第23章 消える命、揺れる城内
「ねぇ! 大丈夫!? 聞こえる!? しっかりして!」
目は閉じたままだが、かすかに聞こえる声――これは、メアリーの声……?
「街のあちこちから爆発音が聞こえるわ!」
「これはただの事故じゃない……大規模な攻撃ね。早く警報を鳴らして!」
メアリーが他のNPCに指示しているのが、なんとなく分かる。その間に、ゆっくりと目を開けるが――目に入った埃のせいで、ほとんど見えない。
こんなに現実的なゲームだなんて……正直、気味が悪い。
「はい、この水で目をよく洗って。しっかりね」
「ありがとう……」
焦った様子のメアリーが水筒を手渡してくれて、それで目を洗うと、ようやく少しずつ視界がはっきりしてきた。
俺たちが座っていたテーブルや椅子は無惨に壊れていた。厨房の中のレードルや大鍋も床に転がっており、まともな状態のものは一つもない。そして、床にもいくつかの亀裂が走っていた。
それにしても、周りにいたはずの料理人NPCたちの姿が見えない。
「ベアトリクスはどこ?」
メアリーの手を借りて、なんとか立ち上がる。そして改めて周囲を見渡すと、ベアトリクスの姿も見当たらないことに気付いた。
「彼女は、爆発があった方向へ安全確認のために向かったわ」
「そうか……無事でよかった。でも、この爆発は一体……?」
「まだ調査中よ」
メアリーの顔がこんなにも真剣なのは、初めて見る。唇の端に滲む血にも気づいた俺は、水筒を差し出し、彼女にそれを使ってと促す。
彼女はすぐに顔と口元を拭くけれど、俺たちの服はもう埃と汚れでひどい状態だった。それでも気にせず、俺たちは歩き出す。
厨房から出た途端、城内は混乱の渦中だった。走り回る衛兵たち――目に入る光景を一言で表すなら、まさに「惨劇」だった。
赤い絨毯に刺繍された鷲の紋章は引き裂かれ、遠くの階段は瓦礫と化し、ほんの数分前に見たばかりの彫像も全て倒れて壊れていた。
通路の隅には負傷した衛兵たちが倒れ、他の衛兵が彼らに駆け寄って回復魔法をかけていた。
NPCだとは分かっていても、このゲームがあまりに現実的すぎて、吐き気がしてくる。それでも、耐えるしかない。
「ヒーラーたち、そこに重傷の衛兵がいるわ! 手当てをお願い!」
通路の左側、カラフルな扉の一つの前で、血を流して倒れている衛兵に気づいた俺は、慌ててヒーラーたちに叫んだ。
……が、誰も俺の言葉に反応しない。
「な、なんで誰もあの衛兵を助けようとしないんだ、メアリー?」
「理由があるのよ」
「理由……?」
「見れば、すぐに分かるわ」
メアリーは悲しげに目を逸らす。そして、瞳から静かに涙が一筋流れた。
その時だった。重傷のNPCの周囲に、小さな黄色い光の泡がふわふわと現れた。
「えっ……なに、あれ……?」
光の泡が宙に舞う中、NPCの身体が――突然、消えた。
……なっ……!
NPCの肉体が目の前で消えていくのを見て、俺の体中が震える。怖い。正直、ものすごく怖い。
「見たでしょ。あの状態じゃ、ヒーラーたちがいくら頑張っても助けられないの。薬草やマナを無駄にするだけよ」
「……なるほど……そういうことか……」
なんとか言葉を飲み込んだ俺は、ふと気づく。
厨房から逃げたと思っていた料理人NPCたち……もしかすると、もう……とっくに……
消えてしまったのかもしれない――。
そして、その「消えた」者たちは、もう二度と戻ってこない。
本当に、胸が痛む――。
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