第27話 選択肢
俺は家に帰り、自分の部屋で考え込んだ。焦燥感で背中が熱い。これからどうするべきか……。
といっても選択肢は少ない。麦島奈保美はもう俺の元からは去ってしまった。あとは高田有佐と付き合うかどうかだけだ。俺は有佐のことをまだ好きだった。だが、だからといって、ついさっきまで奈保美と付き合っていたのに有佐と付き合うなんて……
奈保美は俺が一番つらいときに寄り添ってくれた人だ。奈保美のおかげで俺は立ち直ることが出来た。俺にとっては恩人だ。奈保美は俺と別れると言ったが、本心は違うように思う。俺は奈保美を簡単に捨てることはできなかった。
夜になり、俺は奈保美に電話した。
「どうしたの?」
「奈保美、本当に別れるのか?」
「『麦島さん』でしょ。ていうか、もう別れたのよ。私と萩原君はもうただの友達」
「俺が付き合いたいと言ってもか?」
「あなたの気持ちが有佐に向いていることはよく分かってるから。だから、私も潮時よ。言ったでしょ、限界が近づいているって」
「……そうか」
「明日からは普通に友達として話して」
「それは……難しいな」
「でも、そうしないといけないから」
「無理だ」
「無理でもよ、じゃあね」
奈保美は電話を切った。
俺は奈保美と恋人じゃない関係になることに耐えられそうになかった。かといって、有佐から完全に吹っ切れたわけではないことも明らかだ。
……俺は最低だ。
幸いなことに明日は土曜、明後日は日曜だ。俺はじっくり考えることができる。
◇◇◇
土曜日、有佐から電話がかかってきた。
「ごめんね、迷惑かけて」
「迷惑じゃないよ」
「そう、ならいいけど……萩原君が私と付き合う気ないならさっさと振ってもらってかまわないから」
「そんなこと……できないよ」
「できないの?」
「うん、有佐は俺にとって今も最愛の人だから」
「そうなんだ。だったら――」
「でも、俺には彼女がいて……」
「もういないんじゃなかったの?」
「そうだけど……」
「ごめん。私が言えることじゃないよね。無理はしないで」
「うん……」
「返事待ってるから」
「わかった」
俺はやっぱり、有佐の気持ちに応えたいとも思っている。だが、奈保美と別れるのも違うとしか思えなかった。奈保美の前で有佐と恋人として振る舞うなんて到底できそうにない。
どの選択肢を選んでも、苦しいことに変わりは無かった。どうすればいいんだ……
逃げられる道があれば、逃げたくなっていた。
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