
優衣は苦笑いしながらそう言うと、カシスオレンジを一口飲んだ。
そう・・・皆が皆、
色々な悩みを抱えて生きているんだよね。
何だか自分だけじゃないんだと思えたら、少しだけ気が楽になった。
一見幸せそうに見える人でも、
きっと色々あるんだよね・・・。
「でさ・・・話し変わるんだけど・・・」
優衣は少し小声になって私に話しかけた。
「・・・?なに?」
「さっきから、あの人、愛ちゃんの事見てない?」
優衣は、くるっと振り返えると、首を動かした。
そして優衣の視線の先にいる男の人と私はすぐに目が合ってしまった。
「あっ・・・!!!」
「知っている人??」
「・・・うん。」
私は目が合った瞬間に会釈をしながら、小声で優衣と会話した。
「・・ほらっ・・・結婚式の二次会にいた、幸太さんのお友達か会社の人?」
「・・・!!!あっ・・・!!!あぁ・・・」
優衣は顔を見ると思いだしたかのように、
大きく頷いた。
「確か、大学の時の友達だって言ってたかも・・・」
「挨拶してきた方がいいんじゃない?」
「そうだね♪・・・でも愛ちゃんは彼と何かあったの?」
私は優衣にその質問をされた時、
自分の子供じみた行動が恥ずかしくて、何とも答える事が出来なかった。
サーモンを取られて睨んだなんて・・・
でも謝らなくっちゃ・・・
「じゃあ行こう♪」
私達は席を経つと、その彼が座っている席へと向かって歩いて行った。
「今晩は♪あの、城田の妻です。先日はありがとうございました。」
「やっぱり・・・そうかなぁと思っていたんだけど。」
「あの・・・先日はすみませんでした・・・。」
私は優衣の陰から、顔を覗かせると、素直に彼に謝った。
「・・・いいえ(笑)大丈夫です。」
「おひとりですか?」
「いえっ・・・これから友人がくるんです。」
「そうなんですね。じゃあ・・・」
私達はそのまま席へと戻ろうとすると、
彼は私の腕を掴みこう言った。
「・・・良かったら、電話番号教えてもらえませんか?」
「・・・えっ?」
私は突然の出来事に、
心臓が大きく音を立て始めているのを感じていた。
男の人に電話番号を聞かれるなんて、
ここ数年なかった事だから・・・。
「ここで会えたのも何かの縁ですし、良かったら・・・。」
彼は、真剣な眼差しで私を見つめながらそう言った。
「・・・でも・・・」
私が戸惑っていると、そんな様子を見ていた優衣が、
そっと私に耳打ちをした。
「いいじゃん♪減るもんじゃないし、気楽な気持ちで・・・ね♪」
「優衣・・・」
「・・・ダメですか?」
彼は少し淋しそうな表情で私を見つめると、視線を床に落とした。
・・・久しぶりの事過ぎて・・・
どう対応していいか分からないけど・・・
優衣の言うとおり、気楽な気持ちで交換してみようかな・・・。
「・・・はい。大丈夫です。」
私は意を決してそう言うと、
ポケットから携帯電話を取り出して、
彼に微笑んだ。
すると彼も嬉しそうに、
携帯電話を片手に持ち、私達はお互いの連絡先を交換した。
ここから何が生まれるかは分からない・・・。
でも、何もしなければ何も生まれないから・・・。
少しの勇気を出して、
一歩踏み出す・・・。
「愛ちゃん良かったね♪高梨さんだっけ・・・?」
席に戻ると、私以上に嬉しそうな表情の優衣が美味しそうにワインを一口飲んだ。
「うん。・・・彼どんな人なのかな・・・」
「んっ~・・・幸太からあまり話し聞いた事ないけど・・・でもいい人そうだよね♪」
「うん・・・。」
いい人・・・
そう優衣の言うとおりとてもいい人そうだった。
顔もまぁまぁのイケメンだし、雰囲気も悪くない。
でも・・・そんな素敵な人が何故私に・・・?
「幸太からも話し聞いてみるけど、結局は二人のフィーリングだからね♪まずはメールからだね♪」
「そうだね・・・」
「何だか私までわくわくしちゃう♪頑張ってね♪」
「もう!他人事だと思って~!!!」
私達は、まるで学生の時に戻ったように、その後も色々な話をした。
優衣が結婚しても変わらずに楽しい時間を過ごすことが出来て、
何だかほっとしている自分がいた。
「じゃあまた連絡するね♪」
終電間際の地下鉄で私達はバイバイした。
もうすぐ本当の冬がくる。
私は空いていたコートのボタンを全部占めると、電車が来るのを待った。
何だか不思議な夜だったなぁ・・・。
高梨さん・・・
一体どんな人なのかな・・・?
あの日、子供みたいな行動をしてしまった私に興味を持ってくれるなんて。
でも・・・きっと昔みたいに感情じゃ突っ走れない・・・。
それがきっと30代の恋愛。
私は頭の中でぐるぐるとそんな事を考えていた。
そしてホーム来た電車に乗り込むと、
勢いよく携帯電話が鳴り響いた。
「・・・メール・・・」
私はメールマークを確認すると、
すぐにメールを開いてみた。
するとそこには、
新しく登録したばかりの高梨さんからのメールだった。
「今晩は。今日は素敵な偶然でしたね。僕もあの店には良く行きます。また会えたらいいですね。」
高梨さんからのメールは、とても丁寧で、人の良さが見てとれるようだった。
「私もあのお店に良く行きます。ワインがとても美味しいので。そうですね。また会えたらいいですね。」
私は、高梨さんのメールをまねて、少し丁寧に文章を作成した。
また偶然会えたらいいですね。
この距離感が今の私にはピッタリだった。
「今日は夜も遅いので、またメールしますね。おやすみなさい。」
高梨さんからはすぐに返信がきた。
私はそのメールをみて少しほっとした。
「はい。ではまた(^^♪おやすみなさい。」
私は迷うことなくメールを打つと、そのまま電車の窓を眺めた。
・・・いつからだろう・・・
人との付き合いを少しだけ面倒って思う様になったのは・・・。
近づきたいと思う反面、
色々な事を先に頭で考えては、面倒くさくなってしまう・・・。
高梨さんとの距離はこれ以上に縮むのかな・・・。
縮めたいって・・・自分から思うのかな・・・。
「ねぇ♪近藤さん♪この後ひま??」
フラダンス教室が終わると、桜田さんがキラキラ輝く笑顔でやってきた。
「この後・・・」
正直家に帰ってぼーっとしたいけど、
でも、憧れの桜田さんからのお誘い。
行ってみようかなぁ~・・・
「・・・いいですよ♪」
「じゃあ、軽くお茶をしよう♪」
桜田さんは嬉しそうにそう言うと、鼻歌を歌いながら着替え始めた。
「ここね、行ってみたかったの♪」
桜田さんはそう言うと、最近オープンした新しいカフェへと入って行った。
「今日もレッスン楽しかったね♪」
桜田さんは、暖かいコーヒーに口をつけながら笑顔で言った。
「はい♪」
「近藤さんは普段はOLさん?」
「そうです。」
「そうなんだぁ~♪」
「桜田さんはどんなお仕事しているんですか?」
「ふふふ♪私はね、作家の仕事をしてるの♪」
「作家!!!」
「好きで始めた仕事だからね~♪けっこう楽しいよ♪」
「・・・そっかぁ♪」
「フラはね、ハワイに行った時に好きになって、やってみようかなぁって思ったから始めたの。」
「そうなんですね~♪」
私は桜田さんの話を聞いて、
とても心が穏やかになって行くのが分かった。
何故か彼女に対して嫉妬心は湧きあがらず、それよりもキラキラ輝いている彼女の事をもっと知りたいと思った。
「近藤さんは今、彼はいるの?」
「今はいないんですけど・・・メールしてる人はいます。」
「そっかぁ♪うまくいくといいね♪」
「・・・はい♪桜田さんは??」
「私ね、実はバツ一なの。もう別れて1年になるかな。でもね、最近やっと彼氏が出来たの♪」
桜田さんは嬉しそうに言った。
バツ一・・・?
