第二十五話 対巨大蜂
刀を横に構え蜂の魔物へとゆっくり近づく。
ブンッ!
蜂が高速で体当たりをしてきた。
俺はそれを目で追い、身体強化で底上げしたスピードで避けた。
俺は以前不思議に思ったことがある。それは、師匠の神速の抜刀術「三日月」を初めて見た時。
なぜか少しだけ目で追えたのだ。
師匠の三日月はまさに神速。
それは音速を越え光の速さに近いものだ。普通は目で追えるものではない。それが今では討伐で何回も見たことにより、ほとんど全て見えるようになった。
これは俺のスキル、
目の状態を最善の状態に保つことで動体視力が異常に上がったのだ。
それ以外考えられない。
だが、この目にも弱点はある。暗いところでは普通に見えないし、急に明るい光をみたら眩しくも感じる。
また、慣れている動きは正確に見ることが出来るが、初見のものは何度か見ないとハッキリと捉えられない。
その弱点により、戦闘にすぐに参加することが出来ず二人の冒険者が犠牲になってしまった。
申し訳ない限りだ。
タンクの人は重傷だが、生きてはいるだろう。後で俺の出来る範囲の治癒魔法をかけよう。すまないが少しだけ待っていてもらいたい。
俺が犠牲になった冒険者とタンクの人に心の中で詫びていると、蜂が目の前を通り過ぎる。俺はすれ違いざまに一太刀いれる。だが、刃がほとんど通らない。
さっきからこの繰り返しだ。
そのうち刀の方が駄目になってしまう。
なんとかして打開策を考えなければ……
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「おい、こりゃどういうことだ……」
アランが呆然と呟く。
カガミが魔法を放ちながら、その呟きを拾う。
「ネロは昔から剣術より魔法が得意でな。剣術のみではまだ私の方が強いが、身体強化などの魔法を使われれば私など足元にも及ばない」
カガミは少し誇らしそうな顔で言う。
カガミとネロは戦闘訓練として魔法剣士としての模擬戦をしていた。
しかし、その時ネロは身体強化は行わず、あくまで剣術と魔法の連携を上達させることに重きを置いていた。
つまり、全力の戦闘はしていなかったのだ。
全力を出せばどこまでの強さなのか……
それは世界に名を轟かせるレベルなのではないかとカガミは思っていた。
なのでカガミは、なんの心配もせずネロを送り出したのだ。
「そっそんなことが有り得るのか……?まだネロは八歳だろ……?」
アランがまだ自分の目を信じられずカガミに質問する。
カガミはフッと息をもらし答える。
「有り得る。私はあの子は神が使わした救いなのではないかと思っているよ。この過酷な世界を救う存在としてね——それは見ていれば分かるだろう。……では、私はネロに任された仕事をする」
カガミが一歩前に出て手を振り払う。
それと共に魔法が放たれバスケットボール大の蜂の魔物が焼かれていく。
アランはカガミの魔法から視線をネロへと戻す。
そしてまた呟くのだった。
「神の使徒か……」
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キンッ
ヤバい刃が欠けた。
俺は先程からなんの打開策も出せず刀を切りつけていたが、ついに刀が限界に近づいていた。
ここは一か八か魔法を使うか——
情報では魔法耐性があるとのことだが、身体の内部なら魔法が効くのではないかと思ったのだ。
ラノベなんかではよくある手だ。
しかし、その為には少しでも体の内部に刃を到達させないといけない。
おそらく、突きを放ってやっと刃を到達させることが出来るだろう。しかし、確実に刀は持たない。
一度きりの挑戦だ。
ゆえに今まで思いついていても試さなかった。しかし、これではいつまで経っても平行線だ。
ここは賭けに出るべきだろう。
俺は刀を正眼に構える。
そして、蜂が体当たりしてくるのに合わせて突きを放った。
どうせなら顔面を狙ってやると思い、頭目掛けて刀を突く。
だが、俺の力と硬い甲殻により刀は案の定壊れた。しかし、頭身の短くなった刀をさらに押し込む。
ピキっと頭に刀身が突き刺さった。
——今だ!
俺は刀身に電撃を逃し蜂の体内を駆け巡るようにイメージする。
電撃は刀を伝い蜂の体内に入り……刹那の間だけ放電し消滅した。
「クソっ」
失敗だ。
魔法耐性は体内にまで及ぶようだ。
どうするどうするどうする——!?
おれは蜂の攻撃を避けながら考える。
何か打開策は——?
いや、焦るな。こういう時こそ冷静にだ。
考えろ。まず前提からだ。
相手は魔法耐性スキル持ちの蜂で高速移動が可能。
また、魔法耐性は内部にまで及ぶ。
しかし待てよ。
そのスキルはどうやって発動している?
魔物も人と同じならスキルを発動するには発動キーが必要だ。
そしてその発動キーが作動するには条件がいる。
俺なら怪我の感知。魔法耐性なら魔法の感知というように。
では、魔法の感知はどのように行っているのか?
