第25章 託された遺志と新たな決意

トーマス師匠は、俺の腕の中で苦しそうに咳をし続けていた。身体の上には、小さな黄色い光の球がどんどん増えていく。




 ……もう、希望はない。




 このままだと、数秒のうちにトーマス師匠は完全に消えてしまうだろう。




 




「……弟子になってくれて、ありがとう」




「もう、しゃべらないでください……無理しないでください、師匠……」




「君はきっと、素晴らしい靴職人になると信じているよ」




「トーマス師匠……」




「消えるのはわかってる。だから……靴屋は君に任せる。人々を笑顔にする靴を作り続けてくれ……」




 




 そう言い終えた瞬間、トーマス師匠は静かに笑い――俺の腕の中から、光となって消えた。




 




 涙がぽたぽたと、空っぽになった手のひらに落ちていく。




 長い時間を一緒に過ごしたわけじゃない。だけど、NPCが消えていくのに、こんなに胸が痛むなんて……。




 




 ありがとう、トーマス師匠――。




 




【警告!】




【アップデート通知】




【アップデート通知】




【アップデート通知】




《靴職人トーマスの店》は、あなたに引き継がれました。




トーマス師匠の意志を継ぎ、素晴らしい靴職人を目指してください。




 




 ――引き継いだこの店、必ず守る。




 絶対に、立派な靴職人になると約束する!




 




「行こう。街の人たちを助けなきゃ。まずは、回復職を探そう」




「……うん、そうだね」




 




 目元をぬぐい、俺はメアリーと共に再び街の混乱の中へと走り出した。




 




 町は、地獄のようだった。




 泣き叫ぶ人々。瓦礫と化した建物。負傷したNPCたちが、あちこちで倒れていた。




 しかもその瓦礫のせいで移動すら困難で、回復職を探すのも簡単ではない。




 




【メッセージ:PentroWia】




「突然の街への襲撃について連絡します。君が初心者なのは知っているから、いくつか助言をしておく。今のパロウニア市は安全ではない。全体チャットを見れているかは分からないが、皆混乱している。だから、すぐにログアウトして逃げるんだ」




 




 は? PentroWiaから突然のメッセージ……?




 パロウニア市って、今いるこの街のこと……?




 ていうか、全体チャットってどこで見れるの? そしてログアウトしろって……。




 




 ――ドオオオオン!!




 




 返事を打とうとした瞬間、すぐ隣で大爆発が起き、俺の体は宙を舞った。




 がれきが全身に降りかかり、耳鳴りが響く。




 体が……動かない。




 全身が、しびれるように感覚を失っていく……。




 まぶたが、重い……。




 




 ――メアリー、無事でいてくれ……




 




【警告!】




【あなたは死亡しました】




【6時間、ゲームにログインできません】




 




「な……なんだって……」




 




 ……VRゴーグルを静かに外す。




 考えるまでもない。もう、このゲームを本気で調べて、理解しなきゃいけない。




 




 俺はベッドから立ち上がり、PCの前に座った。




 俺にとっての本当の始まりは――ここからだ。

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