「離婚しちゃったんですか?」
「そうなの。でもね、今は別れて良かったって思えるの。彼の事が好きだしね♪」
「そっかぁ・・・」
そんな過去をさらっと言えてしまう桜田さんをますます素敵だと思った。
色々乗り越えてきているんだ・・・。
「人生って何が起きるか分からないよね。でもそれが楽しくって♪今やっとそう言える♪」
桜田さんは笑顔でそう言うと、
コーヒーを飲みほした。
「・・・なんか憧れちゃいます。」
「えっ??」
「なんか・・・私の悩みとか小さいなぁって・・・」
「なにか悩んでいるの?」
「いやっ・・・なんか恥ずかしいけど・・・どんどん友人が結婚していって焦っているっていうか・・・。」
「・・・。」
「年のせいにしてマイナスな事ばかり考えちゃうんです。恋愛でも・・・。」
「・・・。」
「本当は私も桜田さんみたいに生き生きしていたいんですけどね・・・。」
私は、自分の口からどんどん言葉が出てくるのに驚いた。
こんな事今までは優衣くらいにしか言えなかったのに・・・。
「・・・いいじゃない♪」
「・・・えっ??」
「近藤さんも輝いているよ。フラしてる時なんて特に♪マイナスに考えちゃう時はね、考えるのをやめるの。」
「・・・。」
「やめてね、好きな事に没頭する。不安や焦りは、何もしていないから生まれると私は思う。だから自分を認めてあげて、そして好きな事をどんどんしていけばいい。私はそうやって生きてきたよ。」
「・・・好きな事・・・」
「なんでもいいの。本を読むとか料理を作るとか、フラをするとか♪とにかく好きな事に触れ合う時間を一日の中に増やしていけば、どんどん毎日が楽しくなると思うよ♪」
「・・・そっか・・・。」
「なんでも楽しもうと思ったら楽しいよ♪フラだって、レッスン以外でもDVD買ってきて家で踊るでもなんでも出来るじゃない♪」
「・・・確かに。」
「輝いているか分からないけど、私の元気の源は好きな事に触れ合う♪ただそれだけだよ♪」
桜田さんは嬉しそうにそう言うと、とびきりの笑顔を見せてくれた。
・・・・今までの人生。
人の悪口を行ったり、会社の事で落ち込んでお酒に逃げたり・・・
恋人が出来ないからって誰かにひがんでみたり。
そんなことばかりして過ごしてきた自分がとても恥ずかしく感じた。
桜田さんの言うとおり、私が不安を感じたり焦ったりするのは、
「何もしていないから」だ・・・。
「恋愛も近藤さんに最高のタイミングで必ず素敵な人に出会えると思うよ。だから、気楽に楽しい事して待っていた方がずっといいと思う♪」
「桜田さん・・・」
「近藤さんからはいい予感がするから、きっとすべてがうまくいくよ♪」
私は桜田さんの温かい言葉に涙がこぼれそうになった。
桜田さんの口からは前向きな言葉しか出てこない。
その言葉が、こんなにも私を勇気づけてくれるなんて・・・。
「・・・はい♪なんか桜田さんと話していたらとても元気になりました。私も毎日が楽しくなるように、好きな事に関わってみようと思います♪」
「うん♪」
何だか自分にも出来そうな気がするの・・・。
桜田さんのように、生き生きとした生活が・・・。
今までように、後ろ向きなものではなく、
もっと毎日を大切に生きてみよう。
何かが変わる。
きっと・・・きっと!!!
桜田さんとお茶をして以来、
私の中で、前向きな何かが大きく動き出しているのを感じていた。
今までは、ようやく起きていた朝の時間を、
少しだけ早起きをして、大好きなハワイアンミュージックをかけながら、コーヒーを飲むようにしたり、ぼっ~としていた通勤時間にも、前向きになれる本を読んでみたりと、
少しでも桜田さんに近づけるように、毎日が楽しくなるように時間を使う事にがんばってみた。
すると、毎日がどんどん楽しくなっていくのを感じていた。
「先輩♪フラ楽しそうですね♪」
前に習い事をしたらどうですか?と勧めてくれた後輩ちゃんが楽しそうに私に声を掛けてきた。
「うん♪毎週楽しみだよ~♪いいアドバイスくれてありがとうね♪」
「先輩が楽しそうで私も嬉しいです♪今日良かったら飲みに行きませんか?」
「うん♪いいよ♪」
私は後輩ちゃんと約束をすると、定時で上がれるように、
ひたすらにパソコンに向かって仕事を続けた。
「へぇ~♪素敵な人ですね♪」
私達は行きつけの居酒屋で乾杯すると、早速桜田さんの話をした。
「そうなの♪桜田さんのおかげで、毎日が少しずつ楽しくなってきた気がするの♪」
「そっかぁ♪好きな事に関わるっていいですね。」
「好きな事って、関わるだけで楽しいし、話していても楽しいしね♪」
「分かります♪私も英語教室楽しいし、今は大好きな俳優さんにはまってるけど、その時間は最高に楽しいですもん♪」
「俳優って誰??」
「ほらっ♪今大人気の松山隆平くん♪」
「あぁ~・・・あの若い♪」
「あぁ~本当に素敵♪彼みたいな人と出会いたいです♪」
後輩ちゃんは瞳をキラキラさせてそう言うと、
私の眼にはその姿がとても可愛く見えた。
「本当に好きなんだね♪」
「はい♪先輩の好きな事は何ですか??」
「私はね~今はやっぱりフラかな~♪でも最近は読書も好きだよ♪」
「どんな本読むんですか?」
「色々だけど、最近は前向きになれる本が多いかな♪」
「へぇ~♪楽しそうですね♪」
「うん♪」
「・・・やっぱ人って、好きな事について話してる時キラキラしてますよね♪」
後輩ちゃんは、にっこり笑うと、優しい目でそう言った。
「今私キラキラしてた??」
「はい♪」
私は後輩ちゃんの言葉が嬉しくて、ついつられて笑顔になってしまった。
桜田さんの言った通り・・・
キラキラ輝いてみえる時、
人は好きな事を考えている時なんだ・・・。
「実は、私も人の悪口とか苦手で・・・先輩とこういう話ししてる方がずっと楽しいです♪」
後輩ちゃんはすっきりとした顔でそう言った。
・・・そうだよね。
誰かの噂話をするよりも、
好きな事について笑いあう方がずっとずっと楽しいよね・・・。
「そうだね♪」
「はい♪」
その後も私達は、
お互いの好きな事を話題に、楽しい時間を過ごした。
「じゃあまた~♪」
「おやすみなさい♪」
私達は、地下鉄でバイバイすると、
私は、今日の事を振りかえっていた。
桜田さんみたいにキラキラ輝きたい。
そう思って、少し話す事を変えたり、生活に好きな事を取り入れただけで・・・。
こんなにも心が弾む毎日になるなんて・・・。
今日は帰ったら、大好きなアーティストのDVDでも見ようかな♪
私は電車を待ちながら、次の楽しみを見つけると、
また心が躍るのを感じていた。
毎日を変えるのは、自分次第。
誰かに幸せにしてもらうんじゃない・・・。
自分から積極的に好きな事に関わるだけで、
こんなにも楽しい毎日が待っていたなんて・・・♪
「明日食事でも行きませんか??」
高梨さんからメールが来たのは木曜日の昼間だった。
「・・・食事・・・。」
高梨さんとはあれから、メールをしていたものの、
あれ以来偶然にも会っていなかった。
どうしよう・・・。
でも・・・せっかくのお誘いだし・・・。
・・・・。
「いいですよ♪仕事は6時に終わります。」
私はドキドキしながらメールをすると、一仕事終えたかのように、コーヒーを入れに給湯室へと急いだ。
男の人とデートって・・・
何年振りだろう・・・。
私はコーヒーをコップに注ぎながら、
そんな事ばかり考えていた。
洋服は一体何を着て行こう・・・。
髪型はどうしよう・・・?
香水は?
あぁ・・・今日はパックしてネイルもしなくっちゃ!!
