第25話 一週間

 月曜になり、俺と麦島奈保美はまた朝からコンビニで待ち合わせた。そして、自転車で学校に向かう。

 途中、信号で止まったとき、奈保美が言った。


「例の件だけど……」


「え?」


「一週間の件」


 この一週間で有佐が何もしてこなかったらすっぱりあきらめるってやつか。


「土曜日に言ったから、金曜日までって事でいいかな。分かりやすいでしょ?」


「……わかった」


「だからその後、週末にデートしよ。そこでお願いね」


「うん」


 俺にとってはこの一週間で全てが決まるのか。俺は奈保美と付き合っている。しかし、有佐への気持ちも捨てきれないで居た。俺が奈保美と付き合っていることに対し、有佐が不満を抱えているのなら、なにか行動を起こしてくるはずだ。


 でも、有佐が何も行動を起こさないなら、俺に対し何も思っていないってことだろう。おれはもうきっぱりと有佐のことを忘れるべきだ。


 そして、この月曜日。有佐の様子に大きな変化は無かった。昼休み、有佐と俺の間に会話は無い。おれはずっと奈保美と話していた。


◇◇◇


 火曜日の朝。今日も俺は奈保美と話している。


「今日、授業けっこうきついの多いよね」


「うん。眠そう」


「ふふ、眠らないようにしないと」


「そうだね」


「あ、寝ぐせついてる」


 奈保美が俺の頭をなでた。そのとき、後ろで大きな音がした。振り返ると有佐が本を拾おうとしている。机から本を落としたようだ。それを見て奈保美が言った。


「有佐、動揺してるのかな?」


「今更そんなわけないよ」


「そうだよね。金曜まであと3日。約束は守ってもらうからね」


「わかってる」


◇◇◇


 水曜日、奈保美が席を外しているとき、有佐が俺の席に来た。


「萩原君……」


「ん? 何?」


 またパソコンの話だろうか。


「えっと……その……」


「ん?」


「奈保美とはうまくいってる?」


「まあ、そうかな」


「……そうだよね。私、何言ってるんだろ。ごめん、忘れて」


「え? うん……」


 そこに奈保美が戻ってきた。それを見て有佐は席に戻っていった。


「何か言われたの?」


 奈保美が聞いてくる。


「いや、よく分からない話だった」


「だったら、何もしてきていないってことでいいわよね」


「……うん」


「はぁ……あと2日か」


 奈保美が言った。


「待ち遠しい?」


「そりゃあね。だって本当の恋人になれるんだもん」


「本当って……」


「そうでしょ? お互いがお互いのことを最優先するのが本当の恋人だよ」


「俺はそうしてるつもりだけど」


「私はいざとなったら有佐を優先させる、そう言ったでしょ?」


「え?」


「私は有佐の親友でもあるから。有佐が動いたら身を引くわ」


「そ、そうか……そう言ってたもんな」


「そうよ。だから、あなたの気持ちもあるけど私の気持ちもあるの」


「……やっぱり、奈保美はいいやつだよ」


「冗談でしょ。親友のことを好きな人と付き合って、最低なことしてるって自分でも分かってる」


「そんなことない。最高だよ。最高の恋人だ」


「……でも、政志にとっては2番目だけどね」


 俺は何も言えなかった。


◇◇◇


 木曜日、有佐は学校を休んでいた。


「奈保美は有佐から何か聞いているのか?」


「うん。少しきつい感じがするから休むって。熱は無いから大丈夫って言ってたよ」


「そうか」


「明日も有佐が休みだったら、もう決まりね」


「……そうだな」


「少しイレギュラーな事態かもしれないけど、約束は約束よ」


「わかってる」


 明日までに有佐に何も動きが無ければ俺はもうきっぱりあきらめ、奈保美と本当の恋人になる。

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