『エリザベス・ラーガ・リリー・ハサウェイ』

エリザベス・ラーガ・リリー・ハサウェイ。職業不詳。年齢不詳、おそらく六十代。


「お時間を頂き感謝します、マダム。」


「私が後に呼ばれたということは疑いが薄いということかしら。」


「残念ながら順に意味などないですよ。」


「あら、嘘がお上手なこと。」


赤いドレスに紅口紅。それは目を惹く魅力を放ちながら、刺々しい攻撃性を感じさせた。


「それで何が聞きたいのかしら?私は死んだ商人のことは知らないわよ。」


嘘はついていないようだ。


「私が聞きたいのは貴方についてです。マダム。」


そう言うと彼女は脚を組んで股を露わにした。


「仮面で顔は見えないけど、貴方、私に惚れているの?」


「はは、滅相もない。貴方には御主人がいらっしゃるでしょ?」


「主人は亡くなったわ。三十年も前に。」


「それは失礼なことを。して、御主人はどんな方だったのですか?」


「馬鹿な人よ。周りに変人扱いされていた私に惚れて、毎日のように山奥の私の家に来たわ。それで若かった私も恋に芽生えて…どうでもいいでしょ?私の話なんて。」


「ええ、どうでもいいですよ。」


「は?」


彼女の顔がみるみるドレスと同じ色に変わっていく。


「どうでもいいんですよ。人の過去など。でも、そんなどうでもいい過去に彼等は縛られ、感化される。それが人生であり、人だ。貴方がそのどうでもいいと言った過去は、今の貴方に少なからず影響を与えている。つまりは、どうでもいいことが貴方を創り出しているのですよ。マダム。」


すると、落ち着いたのか、その視線を外へと移した。


「…私は間違ったのかしら。」


その問いの答えを私は知らない。しかし、これだけは言えた。


「人生の価値を決めるのは貴方では?」

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