頭に浮かぶだけでも大仕事。
でもデートって・・・そうだよね。こうでなきゃね♪
私はわくわくした気持ちが湧いてくるのを感じていた。
せっかくデートに誘われたんだもん。
がんばっていい女を演出しなきゃ♪
私は、コーヒーを片手に給湯室を出ると、
気合を入れて自分のデスクへと戻って行った。
「お待たせ♪」
金曜日の恵比寿駅には人が多く待ち合わせをしていた。
その中で、高梨さんは私の事をすぐに見つけてくれた。
「今晩は・・・」
「今晩は♪じゃあ行こうか♪」
高梨さんは慣れた様子でそう言うと、
私達は人がごった返す駅前を抜けて、歩き出した。
男の人と並んで歩く・・・。
何だかどきどきしてしまう・・・
恵比寿駅の周辺はクリスマスも近い事もあり、
イルミネーションで町中がキラキラと輝いていた。
「何か急に誘ったりしてごめんね。」
「・・・いえ♪全然・・・。」
「・・・近藤さん好き嫌いはある?」
「いえ♪特にはないです・・・♪」
「じゃあ、お鍋でも食べに行こうか♪」
高梨さんは嬉しそうにそう言うと、私に笑顔を見せてくれた。
「・・・はい♪」
私もつられて笑顔になると、二人の間に優しい空気が流れて行くのが分かった。
高梨さん・・・
本当にいい人そう・・・
私は高梨さんの笑顔を見てそう思った。
身だしなみのきちんとしていて清潔感もあるし、
とっても高そうなコートを着てる・・・。
何をしている人なのかなぁ・・・。
「ここだよ♪」
高梨さんが連れて来てくれたのは、
温かい雰囲気の少し高級そうなお店だった。
「・・・綺麗なお店ですね。」
「美味しい日本酒が置いてあって、冬は良く来るんだけど、日本酒飲める??」
高梨さんは嬉しそうに言った。
「はい♪好きです♪」
「そっか、良かった♪じゃあ入ろう♪」
高梨さんはそう言うと、のれんをくぐりお店へと入って行った。
「いらっしゃい・・・あっ・・・高梨さん♪」
「今晩は」
「あらっ・・・今日はデートですか?」
「まぁ・・・ね♪」
「ではっこちらにどうぞ♪」
お店の女将さんらしき人と慣れたように会話を交わすと、
私達は奥にある座敷へと案内してもらった。
「素敵なお店ですね。」
「料理も美味しいよ♪どれにする?」
「任せます♪」
「じゃあ・・・この阿波踊りの鍋にしようか♪」
「はい♪」
「飲み物は?最初は生ビール?」
「はい♪」
「了解♪」
高梨さんのリードですぐに料理と飲み物を決めると、
私はさっきよりもいくらかリラックスしてきた。
「じゃあ乾杯♪」
先にビールが届くと私達は早速乾杯をした。
あぁ・・・仕事終わりの生ビール・・・美味しい♪
私はあまりの美味しさについつい笑顔になってしまった。
「美味しそうに飲むね♪」
そんな様子を見ていた高梨さんは、
面白いものを見るように、くすくす笑いながらそう言った。
「いやっ仕事終わりのビールがやっぱり一番美味しいですね♪」
「そうだね♪」
「高梨さんは、何のお仕事してるんですか?」
「・・・俺はね、簡単に言っちゃえば・・・外資系の仕事してるんだけど・・・」
「外資系??すごーい♪♪」
だから、あんなに高そうなコートや靴に、
高級そうなお店を知ってるんだ・・・。
「近藤さんは?何の仕事してるの?」
「私ですか?私は某ショップの営業事務です。」
「へぇそうなんだ。仕事楽しい?」
「・・・うん。まぁ・・・」
「そっか・・・。」
「お待たせしました。」
会話がちょうど途切れた所に、
熱々の鍋が温かい湯気をなびかせてやってきた。
「美味しそう♪」
「よしっ食べよう♪」
高梨さんはそう言うと、私の分まで丁寧にお皿に取り分けてくれた。
生ビールを飲んで少し冷えてしまった体に、
温かい鳥の出汁の効いたお鍋が体に染み渡るようだった。
「美味しい~・・・」
「ねっ♪美味しいよね。この薬味のゆずをのせても、また美味しいよ♪」
高梨さんは嬉しそうに言うと、
自分もお鍋を食べ始めた。
温かい部屋で、
冷たいビールを飲みながら、暖かいお鍋を食べる。
それだけでとても幸せな気持ちに満たされていった。
「御馳走様でした。」
美味しいお鍋と共に美味しい日本酒を飲んで私達はだいぶ会話も弾んだ。
そして気がつけば、時間は終電間際になっていた。
温かい店内から一歩外へ出ると、
冷たい木枯らしが一気に私達の体温を奪って行った。
「おぉ・・・寒い。」
「寒いですね~。」
「近藤さんお家はどこなの?」
「えっとここから3駅くらいです。」
「そっか。送ろうか?」
高梨さんは優しい目で私を見つめた。
「・・・大丈夫です。すぐですから♪」
私は高梨さんの温かい申し出を何となく断ってしまった。
「・・・そっか。じゃあ、また連絡します。」
高梨さんはそう言うと、
少し淋しそうにほほ笑んだ。
「はい。今日はありがとうございました。おやすみなさい。」
私は高梨さんに笑顔でそう言うと、
駅の構内へと入って行った。
私は駅で電車を待つ間、
今日の事を何となく考えていた。
高梨さん・・・
とってもいい人だったなぁ・・・。
話しも弾んだし・・・。
もしも結婚するなら、ああいう人がいいんだろうけど・・・。
まだ出会って間もないし、
もう少し彼の事を知りたいな・・・。
「外資系~!!!!」
優衣は声を大声にして言った。
「・・・そうみたい」
「いいなぁ♪愛ちゃん、将来はお金持ちじゃん♪」
「・・・まだ付き合ってもいないのに?」
「時間の問題でしょ♪」
優衣は嬉しそうに、ワインを飲んだ。
「結婚ってね、絶対にお金大事だよ。お金持ちに越した事はない!」
優衣は現実的な目で言った。
「・・・そうだけど・・・。」
「何を迷う必要があるの?高梨さんいい人だし、お金持ちだし・・・。」
「・・・・」
「まぁ・・・決めるのは愛ちゃんだしね♪」
「・・・うん。」
少し前まで、
結婚、結婚って焦っていたけど、
いざいい人が現れても結婚をしたいと思わないのはどうしてだろう・・・。
フラを始めて、
桜田さんと出会って楽しく生きて行こうと決めてから、
一人でも楽しい時間を過ごせるようになった。
楽しい事をしていると、
悩んでいる事がなくなったみたいに自由でいられる。
結婚の事も、
仕事の事も、
考えて心が曇る事を一生懸命考えるよりも、
自分が好きな事に関わり続ける事が今の私のしたい事なのかもしれない。
「なんか、愛ちゃんが羨ましい・・・。」
「えっ・・・?」
「最近何か楽しそうだし・・・。」
「優衣・・・。」
「また、旦那さんの事になっちゃうだんけどね・・・。」
優衣は旦那さんにたまっている不満を話し出すと、
止まらなくなってしまって、次第に泣き始めてしまった。
「なんか・・・私なんて必要ないのかなぁ・・・なんて。」
「優衣・・・」
「もう・・・どうしたらいいか分からないよ・・・。」
優衣はハンカチを片手に、せっかくのアイメイクもぐちゃぐちゃになってしまった。
少し酔っているのかもしれないけど・・・。
「何か始めてみたら・・・?」
私は優衣にそんな提案をしてみた。
そう・・・あの頃何もなかった私に後輩ちゃんがそう言ってくれたように。
「・・・何かって・・・?」
「優衣が夢中になれる何か。旦那さんの事ばかり考えているから、不満がたまっていくのかもしれないよ?結婚したことがないから分からないけど・・・。」
「・・・」
「私もね、前までネガティブな事ばかり考えていたの。何故か。でもフラを始めて夢中になれるものに出会ったら、気持ちにもね前向きになったの。」
「外に出るのが難しいなら、家の中で出来るヨガでも編み物でも。きっと何か変わると思う・・・。」
「そっか・・・」
「うん?」
「いやっ・・・そうだなぁと思って・・・今まで仕事に夢中だったからあまり考える時間がなかったんだけど、時間があるからきっと余計な事も考えちゃうんだろうね。」
「うん・・・。」
「そうだよね・・・せっかく時間があるんだもんね。・・・何か始めてみようかな。」
優衣は泣き顔を拭うとスッキリとした笑顔になった。
「優衣・・・」
「愛ちゃん、ありがとう。羨ましいなんて言ってごめんね。愛ちゃんだって自分から変わろうって頑張ってたの知っていたのに。」
「・・・」
「私も自分から変わらなきゃだよね。旦那さんのせいばっかりにしないで。」
「優衣・・・」
「何か大切な事に気がつけた気がする。・・・うん。ありがとう♪」
優衣はそう言うと優しい瞳で笑った。
「うん♪優衣には笑顔が似合うよ♪たった一回の人生楽しもう♪」
「うん♪」
優衣を見ていると、
少し前までの自分みたいだった。
自分から変わろうなんて、
思いもしなかった。
でも、今まで優衣が私を支えてきてくれたから・・・
今度は優衣や周りの人を支えて行ける人になりたい。
もっともっと、明るく前向きになって、桜田さんのように「存在」だけで人を照らせるような人になりたいな・・・。
私は、ぼんやりとそんな事を思っていた。
「じゃあ、また連絡するね♪」
優衣はすっかり笑顔を取り戻すと、元気いっぱいにそう言った。
「うん♪またね♪」
私も笑顔でそう言うと、私達はお互いの生活へと戻って行った。
優衣が元気になって良かった。
私でも・・・
誰かの役に立つことが出来るんだ・・・。
私はそんな事を思うと、急に嬉しさがこみ上げてきた。
「おはようございます♪」
今日は週に1回大好きなフラの日。
私は元気いっぱいにレッスンへとやってきた。
「あっ近藤さんおはよう♪」
「今日もがんばろうね~♪」
気がつけば、桜田さん以外にもお友達が出来、
皆明るくいい人ばかりだった。
「ではっ、先週の続きから始めたいと思います。・・・でもその前に、来月ハワイでフラの研修があります。もし参加したい人は私までお願いします。」
「・・・研修??」
私は初めて聞く言葉に、桜田さんを見た。
「うん。年に1度ハワイに行くの♪まぁ・・・研修って言う名の旅行だね♪」
「旅行!!」
「私も今年初めてだから、参加しようと思ってるんだけど、近藤さんも行こうよ♪」
桜田さんは嬉しそうに言った。
フラ教室の皆でハワイに行く・・・
楽しそう!!!