考えられるのは体表面に魔法を感知する膜に類するものがあり、それに魔法が触れると発動キーが作動するというもの。
しかし、それでは内部に入った魔法が掻き消えた理由がつかない——
いやっ待てよ。
内部に入った魔法はホントに掻き消えたか?
いや、正確には即座に消えたか?
答えはノーだ。
刹那の間だけだが確かに放電した。
このことから考えられる仮説は、魔法耐性は通常体表面で感知しオートで対処しているが、内部に魔法が入った時は感知をマニュアルに切り替え対処しているのではないかということ。
これは一仮定に過ぎず合っているかは分からない。
だが、重要なのはそこではない。
——内部の魔法は消えるのに少しだが時間がかかる。
これにつきる。
そこに勝機がある。
俺はこれらのことから作戦を頭の中で整えると、蜂から一旦距離を取った。
手には先ほど壊れて刀身がほとんど無くなった刀。
それを片手で構える。
また魔力を練りいつもより高濃度の魔力を体に纏わせる。
俺の身体の周りには高濃度の魔力が可視化されて白く揺らめく。
そして、俺は地を蹴った。
刹那——地面が爆ぜた。
俺は弾丸よりも速く蜂に接近。
蜂の頭部に再度刀を突き立てる。
刀が壊れたが、わずかに残った刀身が蜂の内部に達した。
瞬間、爆発的に刀に電撃を流す。
電撃が蜂の内部に入る。
先ほどよりも長く電撃が蜂の内部を巡り、蜂が体を捩った。
しかし、しばらくすると電撃は消えた。
「まだだー!!」
俺は電撃の放出を止めず持てる限りの魔力を電撃に変換し放電した。
辺りが電撃の光で白く染まり、バチバチという音が響き渡った。
「燃えろー!!」
電撃が蜂の体を駆け巡る。
「キシャー!!」
蜂が断末魔を上げて豪快に燃え上がり地面に落下した。
俺は肩で息をしながら後ろを振り向く。
そこには呆然としたアランと微笑むカガミ師匠がいた。
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俺は戦闘が終わると、まずはタンクの人のところにいった。
タンクの人は腕が折れ全身が傷だらけだった。
すぐにタンクの人に治癒魔法をかける。
全身の傷がそれで修復された。
しかし、骨折した腕はそのままだ。
俺の治癒魔法は細胞を増殖させ傷などを塞ぐものだ。
なので、骨折は治せないのである。
しかし、これで一応命の危険は無くなっただろう。
ふと気がつくと、後ろに師匠とアランがいた。
「ネロよくやったな」
師匠がおれの頭を撫でる。
「でっでもよ! なんで魔法で倒せたんだ? 相手は魔法耐性持ちだぞ!?」
アランが混乱したように尋ねる。
「あーそれは——」
俺は師匠とアランにおれが考えた仮説を話す。
内部のスキルの発動はマニュアルでやっているのではないかということ。
だから、蜂が認知できない速度で攻撃を仕掛けた。
それから、内部の魔法は消えるまでに少し時間がかかるということ。
これは感知をマニュアルでやっているからなのかどうかは分からないが、確かな事実。
だから、魔法が掻き消える前に大出力で魔法を放ち有効打を与えた。
それを聞いたアランは放心していた。
カガミ師匠も驚いた様子だった。
「魔法の威力は知っていたがスキルの発動の仕組みを解析していとは……」
「空いた口が塞がらねぇとはこのことだ」
カガミ師匠とアランが驚愕していた。
「まっまぁたまたまですよ。気になって自分なりに考えただけです。合ってるかは分かりません」
「それでもすげぇ……世の中に公表すりゃそれこそ大騒ぎになるぞ」
「ちょっちょっとそれは! 出来れば隠しといてもらえますか?」
教会に屈しないだけでも苦労しているのに、それ以上変に目立ってしまっては面倒ごとが舞い込んでくるだけだ。
まぁ強くなっても面倒ごとは舞い込んでくるかもしれないが、それ以上はご遠慮願いたい。
「お前がそれでいいなら、いいが……一生遊んで暮らせる金が手に入ると思うぞ。それでもか?」
「それでもです! お願いします!」
俺はアランに必死に懇願した。
「分かった、言わねぇよ。他でもねぇ命の恩人の頼みだからな」
アランは白い歯を出して笑った。
「それじゃ帰ろう。帰りはネロは休んで……」
「いえ、僕も闘います。闘える人が少な過ぎますから」
師匠の申し出を俺は断固とした態度で断った。
これでまた誰かが傷付いたら元も子もない。
「それじゃ帰りましょう」
そうして俺達は歩き出す。慣れ親しんだ街を目指して。
背後のボスの間には巨大な蜂の亡骸が、今までの激しい戦闘がまるで嘘だったかのように静かに沈黙していた。
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