第7話 近況

 俺は逆に美柑に聞いた。


「卒業の時にまた相良と付き合いだすとして、プロになったらどうするんだ? 熊本のチームとは限らないだろ」


「そうだねえ、まだその話はしてないけど、できれば付いていきたいかな」


「そうか」


 美柑も気持ちを決めているようだ。


「みんなちゃんと将来を見据えてるな。俺はまだ何にも考えてないよ」


 植田が言った。


「私もそうだよ。将来なんて考えられない」


 有佐が言う。


「有佐は萩原っち次第じゃないの?」


 美柑の言葉に有佐は黙ったままだった。


「結局、お前たち、どうなったんだ?」


 植田が俺と有佐に聞く。


「全てリセットしてまた友達から始めたよ」


「それは聞いてたけどな……」


「とりあえず一歩前進かな」


 美柑が言う。


 俺は話を変えようとして言った。


「よく考えたら、俺もみんなが何しているのか、よく知らないな。よければ、教えてくれないか?」


「うん、わかった! まず美柑からね。私は栄養学を学んでるよ」


「栄養学? 相良のサポートのためか?」


「うん! プロスポーツ選手の奥さんになるなら食事が一番気を使うからね」


「美柑、結婚も考えてるのか」


「あ、言っちゃった……ミッチーは何も言ってくれないけど当然考えてるよ」


「そうか……」


 結局お互いに同じ事を考えているようだ。心配はいらないな。


 次に植田が話し出す。


「俺は経済学部だ。だからといって、何をしたいとかも決まってないけどな。たぶん適当に就職するよ。サークルはバスケのサークルに入っているがときどき遊びに行ってるぐらいだ。ちなみに彼女はいない。これは言ったか」


「植田君、彼女、いないんだね」


 美柑が言った。


「だからって羽目を外す気は無いぞ」


「わかってるよ、そういう意味じゃないって」


「まったく……。じゃあ、次は有佐だな」


「私は情報メディアについて学んでるかな」


「そうか、やっぱりパソコンとか好きなんだな」


「うん。今はそういう仕事をしたいと思ってる」


「そうか、俺と近いジャンルだな」


「うん。ちなみに彼氏はいないよ」


「……らしいな。植田から聞いたよ」


「まあ、女子大だしね。美柑と楽しくやってるかな」


「そうか……」


「萩原君……これからもときどき会いたい。だめかな?」


「俺は……」


 どうするべきだろうか。リセットしたと言っているが、まだいろいろな過去のことにとらわれている。有佐のことをどう考えるべきか分からなかった。


 奈保美は『有佐を救ってやって欲しい』と言っていた。そして『その方法はあなたに任せる』と。ここで有佐を拒絶することも救うことになるのだろうか。俺にはそうは思えなかった。


「まあ、会いたければ会いに来ればいいさ」


 俺はそう言った。


「うん、わかった。私も大学あるし、そんなにしょっちゅう会えるわけじゃ無いけど、行けるときは連絡するね」


「ああ、無理はするなよ」


「うん……」


 有佐は笑顔になっていた。


「久々にこういう有佐見たなあ」


 美柑が言う。


「確かにな」


 植田も言った。


「そうなのか?」


 俺の中では有佐はいつも笑顔で明るかったイメージだ。


「そうなんだよね。笑っていてもどこか影があるような感じだったけど、今日は100点の笑顔」


「そ、そうかな……」


 有佐もとまどっているようだ。


「ね、萩原っち。うちらのグループLINEに復帰してよ」


 美柑は言った。グループLINEか……。


「まあ、いいぞ」


「やった! じゃあ、よろしくね」


 俺はその日から懐かしいグループLINEに復帰した。


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