「私も行きたい!!仕事休めそうなら参加します♪」
「よしっ♪楽しもうね♪」
「はい♪」
私は、胸がドキドキ躍るのを感じていた。
今までフラを踊ってきて、
ずっとハワイで踊ってみたいと思っていた。
それに・・・
あの温かい風。
あの温かい人々の笑顔・・・。
そしてキラキラ煌めく海・・・。
ハワイへ行けると思っただけで、幸せな気持ちがこみ上げてきた。
「じゃあ、レッスンを始めましょう♪」
先生の言葉で定位置に着くと、
音楽が鳴り響き、部屋の雰囲気が一気に南国へと変わって行った。
「じゃあお先です♪」
仕事終わりに、フラでひと汗かいて、私は爽快な気分で教室を出た。
皆でハワイに行けるなんて夢みたい・・・。
あぁ・・・なんて幸せなんだろう♪
私は、来月のハワイ研修が楽しみで仕方なかった。
フラ始めて良かった♪
「あれっ・・・!!!!」
私は軽い足取りで駅へ向かっていると、
懐かしい声に呼び止められた。
「愛!!!!???」
この声・・・
もしかして・・・
「瞬ちゃん!!!???」
「うわぁ!!!なんやこの偶然!!!!」
瞬ちゃんは嬉しそうに私に駆け寄ってくると、
あまりの偶然に私達は笑ってしまった。
「久々~!!!!」
「元気してるんか~???」
「元気だよ~♪瞬ちゃんは??」
「俺??俺は相変わらずや♪」
「懐かしい~♪」
こんなに広い東京で・・・
瞬ちゃんとまた再会出来る確率ってどのくらい??
私は嬉しさのあまりに、
涙がこみ上げてきそうだった。
「・・・別れてからもう7年くらい??」
「・・・うん♪」
「愛も俺も30歳やもんなぁ~♪」
「うん・・・でも瞬ちゃん全然変わらないね♪」
「ほうか?もうビール腹よ(笑)」
「ふふふ♪」
「えっ・・・?今は一人やったん??」
「うん。フラダンス教室の帰り♪」
「おぉ~・・・OLさんって感じやな♪」
「瞬ちゃんは??」
「うん・・・俺は、待ち合わせやねん・・・」
瞬ちゃんは少し気まずそうに言った。
「・・・彼女?」
「ちゃうわ♪仕事場の同僚。」
「そっか♪」
私は瞬ちゃんの返しに何故か嬉しさを感じていた。
「なぁ・・・こんな所で会ったのもなんかの縁やん♪今度飯でも行こうや♪」
瞬ちゃんはさらっとそう言うと、私は胸が高鳴るのを感じた。
「うん♪♪」
「番号変わってへん??」
「変わってないよ♪」
「ほな、電話するわ♪」
「分かった♪」
「じゃあ、またな♪」
「うん♪バイバイ♪」
私は笑顔で瞬ちゃんとバイバイすると、胸が嬉しさでいっぱいになっていた。
瞬ちゃんにこんな所で再会出来るなんて・・・。
「えっ!!!瞬ってあの瞬???」
私は家に着くとすぐに優衣に電話した。
「そうなの♪全然変わってなかったぁ♪」
「・・・でも・・・瞬って確か・・・」
「そう・・・二股が原因で別れた・・・瞬ちゃんだよ。」
「愛ちゃん~・・・」
「でも、別にもう友達って感じだし♪」
「・・・うん・・・。」
「瞬ちゃんの事、引きずってた訳じゃないし、でも許せないって訳でもないの。もう7年も前の事だし。」
「そうだとは思うけど・・・」
「大丈夫だよ。好きになったりしないよ♪」
「うん・・・。」
そう・・・
もう恋をする事はないと思う。
ただ一緒にいると楽しかった瞬ちゃん。
まだ大学生の頃・・・
私達はなんでも話せる恋人だった。
瞬ちゃんと行ったデートはいつも楽しくて、
いつも私達は笑っていた。
恋の幸せをいっぱい教えてくれた瞬ちゃん・・・。
最後の方は、二股を掛けられていた事が発覚してだいぶ泣いたけど・・・。
それでも、瞬ちゃんと一緒にいた時間を無駄なんて思わない。
きっと恋人である前に、
人として好きだったから・・・。
そんな大好きな人にまた再会出来た事がただ単純に嬉しかった。
でもこの再会が、私の人生を大きく変えてしまうなんて・・・
この時の私はまだ知らなかった・・・。
「お疲れ様でしたぁ♪」
私はいつも通り定時に上がると、
外には冷たい木枯らしが吹き荒れていた。
こんな寒い日は・・・
大好きなDVDを見ながら、
おでんにビールがいいかな♪
私は楽しい事を考える癖がちゃんとついてきていた。
寒いからって・・・
恋人がいないと嘆いたり・・・ラブラブなカップルに嫉妬したりする暇もないくらいに、
自分の時間を大切にしよう。
私は明るい気持ちで、歩き出すと、
その瞬間に携帯電話が鳴り始めた。
「おぉ~俺♪」
電話の相手は瞬ちゃんだった。
「瞬ちゃん♪」
「今何してん??」
「帰り道だよ♪」
「よっしゃ♪飲み行こうや♪」
私は瞬ちゃんからの誘いにテンションが上がった。
「行く♪」
「ほな、中目黒で待ち合わせしようや♪」
「了解♪」
私は電話を切ると、
嬉しさを隠しきれなかった。
また瞬ちゃんと会える・・・♪
携帯を握りしめたまま、ドキドキ高鳴る胸を抱えて走り出した。
「おっす♪」
「うん♪」
「何食べたい??」
「おでん♪」
「了解♪」
私達はスムーズに会話を交わすと、
私達は並んで歩きだした。
「今日は仕事だったの??」
「・・・おう♪」
「そっか♪」
「あっ・・・おでんやあったで♪」
「おっ♪ほんまやん♪」
「真似すんなて(笑)」
「ふふふ♪」
「いらっしゃ~い♪」
赤ちょうちんの居酒屋に入ると、
笑顔の店員さんがこちらへやってきた。
瞬ちゃんは手で「2」と伝えると店員さんは私達をテーブル席へと案内してくれた。
「乾杯♪」
生ビールを頼むと私達は早速乾杯した。
「うままぁぁぁぁ~♪」
一口目を飲んだ瞬ちゃんは、本当に美味しそうな顔をしていた。
「変わってない♪」
「そりゃ~変わらんやろ♪」
「瞬ちゃんって本当にビールが好きだよね♪」
「おう♪でも最近は日本酒とかワインもたしなむで(笑)」
「なにそれ(笑)」
変わってない・・・
変わってない・・・
この二人のやり取りも、会話の波長も・・・。
瞬ちゃんとだと、
誰よりもリラックスして会話することが出来る♪
やっぱり・・・すごく楽しい♪♪
「愛は大学ん時内定もらった会社まだ勤めてんの??」
「うん♪」
「・・・そっか♪」
「瞬ちゃんは?あの会社でまだ働いている??」
「・・・・」
「どうしたの?」
「んっ・・・実はあの会社辞めてもうてん・・・」
確か、瞬ちゃんの成績じゃ難しいって言われていた一流企業に受かったはずだったのに・・・。
「一流企業だったのよね?」
「そうやねんけど・・・まぁ色々あって・・・」
「・・・そっか。」
7年もあれば色々な事が変わるよね・・・。
私の知らない7年間。
瞬ちゃんに何があったんだろう・・・。
「恥ずかしい話しやけど、今俺フリーターやねん・・・」
「えっ・・・??」
「30歳でフリーターって・・・感じやろ?」
瞬ちゃんは苦笑いしながら言った。
「そっ・・・そうなんだ・・・。」
あの一流企業に受かった瞬ちゃんがフリーターって・・・
「でもな、俺後悔してへんねん。今な、プロの舞台俳優目指してねん。」
「えっ??」
「会社勤めして、3年くらい経った頃かな・・・。急に俺・・・何してんのかなぁって思ったんよ。出世にも興味なくて、ただ毎日が流れて行くだけの日々に・・・」
「・・・・」
「生きてるって・・・言えんのかなぁって・・・」
「・・・・」
「東京の一流企業に就職して、そこそこの給与もらって。でも俺にとっての幸せはそうじゃなかった。」
「瞬ちゃん・・・」
「それで、一生かけてしたい事をする事が、俺にとって幸せなんじゃないかって気付いた。」
「・・・・」
「スタートが遅かったから、もう30になってもうたけど、まぁ・・・人生あと50年あるって思えば、遅くなかったかもな♪」
「・・・・」
「どう??今の俺(笑)俺の事、馬鹿って言う奴もたくさんおるけど、俺は今の自分に誇り持てるよ。」
「・・・うん。
私は瞬ちゃんの話しに息が詰まりそうだった。
あぁ・・・そうだ・・・
私の憧れを生きている瞬ちゃん。
自分の生き方に誇りを持って、素直に好きな事に関わって・・・
幸せが、お金や地位じゃないとはっきりと言える・・・・。
そんな瞬ちゃんは、
今の私には眩しすぎた・・・けど・・・。
30歳・・・
夢に向かっているなんて・・・
私には何となく非現実的すぎた。
「・・・結婚とか考えないの?」
「うん?まぁ・・・考えない事もないけど、それは神のみぞ知るってな。」
「・・・そっか・・・」
「愛は、結婚したい奴でもおるん?」
「・・・ううん。」
「そっか・・・」
まだ結婚なんて考えてもいなかった、あの頃だから瞬ちゃんの楽しく付き合えたのかもしえない。
今の瞬ちゃんとだったら・・・
私は胸に大きな不安が募って行くのを感じた。
「でもさ・・・結婚って本当に必要な時、必要な奴とするんじゃない?」
「・・・えっ?」
「淋しいからとか、周りがしているからって理由じゃなくて、ずっと一緒に生きていきたいって思う瞬間があるからするんじゃないかな・・・」
「・・・・」
「俺は、そういう風に思うまで結婚しないと思う。・・・偽りはいらないんや。」
「・・・瞬ちゃん」
「花の咲く時期は人それぞれでええやん。俺はそう思う♪」
瞬ちゃんは笑顔で私を見た。
そしてその笑顔は私の心を一気に熱くさせた。
「御馳走様でした♪」
私達は美味しいおでんでポカポカの体のまま赤い暖簾をくぐって店を出た。
「おぉ~・・・寒い・・・」
「真冬だねぇ~」
「よっし駅まで急ごうや♪」
瞬ちゃんはそう言うと、さらっと私に手を差し伸べた。
えっ・・・これって・・・
「ほらっ♪はよう♪」
「・・・うん。」
私はとまどいながらも瞬ちゃんの温かい手を掴んだ。
そして、胸の奥がキュンとして息をするほどに苦しかった。
男の人の温もりが・・・
あまりにも温かかった。
忘れていた、誰かを愛おしいと思う気持ち。
駅までの道のりが・・・
ずっとずっと続くといいのに・・・
私は瞬ちゃんに気持ちを悟られない様に、
顔をマフラーで隠しながらそんな事を思っていた。
「ほな♪またな♪」
駅に着くと、瞬ちゃんはさらっと手を離し笑顔でそう言った。
「・・・うん♪」
私は淋しさを隠しながら笑顔を作った。
本当はまだ一緒にいたい・・・。
でもそんな事・・・言えない。
「じゃあ♪」
瞬ちゃんは、そんな私の様子に気づく事なくそのまま歩き出してしまった。
「・・・あっ・・・」
私はそんな瞬ちゃんの背中を見送りながら、
吐き出せない思いを、ため息とともに冬の空へと吐き出した。
あぁ・・・
私は一体何をしているんだろう・・・
今更・・・瞬ちゃんに何を求めているの?
