第15話 映画

 電車の中では、美柑、植田、麦島さん、俺、高田さんの順に座った。


「うーん、眠くなってきた」


 美柑が植田にもたれかかる。


「お前なあ、誰かに見られたらまずいぞ」


「大丈夫、大丈夫。サッカー部はみんなバス移動だからこんなところには居ないし。ちょっと甘えさせてよ」


 美柑が植田を上目遣いで見て言う。


「はぁ。勝手にしろ」


 そういう植田も顔はにやついている。可愛い子に甘えられて嬉しそうだ。


 それに対し、俺は右側に居る高田さんからすごく話しかけられていた。


「それでね、次に作ってみようと思ってるのは……」


 話題はやっぱりパソコンの話。俺は聞き役に回っている。

 ただ、俺の神経は左手に集中していた。左側に居る麦島さんが俺の手を握っているのだ。おそらく、高田さんには見えていない。


 俺はそれによって神経が研ぎ澄まされ、高田さんに振られたことも忘れ、以前と同じように話すことが出来ていた。


 10分なのであっという間に小川駅に到着する。俺たちは電車を降り、無料のコミュニティバスに乗ってイオンモール宇城に向かった。


 バスを降りると、ここで美柑とはお別れだ。


「うう、柳治君。しばしのお別れだね」


「お前、相良には言うなよ」


「え、何を?」


「手つないだとかだよ。お前が言うと俺が相良に怒られるんだからな」


「言わないから。でも、何か秘密の関係っぽくていいね」


「うるせえ」


「じゃあね!」


 美柑は隣のサッカー場に走って行った。


「愛しの彼女、居なくなっちゃったね」


 麦島さんが植田に言う。


「彼女じゃなくて彼女役な」


「じゃあ、ここからは私が彼女役しようか?」


「お前は萩原の相手だろ」


「萩原君は有佐が居るし」


 そう言って麦島さんは俺を見た。すると高田さんが俺の手を握る。俺は驚いて高田さんを見た。


「今日は私が萩原君の彼女役ね」


「う、うん……」


 そう言われたのに、俺はちょっと暗い顔をしてしまった。


「何? 何か不満ありそうね……。奈保美の方が良かった?」


「そうじゃなくて……彼女役か、と」


「あー、ほんとの彼女が良かったってことね。ふふ、そりゃそうか」


「なんだよ」


「別にそんなの気にしなくいいのに。今日は彼女やってあげるから」


「……いつも彼女役って感じで俺に接してたのか?」


「そういうわけじゃないけど……でも、そんな気持ちはあったかもね」


 これは勘違いしても仕方ないな。


「じゃあ、行こう!」


 結局俺たちは2対2で手をつなぎ、映画館に向かった。


◇◇◇


 映画を見終えた俺たちはイオンモールの中のアイスクリーム店に居た。俺は気になったことを植田に聞いてみる。


「なあ、植田。美柑とあんな感じで良かったのか?」


「ああ? あれか。あいつ相良が居ないといつもあんな感じだぞ」


「そうなのか。知らなかった」


「俺に限らず、すぐちょっかい出してくるからな。お前も気を付けろよ。相良がキレるまでがワンセットだ」


「こえーな、気を付けるよ」


 アイスを注文し、俺たちは席に座る。植田の横に麦島さんが座ったので、俺の横には高田さんだ。高田さんとは一緒に食事に何度も行っているが、麦島さんとは初めてだ。俺はアイスを食べる麦島さんをつい見てしまう。いつもの麦島さんと違って新鮮な感じがした。


「萩原君、何見てるのかな?」


 麦島さんを見ていた俺に高田さんが言った。


「あ、ごめん……」


 思わず下を向く。


「私なら見ていいよ」


「え!?」


 俺が高田さんを見ると、ここぞとばかりアイスをなめた。


「食べる?」


「い、いや……」


「有佐、今日は積極的ね」


 麦島さんが言った。


「うーん、だって萩原君が奈保美の方ばっかり見てるから」


「でも、有佐がそれに何か言う権利は無いでしょ? 有佐は萩原君を振ったんだし」


「そうだけど……萩原君は私のこと好きって言ったんだし。それで今は奈保美ばっかり見てるんなら、それが嘘って事になるでしょ」


「嘘じゃないよ。俺は高田さんが本気で好きだ」


 俺は改めて言った。


「奈保美より好き?」


 高田さんが聞く。


「もちろん」


「ふーん、じゃあいいけど」


 高田さんは少し不満顔でアイスをなめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る