第11話 決着
奈保美と別れ、数日たった日。俺は覚悟を決めて、有佐にメッセージを送った。
萩原『今度二人で会えないか』
有佐『二人だけで?』
萩原『うん』
少し間が空いてメッセージが返ってきた。
有佐『いいよ』
だが約束したその日はあいにくの大雨だった。
萩原『今日はやめておくか?』
有佐『大丈夫。行くから』
大雨の中、有佐はいつものように俺の家に来た。
「濡れてないか?」
「大丈夫。大きい傘持ってるし」
そう言いながらも有佐は少し濡れているようだ。俺はタオルを差し出す。
「ありがと。食材買ってきたから夕食作るね」
「別にそういうつもりじゃ無かったのに」
「ううん、作らせて。ハンバーグ、好きだったよね?」
「よく覚えてるな」
「もちろん」
有佐は手際よく作っていく。いつもは美柑と二人で居たから何か変な感じだ。
「さ、食べて」
「ありがとう。いただきます」
俺は有佐が一人で作った料理を初めて食べた。
「美味しいな……」
「そう、よかった」
「なんかいつもより……いや、これは美柑に失礼か」
「ふふ、私一人で作ったから愛情が入ってるからかな」
「え?」
「冗談よ。美柑は相良君への料理を試してるからね。栄養優先だから。私はとにかく萩原君が美味しいと思うものと考えて作ってるからね」
「そうか……」
「それが愛情が入ってるってことかな」
「そうかもな」
「あと……ハンバーグは私が一番練習した料理だからね」
「……そうか」
俺はその理由は聞かなかった。
俺たちは夕食を食べ終わり、俺はいつものようにコーヒーを入れた。
「……コーヒーもいつもより美味しい気がするけど」
有佐が言う。
「ちょっといい豆を用意したからな」
「……どうして?」
「有佐のためかな」
「そうなんだ」
俺たちは黙ってコーヒーを飲んだ。沈黙を破ったのは有佐だった。
「それで、今日、二人っきりで会おうと思ったのはどうして?」
「……まず、言っておかなければならないことがある。俺はこの間、奈保美と二人で会った」
有佐の目が見開いた。
「そうなんだ。何の話したの?」
「……別れ話だよ。今更だけど」
「そう……奈保美、泣いてた?」
「少しな」
「そっか。やっぱり強いな、奈保美は」
「うん……そして、言われたよ。有佐とも決着を付けろって」
「そういうことか……うん、わかったよ。何言われても受け入れるから、私にも決着を付けて」
有佐が俺を正面から見て言った。
俺も有佐の目を見た。ここまでの3年間の決着を付けるときが来ていた。
全ては俺が弱くて逃げ出したからだ。みんなに迷惑を掛けてきた。だからもう俺は偽らず、ちゃんと言わないといけないのだ。
「俺は……有佐が好きだ。付き合ってください」
有佐は俺が最初の告白したあのときと同じように目を見開いていた。
「そういうのも決着なの?」
「ああ。俺にとってはこれしか決着が付かない。ここで強がってもう会わないようにしようと言ったって、結局また会ってしまう。ここまで逃げても同じだったんだ。逃げても逃げても同じだから……もう逃げずに行くしかない。だから正直に言うよ。有佐……好きだ」
「ずるいよ、萩原君は……」
「ごめん」
「いつも、私の予想と違うことばかりして……決着つけるって言うから、もう今日で終わりだって覚悟したのに……」
有佐の目からは涙がこぼれ落ちていた。
「ごめん……」
「謝るのは私だよ。ずっと謝りたかった。萩原君を追い詰めちゃって、私……」
「違うよ、俺が弱いだけだ。手紙にも書いてたろ。有佐は悪くない」
「最低最悪の手紙だったよ。この世の終わりだったよ、あの日は……もう二度と、あんな手紙は書かないって約束する?」
有佐が泣きながら言った。
「……もうあんな手紙は書かない」
「私の前から居なくならない?」
「もう二度と居なくならない」
「……絶対だよ」
そう言って俺に抱きついた。俺も有佐を抱きしめた。
「政志、よろしくお願いします」
「こちらこそ、有佐」
こうして俺と有佐は初めて恋人同士になった。
どうやら外の雨はもう上がったようだ。
――――
※残り2話はエピローグとなります
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