もうとっくの昔に終わった恋愛じゃない。
でも・・・
今日瞬ちゃんと話して思ってしまった。
やっぱり一緒に時間は楽しくて、
そんな時間がずっと続くといいのに・・・なんて・・・
30歳・・・
いい加減ちゃんとした恋愛をしないと・・・
いけないのにね。
「近藤さん♪どうハワイ行けそう??」
次の週、フラの教室に行くと、ルンルンした桜田さんが私に近寄ってきた。
「はい♪何とか休み取れそうですよ♪」
「良かったぁ~♪ねぇ今日レッスンの後買物行かない??」
桜田さんは嬉しそうに言った。
「はい♪いいですよ♪」
「やった!!じゃあ後でね~♪」
素直な桜田さんを見ていると、私まで優しい気持ちになれる。
瞬ちゃんと会ったあの日から、
私はまた、色々な事を考えるようになってしまった。
何も考えずに楽しく過ごしていた日々が霧のように消え去り、
未来への不安が胸に広がっていた。
「あっこれ可愛い♪」
桜田さんは、英字で描いてある特徴的な絵のTシャツに夢中だった。
「でもハワイで買った方が安いかなぁ・・・う~ん・・・」
一人ブツブツ迷う桜田さんの姿は、何となく可愛くて私はそんな様子を眺めていた。
「まぁ・・・いっか♪近藤さんこれ買ってくるね♪」
「あっ♪はい♪」
「あぁとりあえず必要なもの買えて良かった♪やっぱもう夏物なんて置いてないよね~♪」
私達は買物を終えると、デパートの中のパスタ屋さんでご飯を食べる事にした。
「ねぇ♪知ってる?」
「うん?何ですか?」
「人をね祝福すると、それが自分に返ってくるって♪」
「・・・?」
「友人の結婚式に呼ばれた時、恋人がいなくて一人ぼっちの時って、いいなぁ~って思っちゃうでしょ?」
「はい・・・」
「でもね、そこでいいなぁ・・・じゃなくて、いいね♪良かったね♪って思えたら、いつかもっと大きい形でその人に返ってくる。」
「・・・」
「でも、そんな出来た人間いないよね。そうなるには、自分がまず幸せじゃなきゃダメなのよ。」
「・・・自分の幸せ・・・」
「自分が幸せな人は、人の幸せもちゃんと祝福出来る。だからまずは自分が幸せになること。それが一番大切なの。」
「・・・」
「近藤さんにとっての幸せってなに?」
桜田さんは優しい表情で私を見つめた。
「私にとって・・・」
私は桜田さんの問いかけに、言葉が詰まってしまった。
私にとっての幸せ・・・??
「私はね、書いてる時が1番幸せなの。それとご飯食べている時かなぁ・・・♪好きな人と一緒に居る時も幸せ♪」
桜田さんはうっとりと言った。
「私は・・・私はやっぱりフラかな♪」
私は桜田さんに置いて行かれない様に、必死で答えた。
「幸せの形って人それぞれ違うものだからね♪近藤さんの幸せを大切にしてね♪」
「・・・はい♪」
・・・桜田さんは何で急にそんな話をし始めたのかな・・・
まるで私の気持ちが見えているみたい・・・。
「じゃあまたね♪」
美味しいパスタを食べて、ハワイの話で盛り上がって、私達は駅でバイバイした。
そして、少し酔っ払ってしまった私は、
気付けば瞬ちゃんに電話を掛けていた。
「もしもし・・・」
「あっ♪瞬ちゃん♪今大丈夫??」
「ごめん・・・今ちょっとあかんねん・・・」
電話越しに少し気まずそうな瞬ちゃんが見てとれた。
「あっ・・・そっか・・・」
「また電話するわ・・・♪」
瞬ちゃんは急いでそう言うと、電話を切った。
なんだ・・・
まぁ・・・そうだよね。
私は瞬ちゃんの彼女な訳じゃないし・・・
でも・・・
どうしてだろう・・・。
この切なくて、苦しい思いは・・・
私は、行き場のない思いを抱えたまま、
諦めたように電車に乗り込んだ。
「今晩空いてる?」
久しぶりに高梨さんからメールが来たのは、金曜日の午後だった。
私は、高梨さんの名前を見た瞬間に、
何故かほっとした気持ちがこみ上げてきた。
久しぶりのお誘い・・・。
外資系って月末忙しいっていうから・・・。
やっと時間が出来たんだ。
「はい♪大丈夫ですよ♪」
「じゃあ、7時に恵比寿で♪」
私はそのメールを確認すると、そのまま仕事へと戻って行った。
「今晩は♪」
駅に着くと、高梨さんは手を振ってこっちにやってきた。
「今晩は♪」
久しぶりの高梨さん。
髪を少し切ったのかな・・・。
前よりも素敵に見える。
「急にごめんね。やっと時間が出来たから、忘れられない様にと思って(笑)」
「忘れないですよ~♪」
「何食べたい??」
「今日は、私の行きつけの居酒屋に行きませんか?」
「いいよ♪ぜひ連れて行って♪」
高梨さんは嬉しそうに言った。
「はい♪」
私達は、お店までの道を並んで歩いた。
背の高い高梨さんは、恵比寿の街によくなじむ。
きりっとした顔立ちも、スーツ姿も大人の男の人って感じで・・・
私はそんな高梨さんを、心から素敵だと思った。
「いらっしゃい!!」
私は後輩ちゃんと良く行く行きつけの居酒屋へと高梨さんを連れて行った。
「おじさん♪生二つで♪」
「はいよ♪」
私は手慣れた様子で注文をすると、
高梨さんはそんな私の事をじっと見つめていた。
「このお店焼き鳥がとても美味しいんですよ♪」
私はお絞りで手を吹きながら笑顔で言った。
「焼き鳥いいですね♪俺も焼き鳥は大好きです♪」
高梨さんも嬉しそうに言った。
「はいよ!!生二つ!!」
おじさんは、テーブルにビールを置くと、そのまま厨房へと戻って行った。
「じゃあ乾杯♪」
私達はいつも通り乾杯をすると、
一口目のビールを飲んだ。
「美味しい~・・・」
今週頑張った自分へのご褒美。
温かい店内で頂く冷たいビール・・・
美味しい~・・・♪
「今日は、フラダンスのレッスンだったの?」
「いえっ♪フラは水曜日です♪でも来週からハワイに研修に行くんです♪」
「へぇ~・・・ハワイいいね♪」
「行った事ありますか?」
「うん。親が好きでね。小さい頃から良く行ってたよ。」
高梨さんは嬉しそうにビールを飲みながら言った。
やっぱりお家もお金持ちなんだ。
「私は1回しか行った事ないけど、もうハワイの虜です♪素敵な所ですよね♪」
「うん♪あぁ~・・・いいなぁ♪俺もハワイ行きたいな♪」
高梨さんは恋しそうにそう言った。
「俺ね、オアフも大好きなんだけど、ハワイ島がね・・・神秘的で忘れられない。」
「ハワイ島・・・」
「自然豊かでね。本当に美しいんだ。あぁ・・・話してると行きたくね♪」
高梨さんの子供みたいな表情に私はついつい笑ってしまった。
本当にいい人・・・
そして温かい人だなぁ・・・
「じゃあ、また連絡します♪」
私達は居酒屋で楽しい時間を過ごすと、今日もそのまま駅へと直行した。
駅に着ついた私は、あっさりとそう言って高梨さんに笑顔を送った。
「うん。・・・あっ・・・」
そんな私とは裏腹に高梨さんは、まだ私に話しがあるような雰囲気だった。
「・・・なんですか?」
「うん・・・。あのね、今日は近藤さんに話しがあって・・・」
「・・・??」
「俺、近藤さんの事が好きです。もし良かったら結婚を前提に付き合ってくれませんか?」
高梨さんは真剣な眼差しで私を見つめた。
そして私はあまりの出来事に、
頭の中が真っ白になってしまった。
「最初から、素敵な人だなって思ってました。また再会できた事が本当に嬉しかった。」
「・・・・」
「返事はゆっくり考えてもらって大丈夫です・・・。じゃあ、また・・・。」
高梨さんは一人思いを告げると、
少し淋しそうに背を向けて歩き出してしまった。
たくさんの人が行きかう恵比寿駅。
半分外の構内は、冷たい風が吹き荒れて・・・
私は一人、その場で立ちつくしてしまった。
ていうか・・・
えっ・・・?????
