第5話 常連客の話し
その日は、予定していた観光地を回った。黒い影のことは心に引っかかったまま。夕方になると、憂鬱に感じつつ旅館に戻ってきた。
極力一人で居たくないと思って、玄関奥に有る共用スペースにいた。ソファに座ってスマホをいじったりしていると、ゴーンと柱時計が鳴る。見ると、24時を指している。
ふと、柱時計の下の本棚に、観光雑誌がしまわれずに本棚の上に置いてあるのが目に入った。面白い観光地も有るかなと、本棚へと立ち上がった時、後ろからスリッパの音が部屋に入って来た。
振り返ると、一人の老人と目が合う。老人はソファに歩きながら、顔をニコッと崩して「幽霊でも見ましたか?」と言い、ソファによいしょと座る。
この老人は黒い影について何か重要なことを知っているのか?それとも偶然の冗談か?俺は「幽霊がいるんですか?この旅館に」と訪ねつつソファに座り直す。
老人は「まあ100年も続く老舗旅館なんでね、創業者はじめ関係者も何人か亡くなっているのは当たり前ですね。幽霊もいるかもしれませんね」と。
俺は「厭なことを言いますね。でももし俺が本当に幽霊を見たと言ったら、どうします?」と言うと、老人は「やはり、あなたは何か見たようですね。黒い影ですか?私はこの旅館の常連で、毎年に三回くらい来ます。あなたみたいに、用も無さそうに、一人でこの部屋とか温泉とかウロウロしている人は、話しかけると大抵黒い影だの幽霊だの見たようなことを言います」。
俺は「あなたはこの旅館で幽霊を見たことが有りますか?」と尋ねる。
老人は「僕はそういうものを見たことはないですけどね。でもねえほらっ」と言って、俺に背後を振り返るよう指す。
言われた俺は、後ろに何かいるのか?とビクッとして、おそるおそる振り返る。だが、そこには壁と本棚が有るだけだ。
「何も無いですけど」と言う俺に、老人は「もっと良く見て」と言うのでまた振り返ると、「僕がこの部屋に入ってきた時、雑誌は本棚の上に有ったと思うんだけど、今はほら」。
言われて本棚を見ると、雑誌は本棚にきちんと並べられていて、俺はまた血の気が引く思いだった。
―
しゃべり終えた小田は俺に「どう思う?心霊現象は本当に有るのかただの勘違いか?」と聞いてくる。
ピスタチオの殻を割りながら俺は「さあね。神経や心理の理屈を用いたら、説明ならできそうだけど、証明はできないな。幽霊は存在するともしないとも言えないから、騒ぐこともないってことでいいんじゃない?」なんて言っておいた。
以上「夢と現の間に幽霊?【怖い話・体験談・幻想的・旅館】」。
夢と現の間に幽霊?【怖い話・体験談・幻想的・旅館】 KAKIKURA @KAKIKURA
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