『隣人の死』

職場でね。

隣の席に座っていた女性が、亡くなった。


アルコールで内臓を痛めていたのは、ずっと前から知っていた。

依存症専門の病院に通って、カウンセリングも受けていたのも知っていた。

そう言う人達が集まる、自助会に毎週通っていたのも知っていた。

それでも、時々、お酒を浴びるように飲んでいた事も知っていた。


それでも、まさか。

亡くなるとは思っていなかった。

病院も行ってるし、カウンセリングも受けているし。

依存症の人達と、冗談を言い合ったり、うまくやっていると言っていたし。

浴びるように飲むって言っても、毎日って訳でもなかったみたいだし。


まさか。

まさかね。

亡くなるとは、思わなかった。


冗談が好きでね。

普段は割と大人しいと言うか、気が利く人だった。

何も言わずに、他人の後片づけをしたりして。

それで、なんの文句も言わないような人だったんだけど。

冗談が、好きでね。

よく笑うんだ。


亡くなったって聞いた時、よくわからなくなった。

現実感て言うのかな。

本当に死んだのか、死んでないのか。

わからなくなった。

嘘であって欲しいとか、夢であって欲しいとか。

そう言う事でもない。

なんか、わからなくなった。


もう、あの人の冗談が聞けないのか。


もう、あの笑い声が聞けないのか。


それが、頭ではわかってるけど、納得しないんだ。

身体のどこかが。納得しないんだ。


別に、友達と言うほど仲良くはなかった。

取り立てて、恋愛感情みたいな物も、なかった。

たまたま、隣の席に座っていた、仕事の同僚。


それだけの。

それだけの関係だと思っていた。


でもさ。


もう、あの人の冗談が聞けないんだよ。


それを納得しないんだよ。身体のどこかが。

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