何が起こったの・・・????
高梨さんの言葉を理解するのに必死だった。
結婚を前提に・・・
付き合って下さい・・???
その言葉の重みに・・・
心臓がドキドキして、今にもその場に座り込んでしまいそうだった。
高梨さんが私の事を・・・
好きって事???
つい最近まで結婚したいって思ってた。
でもそれは本心ではなくて、周りの人にただ影響されて・・・。
高梨さんと結婚したら幸せになれる・・・。
外資の仕事をしていて、
ご両親もお金持ちで・・・。
高梨さんは、こんな私の事を好きと言ってくれているし・・・。
このまま、高梨さんと結婚すれば・・・
親も友達も喜んでくれる・・・。
でも・・・
でも・・・
でも・・・
「えっ!!!結婚??やったじゃん♪」
私は家に帰るとすぐに優衣に電話を掛けた。
「うん・・・。でも・・・」
「なんで?迷っているの?」
「・・・うん。こんなとんとん拍子でいいのかなって・・・」
「いいに決まってるじゃん♪愛ちゃんには幸せが似合うよ♪」
「・・・優衣」
「良かったね♪」
「・・・うん。」
優衣は自分の事のように喜んでくれた。
やっぱり・・・そうだよね。
誰がどう見たって、高梨さんは完璧で素敵な人。
私を選んでくれたのが不思議なくらい・・・。
でもどうして、私は心から喜べないのだろう・・・。
月明かりに照らされて・・・
思う人は・・・もう一人・・・
もう過去だと誰かは言うけど・・・
始まってしまった私の想い。
この想いを抱えたまま、高梨さんとお付き合いする。
それは・・・合ってるの?間違っているの?
でも・・・
もう彼は歩きだしている。
でも・・・
もう一度会いたい・・・。
「来週からハワイに行くんだけど、どうしてもその前に一度会いたいなぁと思って♪時間取れますか?」
私は勇気を振り絞って、瞬ちゃんにメールした。
この時点でジタバタしたって・・・
何か変わるわけでもないのに・・・
でもどうして、ハワイに行く前に・・・
高梨さんに返事をする前に瞬ちゃんに会いたかった。
「おう♪いいよ♪じゃあ、明日の7時に(^^♪」
瞬ちゃんからはすぐに返事がきた。
私はそのメールを見た瞬間にほっとした気持ちがこみ上げてきた。
でも・・・
今更瞬ちゃんの事が気になるなんて・・・
誰にも言えない・・・。
だから瞬ちゃんの事は、秘密にしておくの。
私の中だけで・・・。
次の日私は、大好きなワンピースに大好きな赤いコートを着て瞬ちゃんとの待ち合わせ場所まで急いだ。
季節はもう冬本番。
ほんの少し外にいるだけでも、すぐに体は冷え切ってしまった。
「おっす♪」
時間ちょうどに瞬ちゃんは笑顔で現れた。
「お疲れ様♪」
「行こうか♪」
瞬ちゃんは明るい笑顔でそう言うと、
私達は、5センチ距離を空けたまま歩きだした。
「今日は、どうする??」
「う~ん・・・瞬ちゃん決めていいよ♪」
「おっけ♪じゃあ、ちょっとしゃれて、ワインのある店にしよう♪」
「うん♪」
瞬ちゃんは、さらっと決めると、私達は早足で歩きだした。
「いらっしゃいませ。」
瞬ちゃんが連れて来てくれたのは、雰囲気の素敵なイタリアンレストランだった。
「お二人様ですね。こちらへどうぞ」
丁寧な店員さんが、すぐに私達を席へと案内してくれた。
そして、店内はとても温かくて、まるで天国のようだった。
「御注文がお決まりの頃お伺い致します。」
店員さんは笑顔でそう言うと、そのまま厨房へと戻って行った。
「素敵なお店だね♪」
「うん。俺も大人になったやろ♪」
「フフフ♪」
「あっ・・・そういえば、先週?先々週?電話くれた時すまんかったな!」
・・・あっ・・・
桜田さんと飲んで、酔っ払って電話しちゃった・・・あれか・・・
「ううん・・・♪いいの♪気にしないで♪」
「いやっ・・・彼女と揉めちゃってさぁ・・・」
「えっ・・・?」
えっ・・・??
瞬ちゃん・・・彼女いたの???
私は瞬ちゃんの発言に頭が真っ白になってしまった。
そんな事・・・
一言も聞いてないよ・・・。
「あれっ・・・言ってなかったっけ?」
「・・・うん」
「ごめん。ごめん。そう・・・もう3年になるかな・・・」
「そうなんだ・・・」
そうなんだ・・・。
瞬ちゃん素敵だし、彼女がいたって当たり前だよね・・・。
でも・・・私って本当に馬鹿。
私・・・瞬ちゃんに何を期待してたんだろ・・・
昨日までの膨らんできた瞬ちゃんへの想いが、
急に風船みたいにしぼんで行くのを感じた。
そうだよね。
そうだよ。
あぁ・・・でも・・・
すごくショックだ・・・。
「大丈夫?」
瞬ちゃんはひどく心配そうな瞳で私を見つめた。
「うん。ごめんちょっとトイレ・・・」
私は、あまりの出来事に居ても経ってもいられなくなってしまった。
瞬ちゃん・・・
彼女いたんだ・・・。
私はトイレに駆け込むと、
鏡越しの自分と目が合った。
昨日の夜は、パックしてネイルもして、お化粧直しも入念にして・・・
瞬ちゃんの為に??
私は一体何をしてるんだろう・・・。
そんな自分の事を思うと、何だが笑えてきた。
なんだ・・・
彼女いたんだ・・・。
何もしないまま、失恋した気分。
あぁ・・・
もう今日は飲むしかない・・・!
