第3章 最初の弟子修行

自分専用の作業台が与えられたことが、まだ信じられない。木製の椅子に腰を下ろし、感慨深げに背もたれにもたれる。この場所で、これから数えきれないほどの靴を生み出すのだと思うと、胸が熱くなった。




チリンチリン──




突然、店の入り口のベルが鳴り響いた。




「おい、客だぞ。行ってみなさい」


トーマス親方がいつものように柔和な笑顔で言う。




(えっ、俺が対応するのか...?)




躊躇いながらも頷き、入口へと向かう。そこには腰まで届く青い巻き毛をした少女が立っていた。


大きな青い瞳が印象的で、背中には髪の毛に隠れそうなほどの大剣を背負っている。




(かわいい...けど、これもNPCか)




このゲームでは、NPCの頭上にはプレイヤーと違って名前が表示されない。十分に関係を深めれば、特別な色で名前が見えるようになるのだが──




「あんた誰?トーマス親方はどこ?」


鋭い声で詰め寄られ、我に返る。




「弟子です。親方は奥で作業中ですが...」


「怪しいわね」


少女は不信そうな目で俺をじろじろと見下ろした。




「それなら親方を呼んできて」


「もういいわ!急いでるんだから」


彼女はそう言うと、さっと紙切れを押し付け、外へ駆け出していった。




(メアリー...か)




紙には丁寧な字でこう記されていた:




【トーマス親方へ】


日頃よりお世話になっております。


訓練で靴をすぐに傷めてしまうのが悩みです。


どうか、長時間の警備勤務にも耐える


丈夫で快適な靴を作ってくださいませんか。


敬具


城門警備隊 メアリー




「メアリーは毎年靴を注文に来るんだよ」


親方は懐かしそうに説明してくれた。


「城の警備兵でね、初対面の人には警戒するが、根はいい子だ」




【クエスト更新!】


『メアリーの靴を製作せよ!』


トーマス親方と協力して、城兵用の


耐久性に優れた靴を作り上げよう!




「さあ、始めるとするか」


親方が温かみのある手を俺の肩に置いた。




(絶対に、最高の靴を作ってみせる!)




新たな挑戦が始まろうとしていた。

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