「お帰り♪」
「うん。」
「なんか適当に頼んじゃったけどいい?」
「うん♪」
「・・・今日はなに?なにか相談でもあったん??」
瞬ちゃんは、真面目な表情で私を見つめた。
「・・・うん・・・でも飲んでから聞いてもらおうかな♪」
「よっしゃ♪じゃあ、今日はじゃんじゃん行くで♪」
「うん♪」
私は精一杯の笑顔を作った。
今日瞬ちゃんに会いたかったのは・・・
瞬ちゃんに会えば、何か答えが見つかるかと思ったから。
でも・・・
それはきっと・・・
心のどこかで瞬ちゃんに期待していたのかもしれないね・・・。
「じゃあ、乾杯♪」
瞬ちゃんと私は白ワイン片手に乾杯をした。
久々に飲む白ワイン。
冷えていてとても美味しく感じた。
「ほらっこのあさりのバター蒸しめっちゃワインに合うで♪」
瞬ちゃんは嬉しそうに言った。
「あっ♪本当だ♪美味しい~♪」
「あとでチーズフォンデュもくんで♪」
「やったぁ♪大好き♪」
「どんどん食べや♪」
「うん♪」
私と瞬ちゃんは美味しいイタリアンに夢中になった。
やっぱり瞬ちゃんと一緒にいると楽しい♪
会話も弾むし、お酒も美味しいし・・・♪
でも・・・
もう会わない。
二股されていた気持ちがよく分かるから・・・
彼女さんの為にも、今日が最後。
私は美味しいワインを飲みながらそんな事を思っていた。
けれど、その思いのおかげで、今日は楽しもう。素直にそう思う事が出来た。
「ほんで・・・?話してみ・・・」
ワインが1本空いた所で瞬ちゃんが、真剣な眼差しで私を見つめた。
「・・・うん。」
「うん。」
「・・・今、食事に行っている人がいるの。」
「うん。」
「その人にね、結婚を前提に付き合ってほしいって言われたの。」
「・・・うん。」
「・・・正直、迷っていて・・・」
「・・・」
「仕事は外資系だし、見た目も素敵なの。中身だって最高・・・なのに・・・」
私はそこまで話すと、もう一口ワインを飲んだ。
「要するに、好きじゃあらへんって事やろ?」
「・・・・でもいつか好きになるかもしれない・・・」
「ほんまに?」
「・・・」
「ほんなら、愛はそいつの為に命張れる?」
「えっ・・・?」
「例えばやけど、そいつが病気になっても毎日看護できる?」
「・・・」
「そいつが無職になっても、結婚を続けられる?」
「・・・」
「俺は、前も言うたけど、本気で好きな奴以外と結婚する意味なんてないと思ってる。」
「・・・」
「ええやん。無理すんなって・・・。結婚ってそういう事ちゃうやろ?」
「瞬ちゃん・・・」
「そんなに周りの目が気になる?自分に嘘ついて・・・そいつに嘘ついて誰が幸せになれるん?」
「・・・」
「俺、愛には本当に好きな奴と幸せになってほしいねん。だから・・・流されんとちゃんと自分の気持ちに素直になってや・・・。」
瞬ちゃんはそう言うと、席を立ちあがりトイレに行ってしまった。
瞬ちゃんの熱い熱い言葉・・・。
何だか自分が恥ずかしく感じた。
瞬ちゃんの言うとおりだ・・・
好きな人以外と結婚する意味なんて・・・ないんだ・・・。
自分に素直になるのなら・・・
高梨さんはいい人だけど・・・
私の理想の人だったけど・・・
好きにはなれなかった・・・。
私は瞬ちゃんを待ちながら、自分の心と向き合いそして答えを見つけた。
「瞬ちゃん・・・ありがとう。」
瞬ちゃんが席に着くと同時に私は瞬ちゃんにお礼を言った。
「うん?」
「瞬ちゃんの言葉で気付いたよ・・・」
「うん。」
「私、本気で好きな人以外とは結婚しない。もしこの先本気で好きな人と出会えなかったら、結婚もしなくていい・・・。」
「うん。」
「だって・・・大切なのは、いつだって自分に正直でいること・・・だったんだよね。」
「うん。」
「結婚すれば、幸せになれるのかなぁ・・・ってどこかで思っていたけど、そうじゃなかった。今・・・自分が感じる幸せを大切に出来れば一人だって幸せでいられるんだよね。」
「うん。俺もそう思う♪」
「私、もっと自分に正直に楽しく生きてくよ♪」
「おう♪愛なら大丈夫♪そのうちいい奴も現れるだろ♪」
瞬ちゃんは優しい笑顔でそう言ってくれた。
「じゃあ、ハワイ楽しんでこいよ♪」
お店を出て、駅に着くと、瞬ちゃんは笑顔でそう言った。
駅までの道・・・
今日は手、繋がずに、私の気持ちは何故かスッキリとしていた。
「瞬ちゃん、大事な事に気づかせてくれてありがとう。」
「おう♪」
「彼女と幸せにね~♪」
「おう♪じゃあなぁ~♪」
私達は大きく手を振ると、その言葉を最後にお互いに歩き出した。
これで最後・・・
瞬ちゃんもどこかで分かっているだろう。
何となくそんな気がした。
さぁて・・・
瞬ちゃんとの恋はもう終わってしまったし・・・
高梨さんにちゃんとお返事をしてからハワイへ旅立とう。
これで・・・
良かったんだよね・・・
一人でも、二人でも・・・
幸せはすぐに近くにあって・・・
それに気づけるかどうか。
ただそれだけだったんだ・・・
そう思うとこの30年間、私はずっと幸せだったのかもしれない。
・・・でもこれからはもっと、好きな事に関わって、
桜田さんのようにキラキラ輝いて・・・
いつかまた本気で好きになれる人に出会えたら、
自分の気持ちに素直になろう。
もう・・・周りと比べるのはやめて
自分の幸せに素直になろう。
それだけで、きっと明日が輝き出す。
今はそう信じる事が出来るから・・・
私は、月明かりを見上げて、
少し笑った。
失恋をしたけれど、それ以上に成長できた。
そんな気がしたから・・・。
「・・・ごめんなさい。」
数日後、私は勇気を振り絞って、高梨さんへと会いに行った。
「・・・・そっか・・・」
高梨さんは、苦笑いしながらそう言うと、
私から視線をそらした。
いつも誠実で、
出会ったときから優しかった高梨さん・・・。
でも・・・自分に嘘をついたまま高梨さんとは付き合えない。
「いやっ・・・うん。ありがとうね。きちんと言ってくれて。」
高梨さんは、気持ちを切り替えたように、優しくそう言ってくれた。
「・・・・」
「近藤さんの、そういう所が好きだったんだ。嘘つかないとこ。」
「・・・高梨さん・・・」
「うん。」
「私も・・・楽しかったです。ありがとうございました。」
「・・・うん。」
私はもう一度高梨さんに頭を下げると、
私はそのまま高梨さんに背を向けて歩き出した。
今にもこぼれそうな涙を・・・
見られたら、また高梨さんを傷つけてしまう。
そんな気がしたから。
ねぇ・・・
私達の出会った意味は何だったのかな・・・?
優しかった高梨さん。
私にはもったいなさすぎるほどに、キラキラ輝いて、
いつも私を癒してくれた。
こんないい人を・・・
振るなんて・・・自分でも信じられない。
でも・・・
自分で決めた道だから・・・
後悔しない。
後悔しない・・・。
後悔しない・・・?
私は溢れる涙を、そのままにただひたすらキラキラ輝くイルミネーションで彩られた道を歩き続けた。
「じゃあ、皆さん楽しみましょう♪」
飛行機がホノルル空港に着くと、私達のテンションはマックスに上がった。
光り輝く太陽が、海をキラキラと輝かせ、
その景色は飛行機の中からも最高に美しかった。
「やっと到着したね~♪」
桜田さんは嬉しそうに言った。
「楽しみ♪」
私達は飛行機から降りると、早速南国の暑さが私達を包み込んだ。
「さっきまで真冬だったのに~!!!」
桜田さんはそう言いながら、着ていたパーカーを脱ぐと、
脇に抱えた。
「暑いねぇ♪夏だぁ♪」
やっぱりいいなぁ・・・
ハワイはいいなぁ・・・
このカラッとした暑さ。
なんて気持ちいいんだろう・・・♪
私は日本での出来事がまるで遠い昔のように思えた。
高梨さんの事も、瞬ちゃんの事も全部なかったみたいに・・・。
ハワイの力。
それを今こんなにも感じる事が出来る。
長い間悩んでいた事から解放されて、
今の私はまっさらだった。
「空港出たらとりえずホテルに行こう♪」
「はい♪」
私達は空港を出ると、
専用の送迎車にのって、ホノルル市内にあるホテルを目指した。
今回の研修に参加したのは、約10名。
皆子供みたいに楽しそうにはしゃいでいる。
「今日のディナーは皆でフラのショーを見る予定です。あと、明日任意でダイビングをする予定なので、参加したい人は9時にホテルの前に集合してください♪」
「はい♪」
「じゃあ、解散!!夕飯は7時にホテルのロビーでね♪」
先生はそう言うと、そのまま知り合いの外人さんとどこかに行ってしまった。
「とりあえず、部屋に行って荷物おこう♪」
「うん♪」
私は桜田さんと一緒に、部屋へと向かった。
「わぁ~部屋から海が見える♪」
「本当だ♪」
部屋に入るとまず目に飛び込んできたのが、キラキラと光り輝く海だった。
「ワイキキビーチ♪後で行こう♪」
桜田さんは嬉しそうに言うと、私もすぐに頷いた。
やっぱり・・・
ハワイって素敵・・・
なんて幸せな気分なんだろう。
澄み切った空気の中に、暖かい何かが混じっている。
私は大きく深呼吸すると、心はみるみると
楽しい気持ちで満たされていった。
「とりあえず、海の方へ行ってみようか♪」
準備を終えた桜田さんに連れだって、私達は海の方へとお散歩してみることにした。
「わぁ~♪素敵♪♪」
ワイキキビーチは夕日に照らされてキラキラと光り輝いていた。
「とりあえず、一杯しよう♪」
桜田さんは笑顔でそう言うと、近くにあったカフェへと入って行った。
「乾杯♪」
半分屋外の店からは、海がキラキラと輝いて見えた。
「うまぁ~・・・♪」
「最高だね~♪」
長かったフライト後のビールはキンキンに冷えていてとても美味しかった。
「やっぱりハワイはいいよね~♪」
「本当ですね~♪」
私は桜田さんに返事をしながらも、辺りを見渡しては、この雰囲気に酔いしれていた。
お店に流れるBGMはのんびりとしたハワイアンミュージック。
天井にはくるくると回る扇風機が、少しだけ暑さを和らげてくれていた。
この暑さ・・・
懐かしい・・・
「もう少ししたら、日が落ちるね♪」
桜田さんはビールを飲みながら、海を眺めて言った。
「本当だ・・・」
夕暮れに染まる海・・・。
オレンジ色に光り輝き、一秒ごとに景色を変えて行く。
本当・・・
東京であった出来事、全部なかった事みたい。
私は、ぼんやりとそんな事を思いながら、
ただ海だけを眺めていた。
「ただ、ここに居れるだけで幸せ♪」
沈みゆく夕日を見ながら桜田さんはぼんやりと言った。
そんな桜田さんの顔も夕日に染められて、とても美しく見えた。
「生きてて良かった・・・」
気付けば、私はそんな言葉を発していた。
そう・・・
心から、その瞬間を幸せだと思えたから。
「人生ってさ、色々あるけど、こういう瞬間があるから素晴らしいって思えるよね。」
「はい♪本当に・・・やりたい事をやる事がやっぱり幸せに繋がっているんだなぁって思います。」
「本当にそうだね~♪」
「桜田さんは、帰ったらやっぱりハワイの事、本にするんですか?」
「うん♪書こうと思ってるよ♪文章って不思議なんだけど、書いてるだけでその場にまた戻れる気がするの。」
「その場に?」
「そう♪同じ思いがこみ上げてくるの。だから2度楽しい♪」
「くす♪桜田さんらしい♪」
「まぁ・・・ね♪」
私達は光り輝く夕日に照らされて、1日が終わって行くのを眺めていた。
それは、戻る事の出来ない時間を、流れて行くのと一緒だった。
「さぁて・・・夕日も沈んだし、そろそろホテルに戻ろうか♪」
美しいサンセットを見終わると私達は、私達は満足した顔で歩き出した。
夏の夜・・・。
たまに吹く風が心地よくて、
辺りはまた別の顔を作りだしていた。
「フラのショー楽しみだね♪」
「はい♪私もハワイで見てから憧れちゃって♪」
「分かる♪魅力的だよね~♪」
「早く見たいなぁ♪」
「ねっ~♪」
桜田さんはそう言うと、幸せそうな笑顔で笑った。
私達、本当にフラダンスが好きなんだぁ・・・。
私は桜田さんの笑顔を見ながらそんな事を思っていた。
「じゃあ、皆揃ったので移動したいと思います。」
時間通りにロビーに着くと、わいわいと生徒達が楽しそうに先生の後について行った。
外に出ると、昼間は賑わっていたプールが、淋しそうに光り輝いていた。
そしてその脇を抜けると、大きいステージが目に飛び込んできた。
「ディナーはブッフェスタイルだから、好きに取ってね♪フラのショーは30分後に始まるから♪」
先生は笑顔でそう言うと、私達も皆笑顔になって、わらわらと食事を始めた。
「これ美味しい~♪」
ハワイアン料理がずらっと立ち並び、見ているだけでも幸せな気持ちでいっぱいになった。
「これも美味しいですよ~♪」
「後で同じの取ってこよう♪」
夏の夜・・・
外で食べるご飯は格別に美味しくて・・・
心地よい風が私達を包み込むと、さらに幸せがこみ上げてきた。
やっぱり旅行の夜って、最高に楽しい♪
「では、短い時間ですが、フラのショー楽しんでください♪」
料理も食べ終えて、お腹一杯になると、ゆっくりと音楽が流れ始めた。
先生のお友達が片言の日本語で挨拶すると、フラのショーが始まった。
ゆっくりと流れるハワイアンミュージック。
その音楽に合わせて、
一人、また一人と舞台袖から女の子達が光り輝く笑顔でやってきた。
頭には可愛い南国のお花をつけて、
首からは綺麗なレイを下げていた。
音楽に合わせて、ゆっくりと躍る姿はまるで天使のようだった。
「綺麗・・・」
その表情のどれもが、美しく煌びやかだった。
フラダンスは・・・
人の心に感動を与える素晴らしいものなんだ・・・。
私は、フラの踊る女の子達の楽しそうな表情に感動を覚えた。
そして少しだけ涙が溢れそうになった。
あぁ・・・
そう・・・この顔・・・
私がなりたいのは、この顔なの・・・。
好きな事に触れ合って、
それだけで幸せな・・・
この笑顔・・・。
フラのショーが終わると、
私達は大きい拍手を彼女達に送った。
本当に素敵なショーだった。
ハワイに来て、このショーが見られただけで、もう十分・・・。
何か、私の中で熱くなるものを感じていた。
「じゃあ、おやすみなさい♪」
私達は明日が絶対に楽しいと知っている子供のように、
ぐっすりと眠りについた。
「楽しかったね♪」
空港につくと、皆少し淋しそうな表情を浮かべながら飛行機を待っていた。
ダイビングをして、買物をして、皆でフラを踊って・・・
そんな楽しい4日間はあっという間に過ぎて行った。
そして、これから飛行機に乗って後は東京に帰るだけ。
この4日間が夢だったかのような、空しい気持ちがこみ上げてきたけど、
またくればいいよね♪
私はせっかくなので、最後まで楽しい気持ちを抱えたまま飛行機に乗り込んだ。
「そういえば、前に言ってたメールしている人ってどうなったの?」
飛行機に乗り込むと、桜田さんと一杯やりながら私の恋愛話になっていた。
「あぁ・・・えっと告白されたんですけど、断っちゃいました。」
「そっかぁ・・・」
「いい人だったんですけど、恋愛までに行かなくて・・・」
「他に好きな人がいたの?」
「・・・はい」
「そっか・・・」
「でもその人彼女がいたんです。だから、もう諦めるしかなくて・・・」
私は話しながら、二人の事を思い出していた。
ハワイにいるときは忘れていたのに・・・
東京が近付くにつれて、また二人との思い出が近づいてくるようだった。
「そっか・・・」
桜田さんは淋しそうにそう言うと、それ以上は何も言わなかった。
「着いたぁ♪」
無事に成田空港へと着陸すると、私はすぐにメールの問い合わせをした。
「・・・瞬ちゃんからメール・・・」
私はドキドキしながらメールを開くと、その内容に腰が抜けそうになってしまった。
「お帰り♪ハワイはどうだった?実はあの日愛と色々話して、俺も決心ついたっていうか・・・彼女と結婚する事になりました!色々ありがとうな!」
あっ・・・
そっか・・・
瞬ちゃん結婚するんだ・・・。
私は、あまりの急展開に少しだけ笑いがこみ上げてきた。
でも・・・
あの夜に決めた想いが、きちんと実現して良かった。
きっと瞬ちゃんとの再会は、
迷ってる私への答え・・・だったんだね。
あの時瞬ちゃんが現れなかったら、
私はきっと自分に嘘をついて高梨さんと付き合ってた。
そう思うと、
これで良かったんだ・・・心からそう思う事が出来た。
「桜田さん♪私ね、夢を見つけたの♪」
私は、携帯を閉じると、真っすぐに桜田さんを見つめた。
「・・・?なに??」
「うん♪私ね、フラダンスの講師になる!!!」
「おぉ♪いいじゃない♪」
「うん♪」
「ここからが・・・始まりだね♪」
「うん♪そしていつかまた、本当に好きな人と出会って結婚出来たらいいなぁ♪」
「大丈夫♪近藤さんならまた素敵な人に出会えるよ♪」
「うん♪」
キラキラ輝く朝日が昇り、
恋を失ったあの日・・・
私は、人生の行路を変更して、一番好きな事に関わる事に決めた。
それがどんな道であっても・・・
もう迷わない。
ハワイで見た、輝く笑顔が・・・
私の道しるべ。
いつか誰かが言っていた。
自分で決めた道を歩く事が、「自由」だと・・・
私は歩く・・・
誰よりも自由に・・・
そして、全ては楽しい人生を歩むために・・・♪
「エピローグ」
「へぇ~・・・そんな事があったんだ♪」
「そう。さっきすれ違った人があまりにも瞬ちゃんに似ていたから、つい思いだしちゃって。」
「それって何年前??」
「うん・・・もう8年くらい前だよ。」
「そっか。」
「でも、あの時、周りに流されて結婚しなくて良かった。」
「・・・?なんで?」
「もちろん♪あなたに出会えたから♪」
「・・・そっか♪」
「好きな人とまた出会えて、結婚出来て、私は本当に幸せ♪」
「夢だった、フラダンスの講師にもなれたしな♪」
「うん♪」
「俺も、今まで色々あったけど、愛と一緒にいられる今が嬉しい♪」
「晴・・・」
「これからも、一緒に生きてこうな♪二人で幸せを感じながら♪」
「うん♪」
「よっし♪じゃあ帰るか♪」
「うん♪」
そうして私達は、手を取り合って歩き出した。
温かい温もりに包まれて
本当の幸せを感じながら・・・♪
二人の温かい家に向かって・・・。
終わり
素顔のままで AYANA @ayana1020
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